勇者の恋
情けなすぎる励ましに、アレンは別の意味で涙がでてきた。嫌われたんじゃないかとおそるおそるミレーユの顔を窺う。彼女はぽかんと口を開け、それから掠れた声で言った。
「アレンさんも……誘拐されたんですか?」
「はい」
「勇者、なのに?」
「……はい」
わずかな沈黙のあと、ミレーユはくすりと笑った。
「あはは……なんですかそれ。全然『勇者』じゃないじゃないですか」
「うっ……そんなズバリと言われるとけっこう傷つくんですけど……」
本気で落ち込むアレンに、ミレーユは「あ、ごめんなさいごめんなさい! ほんとごめんなさい!」と大真面目な顔で謝罪してきた。そのさまに耐え切れず、今度はアレンがぷっと吹き出す。そしてミレーユが「もう!」と頬を膨らませる。
アレンの頼りない励ましは、結果的には場を明るくするのに成功したようだ。ミレーユはまっすぐこちらを見つめ、笑顔の花を咲かせた。
「――よくわかりませんけど、なんとなく気持ちが軽くなりました。ありがとうございます、アレンさん」
突然、アレンは胸の奥がズキュンと激しく痛むのを感じた。心臓が激しく高鳴る。全身が熱くなる。
身をガチガチにしたアレンに、ミレーユは目を点にした。
「あれ? どうしたんですか?」
「な、なななんでもないです!」
アレンはざっと立ち上がり、近くにあった宝箱をまさぐりながら、演技っぽい声を発した。
「あー! いい武器ないかなぁー! どっかにあると助かるんだけどなぁー!」