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屋根裏部屋の小説家  作者: 鈴代なずな
19/53

19話

 結果として――少年はひたすら防御に徹さなければならなくなり、全力を込めた捨て身の攻撃を受け続けることになった。

 受け止め、弾き、避ける……しかし魔物はほとんど無尽蔵の体力――身体を再生させるほどの体力――を持つというのに、ハーリットはあくまでも人間である。しかも魔物の全力に晒され続ければ、やがて息も切れ、受け損なう場面も生まれてしまう。

 実際に――ハーリットは牽制の投擲攻撃を避けたあとの一撃を受け止めきれず、腹部にすくいあげるような頭蓋の杖を叩き込まれ、上空にまで吹き飛ばされた。

「っぐ、げは……ッ!」

 一瞬の空中浮遊の後、どがっと床に背中を思い切り打ちつけ、息を詰まらせる。そこに割れた椅子の欠片などが突き立っていなかったのは幸運だった。周囲は踏み荒らされたように、粉々になった砕片ばかりが散らばっている。

 よく見れば、そこは最初にランプを置いた場所だった。おかげで周囲の状況も、傷だらけになった自分の身体も――そしてゆっくりと歩み寄ってくるネクロゴートの姿も、ハッキリと見ることができた。

「あははっ! これでまた町の住民がひとり増えるね! 安心していいよ、ハーリットくんにはちゃんとあの宿を手配してあげるからさぁ!」

 遠くではミゴペインの大笑、あるいは嘲笑が響いている。何か皮肉を言い返す力もなく、そもそも目の前の魔物に対抗するのも困難だった。

 一応、辛うじて身体はまだ動くようだ。しかし相手を細切れにする力も、飛び退いて逃げるほどの力も残っていない。

(終わりなのか? こんなところで……?)

 父親を見つけ出すことも、『屍旅団』を打ち倒すことも、憎きミゴペインを討ち果たすことも、目の前の魔物一匹すら倒すことができないまま――?

(何か手はないのか? どうすればいい? どうすれば、せめてこの魔物を……)

 ネクロゴートが口を開ける。町の人々にそうしたように。体液を滴らせることはないが、それと同じ気配で牙を見せつけながら、動かなくなった獲物を自分の糧にしようと――

「アンデッド化させる魔物は見たことがない。しかし身体をある程度再生させる魔物は見たことがある」

 と、その時。聞こえたのはアルフレドの声だった。やや遠く、しかしハッキリとこちらに向かって。

 そして次の瞬間、ばぎんっと瓶の割れる音を響かせながら、何かが魔物の頭部に炸裂し、中の液体をぶちまけた。

 その正体は臭いによってすぐにわかる。酒だ。アルフレドが飲んでいた、高濃度の酒。

 ネクロゴートは混乱したのか、反撃するべきか先に獲物を殺すべきかと逡巡したのか、その場で動きを止めていた。そうする間にまたアルフレドの声が聞こえてくる。

「リィンズィ・エイプというレッティ科の魔物だ。トカゲに似た形をして、切られた尻尾や腕を生やしてみせたが、それでも殺すことは可能だった――灰になっても再生する魔物というのは見たことがない」

 ハーリットは、その言葉の意味をすぐに理解した。軋む身体を全力で動かし、ランプを引っ掴むと、それを魔物の頭部に思い切り叩き付ける。

 再び割れる音が教会に響き渡り、火がランプから外に溢れ出す。同時に――ごぅっ! と酒まみれの魔物の頭が燃え上がった。

「ルグォォアァアアッ!」

 悲鳴なのか、怒りなのかはわからない。しかしネクロゴートは声を上げると、頭を抱えるように身悶えた。炎はすぐに魔物を包んでいた布に燃え移り、全身を紅蓮に染め上げる。

 一瞬にして、ランプは大きな火柱へと変わり、薄暗かった教会の中を赤く、背徳に照らし出した。それは床の板にも燃え移ったらしく、ばちばちと火花を上げながら、建物全体を包み込もうとしていく。

「ハーリットくん、早く! こっちだ!」

「ぅ、ぐ……」

 一気に膨れ上がった熱の中、立ち上がれずにいると、アルフレドが駆け寄ってきた。そして少年の身体を抱き上げると、肩を貸しながら急いで出口へと向かっていく。

「ミゴペインは……」

「今はそれどころじゃない、ここから脱出するのが先だ」

 ふたりは辛うじて、炎が指を伸ばすよりも早く扉をくぐり抜けることができた。

 その間際、ハーリットは教会の中を振り返ると、そこで崩れ落ちて燃え盛る魔物の奥に、不気味な微笑を浮かべる女冒険者の姿を見た気がした――

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