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屋根裏部屋の小説家  作者: 鈴代なずな
42/53

42話

 完全な昼の光が差し込む町を歩く女。

 ここは唯一と言っていい、彼女が街路を堂々と、それも白昼に歩くことのできる町だった。

 その新鮮な体験に身震いのようなものまで感じてしまう。ただし実際に彼女を震わせたのは、冷風だったが。

 そこには寒々しい空気が流れていた。気配はもちろん、実際の気温も他の町よりずっと低いだろう。仕方のないことだと、女は認めた。例え昼の日差しの中であろうと、この町に温度を上げるものは何もない――滅びた町なのだから。

 噂のみならず、真に無人の町である。女はそこを、腐敗した町だと想像していた。

 しかし思ったよりも腐食は進んでおらず、街路の石はめくれていないし、木造家屋も崩れていない。それでも一応、無人となってふた月以上が経過した程度には廃墟化していたが。

 加えて言えば、当たり前だが徘徊する死者の姿もなかった。影を消し去るほどに明るく照らし出される町の中には、女と風以外に動くものはなく、抜け殻のように静まり返っている。扉が開きっ放しになった宿の中には何も落ちていなかった。

 それらをきょろきょろと見回しながら、女は思い出す。近隣の町で聞いた声。

「あの町に行った男の子、なんていったかしら。ほら、ひとりだけ帰ってきた子」

「結局あの子、何も喋らなかっわね」

「一緒に行った奴が目の前でゾンビになったって噂だ」

「あのガキもひょっとして……なのか?」

「じゃあ、やっぱりこの町にも侵食が……」

「やめろって! そんなこと言われると……」

 町には恐怖が満ちていた。

 隣人に怯え、眼前に竦み、人と人とが距離を取り、右往左往と逃げ回る恐怖。その強く、深く、内に閉じこもる感情は、なんらかの衝撃で爆発を起こしそうでもあった。

 そうした恐怖の根源である町を歩きながら、女はここにも恐怖は潜んでいる気がしていた。恐るべき真実を暗示する邪悪が隠されているのではないか、と

 それを見つけようとしたわけではないが――女はふと、教会へと足を向けた。当然だが、焼け落ちてなどいない。しかし代わりとてつもない腐敗臭を感じて、女は教会の裏手へと回り込んだ。そこは墓地になっている。

 女はその一角に奇妙なものを発見した。脱ぎ捨てられた衣服のようでもあるが、吐き気を催すほどの腐敗臭の根源がそれであることは明白だった。

 近付いてみると、それは実際に破れた衣服の束に見えた。ただところどころ、手や指ようなのものもあり、風が吹いたせいでそこに乗っていた毛が散っていく。装飾として衣服に付いていたものだろうと思ったが……女はそれを見送りながら、なんらかの冒涜的な、胸のむかつく不気味な邪悪の予感を抱いていた。

 臭気を別としてもなお、その場に佇み続けることすら心苦しく、女はすぐに立ち去った。

 滅ぼされた宿場町エンダストリ。

 無人の町は日差しの中、亡者と同じ無言で彼女を見送った。

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