表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

ぱんつ

「――さんっ! アレンさんっ!」

 意識が戻ったのは、そんな涙声に呼ばれてだった。


 薄く目を開けると、金髪ショートヘアの女の子がドアップで視界に映っていた。人形のように丸い碧眼はぐびゃりと歪められ、とめどなく涙を流している。小柄で丸みを帯びたその可愛らしい顔は、たしか――


 アスガルド城のきさき、ミレーユ姫。


「えっ? あっ、痛っ!」


 驚愕して上半身を起こそうとしたアレン、燃えるような激痛を全身に感じ再度仰向けになる。そうだ、さっきまで自分はリステルガーと闘っていて、それで……


 それで?


 声をだすだけでも身体がギシギシ痛む。アレンは顔をしかめながらも、かすれ声を発した。


「ミレーユ、姫……。リステルガーは? 僕は、勝ったんですか……? それに、なんでいまあなたがここに……?」


「ふふ、勝ったぞ。アレン、よくやった」


 ふとかけられた男の声に、アレンは仰向けのまま目線を移す。そして息を呑んだ。兜を完全に脱いで、優しそうな素顔を晒したリュザークがそこにいたからだ。紫色の長髪が腰のあたりまで伸び、面長の顔と、優しそうな瞳。やはりイメージとギャップがありすぎて驚きが隠せない。


 そんなアレンの心境を知るよしもなく、リュザークは、ふふと笑った。


「そこのミレーユ姫は、魔王が消滅した途端、光に包まれた状態で現れてな。彼女もしばらく意識がなかったんだが、目が覚めるなり、きみのところに飛び込んで――」

「あっ、リュザークさんいいです、そこの部分は言わなくて!」


 顔を真っ赤にして止めるミレーユに、大勢の苦笑の声。どうやら、自分たちは大勢の国民に囲まれているらしい。


 そっか、僕、勝ったんだ――

 目を閉じて感慨に浸っていると、ふわりとした感触がアレンを包み込んだ。何事かと目を見開くと、ミレーユの可愛げな顔が眼前にあるのに気づく。なんと彼女、大衆の前でいきなり抱きついてきたのだ。


「ひ、ひえっ」

 今度こそ卒倒しそうになるアレン。

「な、ななななにすんですか! こんなとこで!」

「ありがとうございます。この街を救ってくれて。――行きましょうね、『フェレムの花園』に」

「え、いや、その……はい」


「ほう、ミレーユ姫、いつのまにアレンと捨て置けない関係になっていたのですな」


 珍しく軽口を叩くリュザークに、大衆の笑い声が――嫉妬の泣き声もなかにはあるが――響きわたった。その発言に、アレンもミレーユも慌てて顔を蒸気させる。


「これは素晴らしい! 世界を救った勇者とミレーユが恋仲か!」


 と、さっきまで泣き喚いていた国王が、ふくよかな腹をたぷんたぷん揺らしながら豪快に笑った。国王はアレンとミレーユの肩に手を置き、にんまりと笑う。


「アレン殿なら異論はない。どうだ、明日にでも結婚式を開いてやろうぞ!」

「け、結婚……?」


 あまりにぶっ飛んだその単語に、アレンは本当に目玉が飛び出そうになった。ミレーユも相当に恥ずかしいらしく、アレンからさっと離れて反論する。


「き、急すぎますよ! まったく、お父様はいつも勝手なことを……」

「まあまあ、いいではないか! 善は急げというであろう!」


 がははと愉快そうに笑う国王と、「もう!」と言いながら頬を膨らませるミレーユ。


 気づけば、さっきまで立ち込めていた黒雲はどこへやら、暖かな陽光がアスガルド城を包み込んでいた。そのふわりとした心地よさに、アレンはかつてない開放感に見舞われる。鳥の穏やかなさえずりや、人々の談笑。


 それらを聞いているうちに、アレンの表情も自然に和んでいく。


 ――のだが、立ち上がったミレーユのパ.ンツが見えそうになったので、慌てて目をそらした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ