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屋根裏部屋の小説家  作者: 鈴代なずな
12/53

12話

 しばらくして、辿り着いたのは通りの中腹にある、並んでいる宿のうちの三つ目だった。

 そこを注視したのは足跡を辿ったためではない。道は相変わらずでこぼこと荒れていたが、他の足跡は見つけられなかった。もっと別の単純な理由である。建物をひとつずつ確認して、三つ目の宿に入った時、気になるものを発見したからだ。

 薄暗い天気も相まって、明かりを点ける者もいない店内は夜のように暗く沈んでいたが、なんとか視認することはできる。一階は酒場、二階が客室になっている宿らしい。

 単なる閉店時間だとでもいうように、内装はほとんど元のまま残っているようだった。四人掛けの丸テーブルが三つ、カウンターの中には酒瓶の並ぶ棚がある。椅子がいくつか蹴倒され、板張りの床に割れた瓶が転がっているのも、酒場としてはままある光景だった。それぞれ腐食が始まっているようではあるが、ごく平均的な酒場に見える。

 店の奥には二階へ続く階段があり、気になったのはそこだった。正確にはその下、だろうか――そこに一本の剣が落ちていた。

 慎重に店内に入り、ハーリットがそれを手に取ってみる。小振りで軽いが、芯が折れ、先端が曲がっている。近くの壁には深い傷があり、そこに叩き付けたせいでこのような姿になったのだろうと推測できた。床に木屑が散らばっているが、他には何もない。

 これがたった今ここに置かれたものなのか、ふた月前の惨劇を体験したものなのかを、剣の使用感から遡ることは難しい。少なくとも、たった今購入したばかりのものとは思いがたいが。

「魔物が武器を扱うことは?」

「ブランキ科、あるいはアーイッム亜目の魔物は石や枝を利用する。ただし地上で剣を振り回す種族は聞いたことがない」

 剣を品評しながらの問いに、アルフレドは研究者然として即答してきた。もっともハーリットも、魔物のものだと考えていたわけではないが。

 いずれにせよ、足跡の主がここに入ったかどうかは判然としなかった。

 あるいは入っていない公算が大きいかもしれない。もしもこれが足跡の主以外のものだとしたら、怪訝に思わないはずがない。この町へ来た目的にもよるが警戒して避ける可能性の方が高い。何者かが、ここに潜む敵に襲われたように見えるからだ。

 しかし逆にだからこそ入ったという可能性も捨てきれない。そう思う理由は――すぐ近くにあった。

「とにかく、二階へ行ってみよう。何かわかるかもしれない」

 研究者がそう言いながら、ハーリットを先行させる。少年は肩をすくめながらも、それに従って階段を上がっていった。ぎしぎしと危うげな音を立てる木製の階段に心細さを覚えながら、二階に辿り着く。

 そこには人がふたりほど通れる程度の廊下が伸び、左手側には鎧戸を失った窓が四つ、右手側には窓と同じ数の、客室の扉があった。窓のおかげで、一階よりは多少採光が成されているようだが、それでもなお薄暗く、僅かな光が却って不気味さを醸し出している。

 部屋の扉は全て木製で、なんの飾り気もない。ついでに言えば、手前の二つはドアノブもなかった。外れて床に転がっている。

 しかし何よりも奇妙だったのは――一番奥の扉が開かれていることだった。

 手前側に開く扉が半分ほど開き、廊下を窮屈にしながらハーリットたちに木目模様を晒している。

 ふたりは無言で顔を見合わせ、少年の方がゆっくりとそこに近付いていった。足音を立てまいとするのは無駄なことで、一歩進むたびに床板が軋む。それでもできるだけ静かに進むと、扉の前までは何事もなく到達することができた。研究者は階段を上りきったままで止まっているが、その方がいいだろう。

 ハーリットは扉のノブに手をかけた。鉄製のノブは特有の冷たさと埃のざらざらとした感触を伝えてくる。息を整え、室内の気配を探るが、物音ひとつしない。とはいえこれがなんらかの罠であるなら、そのような迂闊なことはしないだろう。

 そう、じっと息を潜め、獲物を待ち受けているはずだ。そして自分の口の中に飛び込んだ瞬間を狙っている。

 ハーリットはそう考えながらも、ドアノブを強く握り締めた。そして――

「出てこい、相手になってやる!」

 ガンッと扉を強く引き開けながら叫び、部屋に飛び込む! と同時にすぐさま剣を抜き、構えて……!

「…………」

 しかし、それに返ってくるものは何もなかった。少年の声だけが空しく、ぼろけた客室の中に響き渡る。

「……誰もいないようだな」

 追いついてきたアルフレドが、少年の脇から顔を出しながら言ってきた。

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