女々しい趣味だけれど
お願いしますってなんだ、と首をかしげながら、アレンは暗い声で返答する。
「でも、僕はほんと駄目な奴ですから……勇者のくせになにもできないし……唯一の趣味なんか花ですよ。笑っちゃいますよね」
「花……? 花が好きなんですか?」
ミレーユの顔色が、わずかばかり明るくなった。
「どんな花が好きなんですか?」
この趣味を掘り下げられるのは初めてだった。内心で驚きながらも、この話題だけはアレンもつっかえることなく返事することができた。
「プレミラとか、ノースポールとか、ユリオプステジーが好きですけど……」
「あ、全部黄色い花ですね」
「え? わかるんですか?」
目を丸くするアレンに、ミレーユはふふと笑った。胸元にぶらさげていたペンダントを首から外し、円状のそれをパカッと開ける。
「あ……」
その中身を見て、アレンは思わず驚きの声をあげた。
そこには、可憐に花が咲き乱れる、『フェレムの花園』の丸い写真が収まっていたのだ。数秒間その写真に見入ってから、アレンは呆けたような声をだした。
「『フェレムの花園』……好きなんですか?」
「はい。子どものころ、お父様や兵士さんたちの目を盗んでよく行きましたから」
「い、意外とすごいことするんですね……」
とはいえ、その点においてはアレンも人のことは言えない。女々しい趣味だと罵られながらも、こっそりと『フェレムの花園』にやってきては花の観賞を満喫していたからだ。
しかし、だとするなら、すこし聞きたいことがある。
「えっと……たぶん、ですよ? 昔、僕と同い年っぽい女の子が、『フェレムの花園』でひとりで遊んでましたが……その子、知ってます?」
幼少期から人見知りだったアレンには、当時から女の子に話し掛ける度胸すらなかった。
すると、ミレーユは重ねた両手を口の前にやり、「えっと……」と考えるような素振り見せた。
「私も、よく同い年の男の子をあそこで見たような……」
そして、二人は互いを指差し、大きな声をあげる。
「あの子がミレーユ姫ですか!」
「あの子がアレンさんですか!」
「やっぱりそうですよね!」
「はい、たぶん!」
「すごいなあ、昔から僕たち知り合ってたんだ!」
「わ、私もびっくりです!」
「ミ、ミレーユ姫はたしかユミニスっていう赤い花をずっと見てましたよね!」
「はい、私ずっとあの花が好きで――」
気づけば、アレンは夢中になってミレーユと花について話しあっていた。花のどんなところが好きなのか、どのくらい『フェレムの花園』に足を運んだのか……
どれくらいの時間が経っただろう。スカルナイトのガチャガチャという足音に気づき、二人は知らず知らずのうちにぶるっと身体を震わせた。足音が遠ざかっていくのを聞き届けたあと、二人でほうっと安堵の息をつく。