決戦
敵モンスターは城内のいたるところで待ち構えていた。門前や回廊、小部屋や階段……さまざまな場所から数多くのモンスターが襲ってきたが、アレンが退くことはなかった。疲労している身体に鞭打ち、すべて倒していく。
いまのアレンにとって、彼らはもはや恐れるに足らない存在だった。さすがにドラゴン型モンスター『ギルディアス』を目の当たりにしたときは腰が引けてしまったが。
リステルガーだけはどこにも見当たらなかった。残る場所は屋上しかなく、だからアレンはいまそこに向かっていた。
螺旋状の階段を歩きながら、アレンは耳を澄ます。
やはりというべきか、上のほうから闘いの声が聞き取れる。
国王の声……リステルガーの声……それから、『漆黒の絶影』リュザークの声。他二人の勇者メンバーも屋上にいるようで、熱気に満ちた声とともに激しい闘いの音が聞こえる。
しめた、とアレンは思った。リュザークたちがいるのなら、形勢は一気に有利になる。リステルガー討伐もそう難しいことではないはずだ。
期待に胸を弾ませ、階段の一段一段を踏みしめる。そして、最後の一段を昇ったとき――
アレンは、その惨状に思わず足を止めた。
アスガルド城の屋上。城下町の地獄絵図がまるまる見渡せるそこで、アレンの予想だにしない光景が広がっていた。
あの『漆黒の絶影』が、魔王リステルガーになすすべもなく押されていた。自慢の槍もスピードもまるで魔王には命中せず、魔王の放出する大蛇に噛み砕かれ、聞くに耐えない悲鳴をあげる。他の勇者メンバー二人も、たったいまやられたのか、倒れたまま身じろぎもしない。
アレンは呆然と立ち尽くした。あのリュザークが苦戦している姿など、いまだかつて目にしたことがなかったからだ。
屋上の隅では、国王と王妃が縮こまってリュザークの闘いを見守っていた。だが、彼らの目にすでに光がない。
断末魔の悲鳴が響きわたった。目を向けると、肩をおさえて悶絶している『漆黒の絶影』の姿が――
「リュザーク!」
気づいたときには、アレンは駆け出していた。リュザークの上半身を支えると、リュザークは「アレン……か?」とちらとこちらを見やった。直後、今度は大量の血を吐く。アレンはリュザークの肩を揺さぶった。
「落ち着いて! このままじゃ、死……」
「勇者……アレン……」
アレンの声をさえぎり、リュザークは震えながらもこちらを見上げた。そしてはっとする。激闘の名残か、彼の顔を覆っていた黒の兜が砕けている。これまで決して見ることのなかった彼の素顔に、アレンは息を呑む。そこにあったのは、予想していた豪胆な顔とはまるで逆、むしろアレンに近しいものがある、優しげな顔だった。
リュザークはアレンの肩に手を置くと、最後の力を振り絞るように声をだした。
「アレン……任せられるのは、もはやおまえしかいない……」
「もういいよ、声を出しちゃ駄目だ!」
「――この国を、国民たちを、守ってくれ……た、たのむ」
それだけ言うと、リュザークの目がゆっくりと閉じられた。全身の力が落ち、そのままぐったりと静止する。慌てて脈を確認し、気絶しているだけだと知ってほっとする。
だが――
「勇者アレン……? 馬鹿な、あのときたしかに殺したはず――」
「魔王、リステルガー」
アレンは憎悪の目を魔王リステルガーに向け、腰の鞘からゆっくりと剣を抜き出す。
「許さない……おまえだけは……」
果敢に剣をかまえ、怒涛の叫び声を発す。
「絶対に僕が倒す!」