02.大切なものを失くす痛み
ライトの母が、隣の街に行ったきり帰って来ないまま、ライトは誕生日を迎えた。
ライトは、机にうつ伏せになったまま寝息を立てて寝ていた。
外で何やら騒がしい。ライトはそう思い、おもむろに目を覚ました。
「う…昨日はあのまま寝ちゃったのか…」
少し頭痛がする。昨日は、母が帰ってくるのを深夜まで待っていたため、寝るのがいつもより遅くなってしまった。
しかし、いくら待ってもアミラが帰ってこなっかたため、ライトは粘った末に意識が遠のいてしまった。
そして今、外の喧騒によって、目を覚まされた。
「うるさいなぁ…何があったっていうんだ?」
そう思い、家の扉を開け外の声に耳を傾けた。すると、村人があっちこっちで話しているのが聞こえた。
「おいお前聞いたか?昨日の夜、隣町ではぐれ悪魔が大暴れしたらしいぜ」
「え?はぐれ悪魔って魔族の下僕だった悪魔が契約を解除されて、そこら辺を漂っている討伐対象の悪魔だろ?」
「そう。しかも今回のは結構の大物で、自衛騎士団が総出でやっと討伐したっていうくらい強かったて話だ」
「おいおい、それ犠牲者出なかったのかよ?」
「確か、犠牲者は十人ほどだったって聞いたぜ」
という二人組の若い村人が何やら話をしていたのが聞こえてきた。ライトは、更に男たちの会話に耳を傾けた。
「なんでその噂がこの村まで広がっているんだ?」
と、聞き手の男は尋ねた。
すると、男は黙って首だけをある方向に向けた。ライトも、男が向いた方向に顔を向けた。
そこには、村の広場があった。それは、いつもの広場ではなく、やけに人だかりができており、更には鎧を纏った騎士みたいな男たちが何人か佇んでいるのが遠くからでも確認できた。
ライトは、不思議に思い、人だかりのある所へ向かった。遠目で見た時には分からなかった光景がだんだん鮮明になってくる。
ライトは、人だかりの中心に倒れている女の人を見て絶句した。
広場の中心で騎士たちに囲まれながら倒れていたのは―ライトの母、アミラ・ネリウスだったのだから。
ライトの思考は一瞬停止し、ライトはその場に立ち尽くしてしまった。
そんなライトに向かって歩み寄る男性が一人いた。彼は、この村の村長である男だ。
村長は、この村の中では唯一ライトに親切にしてくれた人だ。その村長が今、ライトの前で立ち止まり言った。
「よく聞いてくれライト。あそこで倒れているのは、お前の母のアミラだ」
村長は、苦虫を噛み潰したような顔をしてライトに言った。
「そ、そんな訳ないお母さんは、僕のプレゼントを買いに行っていて…」
言う途中でライトは黙ってしまった。それは、目の奥から熱いものが滴り落ちたからだ。
そんな中、次に鎧の騎士たちがこちらに歩み寄ってきた。騎士たちは五人程度いた。その中のリーダー格の男性がライトに声をかけた。
「君がライト・ネリウス君だね。私は、隣街の自衛騎士団に所属している者だ。誠に遺憾だが、君の母は昨日の夜に起きた事件で命を落としてしまった。我々にも、責任があると思っている。本当に申し訳ない…」
と言った次の瞬間、男を含めた騎士たちが一斉にライトに頭を下げた。
「我々が彼女を発見した時には、ひどい重傷を負わされていた…街にいる治癒士の魔法をもってしても延命程度にしかならなかった…」
騎士の言うことにも一理ある。いくら町だとはいえ、ここら辺は辺境だ。すごい治癒士がいるわけではない。例え、ほかの町に呼びに行くにしても最寄りの街まではそれなりに時間がかかってしまう。
しかし、ライトはそれを受け止めることが出来ずに、アミラの下へと走っていく。そして、アミラの顔を見た。彼女は、安らかな表情で目を閉じていた。しかし、それは寝ているのではなく、紛れもなく息絶えていた。ライトは、母アミラを抱き寄せ大声で絶叫するように泣いた。
「お母さああああああん!!!!何で…何で!!何で僕を一人にするの…どこにも行かないって言ったでしょ!!一人にしないって言ってくれたのに…どうして…」
その後もライトはひとしきり泣いた。
ライトの中には、色々な感情が渦巻いていた。母を殺した悪魔への殺意、騎士団への怒り、たった一人だけの大切な人を失くした悲しみ、絶望、そして、事件当時に何もできなかった自分への自責の念。それらが、ライトを苛んだ。
あの時にこうすれば良かった、あそこでこう言えばよかったと、後悔するが、後の祭りだ。そうこうしているうちに、ライトは寝静まり、その場に倒れてしまった。