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勇者なのにクズ

 男はふんと鼻を鳴らすと、ぶっきらぼうにアレンに手を差し伸べてきた。ぎこちない動作でそれを受けるアレン。


 男の名前はリュザーク。全身を黒い鎧で包んだ、長身の槍戦士だ。これまた黒い兜がリュザークの顔を覆っている。そのせいで彼の素顔を見た者はおらず、同じ『勇者メンバー』であるアレンさえ、彼の顔を拝んだことはない。三ヶ月もの間『クリスタル』を求めて旅をした仲だが、あまり会話したこともなく、正直いって謎めいた存在である。


 いかにも悪役っぽい風貌だが、見ての通り凄腕の槍使いである。ルーラル大陸一だと言われるほどだ。巨大な槍を片手で振り回し、しかもその動きは『漆黒の絶影』という異名を取るほどにすさまじい。アレンを含む四人の『勇者メンバー』のうち、リーダーを務める男でもある。


 と――


「きゃあ、リュザークさまー!」

「こっち見てー!」

 ふいに周囲から大歓声が沸き起こった。ひえっと肩を竦ませ、アレンは周囲を見回す。

 リュザークの活躍を見ていたらしい、アスガルドの国民たち――その多くが若い女性や子どもである――の声だ。彼らはみな一様にリュザークやアレン以外の『勇者メンバー』に歓声をあげている。たまたま遭遇したカマキリンの群を、さしたる苦労もなく全滅させたからだ。


 ほんのわずかな期待を込め、アレンは自分を呼ぶ声を探す。しかし。

「ほんとザコいな、クズ勇者!」

 いつのまにやってきたのか、まだ十歳にも満たないであろう男の子が、アレンの頭をぶん殴った。



「いてっ!」

 涙目で、アレンは自分の頭を覆った。そんなアレンの反応が面白かったのか、子どもはポカポカとアレンを殴り続ける。聞けば、他の小さな子どもたちまでもが、「クズ勇者―」「勇者なんかやめちまえー」といった罵詈雑言を浴びせてくる。アレンは涙目で言った。


「ちょ、ちょっとやめて」

「やめるかよぉー、このクズ勇者ぁー」

「だからやめてって……」


 アレンが情けなくも逃げだそうとしたとき――


「こら」

 リュザークがすこしばかり優しい声で子どもの襟首をつまむ。

「そんなに人を殴るもんじゃない。自分だって同じことをされたら嫌だろう」

「はい……ごめんなさい」


 すると、さっきまで聞き入れの悪かった子どもが、素直に言うことを聞くではないか。しまいには「リュザークかっこいいよねー!」「どうやったらあんなに強くなれるの?」などと言い出す始末である。


「……おまえが大人になったら、きっと俺より強くなるさ」

 リュザークは子どもの頭にぽんと手を乗せる。『漆黒の絶影』に誉められたその子どもは、満面の笑みで「あ、ありがとう!」と礼を言うと、人だかりのなかに消えていった。

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