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吸血鬼は魔法少女を狩る  作者: 川端 創
吸血鬼は魔法少女を狩る
3/3

3 学校って

すごく長い登校中の自分語り。

最寄駅。


僕が通う光文館大学附属高校という学校においてそう言うにふさわしい鉄道駅というのは一つある。

都会人から見てしまえば一つしかない。というニュアンスになるんだろうか。


都会には駅、というか鉄道路線がまるでクモの巣のように張り巡らされているのだものな。

あいにく僕は首都圏へ降り立ったことはないため経験則にのっとった話をすることはできないがとりあえずそういうことなのだろう。


まあ都会の話を引きずるならば、行ったことがある、というレベルなら僕はそう遠くない京都へなら行ったことがあるな。一応あそこは都会に入るだろう。政令指定都市だし。


中学校の修学旅行の出来事であってそう深く広く京都を巡ったわけではないが、あそこは結構鉄道が張り巡っていた記憶がある。

嵐山というかの有名な観光地をわいわい訪れた際に数本の電車を乗り継いでかの観光地にたどり着いた思い出があるし、その他結構京都の鉄道事情は思い出深い印象がある。


もう三年ほど前の話だが。


路線の乗り換えとか複数の鉄道が多方面へ走っていないと根本的に不可能だからね。



話を戻そう。



この禊原市には、鉄道はわずか二本しか通っていない。いや、通っている。

あえて運営している鉄道会社名は伏せるがその名前は至極単純、南北線と東西線だ。


文字通り、北と南、東と西をつなぐ鉄道路線である。

禊原の南の市から南北線が入ってきて禊原の一大ターミナル駅であるところの禊原駅で禊原市を横断し、東西の市をつなぐ東西線と交差している。


禊原市唯一の乗り換えスポットはこの禊原駅、ということだ。


一大ターミナル駅である禊原駅ともなるといくら田舎町とはいえども賑わいを見せる。


駅前はそこそこ著名な百貨店で占められて土日はカップルや家族連れでにぎわうし、禊原マダムたちもその近くの高級スーパーで食料品を調達するそうだ。


かの僕の愚妹(ぐもうと)桐子も土日は歓楽街の集まる駅周辺へわざわざ電車に乗って遊びに出かけている。


最近の若い女子はめんどくさいよな。

僕なんか休みの日はずっと家に引きこもっているのに。


べつにそっちのほうがいいとまでは言わないが、というか友達と遊ぶ方がよっぽど健全だし。


でも僕のように引きこもっている方が精神衛生上ずっと楽じゃないだろうか。人の目も気にせず生きていけるという面じゃ。


まあでも、そういう付き合いは女子には昔からあるか。めんどくさくなったのはスマートフォンの普及によるSNSの付き合いなのかな。ああいうのを見た後は女子じゃなくてよかったと切実に思う。


僕のスマートフォンにも著名な無料通話アプリがインストされているけど両親や桐子以外に友達がいない。(もちろん電話帳登録に似た意味合いの友達だ。まあ実際友達は少ない方なんだけども)

桐子のアイコンは知り合いと取ったであろうキラキラした自撮りだった。


いかにもなああいうタイプの中学生だ。


友達と遊びに行った後は楽しかったねみたいなタイムライン?的なのもアップしていた。

桐子は親にはアカウントを教えていないからか母さんも父さんも特に何も知らない。

そういうのに疎い父さんと母さんのアイコンは初期設定の登録されていないグレーな状態だ。もちろん僕も。すごく殺風景なのはご愛嬌。


こうやってみるとケバイ妹が明らかに家で浮いているのがわかる。


わが妹もそういう付き合いで苦労していないといいのだが。


例えば、SNSの誹謗中傷のイジメとかさ。


ああいうのはほんとに怖いからね。

男の僕でさえ悪寒を感じる。

いくら愚かな妹とはいえそこらへんは兄として、一人の家族として不安になる。



一番最初の最寄り駅の話に話題に話を戻すと、光大附属の最寄り駅はその駅の主な用途が示す通り光大附属前駅という駅名だ。

駅名に大きく光大附属と使われているのは、なんとも立地が良いとは言いにくい場所に位置しているために光大附属の周辺住民は基本電車ではなく車で外出してしまうからだ。


端的に言えばこの駅は光大附属の生徒くらいしか使う人がいないのである。


というのも光大附属はそのべらぼうに高い学費と維持費のおかげで全国でも有数の最先端の設備を持っており、その広さは小さな大学なら優に超えてしまう。


合計の広さまではわからないがスポーツ推薦も存在するわが校はバスケやバレーの室内競技のみならず、サッカー、ラグビー、アメフト、野球で結構な強豪ぶりを見せているらしく、全面芝のサッカー場が一面、全面芝のラグビー場がさらに一面。さらにさらに全面芝のアメフト場までもが一面。野球場も芝が張ってあるらしい。


それでさえかなり巨大な敷地が必要になるが、その上全国でも結構なマンモス校である光大附属の全生徒を収容する、僕が入学した年に完成した高校校舎、バスケ部やバレー部が満足に練習できるだけの設備を持ち、もはやアリーナとさえ言えそうな規模の体育館、昼休憩には全生徒を収容可能なカフェテリアという欧米チックな肩書きの食堂を持つせいでとんでもない広さになってしまい、その用地買収のために買われた土地は、周辺がほぼ畑の土地であったのだ。土地としては禊原市の辺境のもいいところだ。


東京と較べたら、比にもならないような田舎である禊原に暮らす連中にさえ「秘境」の馬鹿にされるような場所なのだ。


学校周辺は農家の人々が野菜の様子を見に軽トラでくる以外に地域住民はいないも同然の過疎地域だし。


校内で広まる学校都市伝説のようなものでは、もともと住んでいた人を光大側が追い出し、余った土地は一面畑にするしかなくなってしまったという話も聞くが、もともとド田舎であるというのは確からしい。

光大附属も、母体の光大すら設立されたのは意外と最近の話なのだが、ことの真相はこれまた意外にもよく分かっていないのだ。

最近の話なら分かりそうなものだと思うけど。


まあようは、最初から家やマンションがこの地区には建っておらず人がすんでいないから駅のユーザーが最初からいないということだ。

これでは商売のしようもないだろう。


元はこの地域の地名が駅名になっていた、路線での利用者がほぼゼロで廃止も検討されていた駅らしいが、この地に光大附属が設立されたのと同時に現駅名に変更され、光大附属の生徒が大量に使い始めたってことらしい。


僕の家も禊原市の中心からは九か八駅ほど離れてはいるが、光大附属の最寄りには、そこから七駅を要し、やっとたどり着く。


立地がここまで悪く、金もかかるのに人がここまで集まるのは設備と進学実績もあるではあろうが、どちらかというと地域の、公立の高校の実績が伸び悩み、元進学校すら生徒の質が落ち、不良学校になり下がってしまっているというのが現状だからだ。


禊原含み周辺の地区で京大やらの旧帝を目指せる公立進学校としての立場が未だあるのは禊原市街に位置する都会学校、古い言い方をすればシティーボーイ、ガールの集う由緒正しい(らしい)県立新橋高校と別の地区にあり学区制の名残で現在も公立の中では新橋高校とその人気を二分する県立石舞台高校くらいのものだろう。


これら二つは未だ人気は絶大で、光大附属の四割の生徒は二校の受験に失敗した生徒で構成されているといっても過言ではない。

まあ僕は最初から光大附属の普通科が志望であったのだけど。



そんなこんなでこんな雑談をしているうちにどうにか件の光大附属前駅まで電車に揺られてきた僕は、無事壮大な光大附属の正門前までたどり着いた。


目の前に広がるのは右手にラグビー場、左手にサッカー場、それを貫く校舎への道。


正門は文明開化の明治時代を想わせる赤レンガ作りで、その西欧風な外見はなかなか壮観だ。


初めて訪れる受験生などにも評判がいいと聞く。


正門の内側にある、レンガ造りの威厳に溢れる正門と調和するように作られたレンガ造りの小ぶりな守衛所に常駐の警備員の姿が見えた。


なんか少し気まずいな。


別にあっちは僕のことなんか知らないだろうけど、僕はあちらの顔を知っている。

こういう時、すごく気まずく感じてしどろもどろしてしまうのがコミュ障の、悪い癖なのかな。


ガラス越しから怪訝な目で名も知らぬ遅刻した生徒、僕を見ている警備員にぺこりと軽く会釈をして、校舎へつながる道を進む。

この学校、やたらグラウンドやらなんやらが大きいせいか校門から校舎の距離が遠すぎるのである。

校門に始業時間2分前に到着しようと、それでは間に合わない。


ゆとりを持って登校したいなら始業時間十分前にはここにいる必要があるだろう。

校舎が広すぎるっていうのも帰宅部からしたらいい迷惑である。

野球場なんて野球部しか絶対使わない。


金の無駄感凄いよな。

肝心の広告塔である野球部も毎年推薦で優秀な野球少年をかき集めているらしいが甲子園に出たとかいう話も聞かない。

これ絶対意味ないと思うんだけどなあ。

数少ない友人に野球部がいるからあんまり大声で言えないけど。


言われてみれば凄い施設の恩恵か高一の冬くらいに女子のバレー部だか男子のバスケ部だかが全国に出てたと騒いでたような気がするけど、当時から僕は帰宅部だったから興味が沸かなかった。


エースの名前なんだったかなあ。

たしかかなり騒がれたしバレー部の方のエースがかなり珍しい名前だった気がするからうっすら覚えている。


まあ関係ないから忘れかけてた訳だけど。


やっとのことで僕は高校棟の玄関へとたどり着いた。


高校の生徒数は附属中からの進学者と僕のような高校入試組を合わせて約二千人

それだけの生徒の靴を収納するために下駄箱を用意していたら色々マズイからかこの学校、実は下駄箱がない。

普通の学校だと玄関に入ってすぐ下駄箱がある。

というか僕の中学も私立だがそうだった。

この学校だと玄関は会社のロビーのようになっている。

二千人捌けるように普通のビルよりもすこし入り口が大きいが、その先にはソファなどが置かれ、放課後には少し寛げるようなスペース。さらに外来の受付があり、まさに会社のロビーだ。

その先にはエレベーターではなく、それぞれのフロアへ繋がる階段がある。


うちの学校はマンモス校によくあるパターンで三コースに分かれている。

一つ目は特別進学科、略して特進。

僕はここに属している。

レベルとしては新橋や石舞台の滑り止めだが、年に数人東大に、十数人京大に送り込むなかなかの進学実績を誇る。


二つ目は普通科。

レベルとしては特進から偏差値15から20落ちる。

進学実績は中堅大を狙えるレベルといったところ。

ほとんどは経営元のこちらもマンモス大学である光文館大学に進学する。

光大附属に入ってくるのはほとんどがこれが狙いと言われるほどだ。

留年しない点さえ稼いでいれば三年間遊んで暮らせるのが強みなのだが、法学部や経済学部の人気枠は成績が良く無いといけないため、なにしてるんだかわからない学部に行きたく無いのならある程度の学業は必要になる。


また、実は学年が変わる時に成績が上位十名に入ると特進に鞍替えができる。

特進と普通科だと授業のレベルが違うため、普通科の意識が高い連中は、高校生活二度のチャンス、とくに受験生となる高3に上がる際に関係する高2の成績には死ぬ気で勉強してくる。

いや、これ絶対特進の真ん中レベルより勉強してんだろ。くらいのレベルで。

今日クラス発表のようだが、クラスに一人知らない奴がいるはずだ。

おそらくというか絶対僕より頭がいい。

はあ。嫌になる。


そして最後がスポーツ科。

名の通り全員がスポーツ推薦で募られた禊原市の誇る最強の脳筋集団だ。

偏差値は無い。多分。

たしか名目だけ中学の内申を見て、あとは中学の大会の成績で募っているはずだ。

光大はスポーツも結構強いし、大会の成績がよければさらにスポーツ推薦で名門大学に入れる可能性もあるため、県内のスポーツ中学生にはこれまた人気がある。


これら三つのコースがそれぞれの校舎を使っており、さらに、それらを合わせて高校棟と呼んでいる。

僕は自分の教室があるA棟、通称特進棟へ足を進める。


ちなみに普通科が使うのがB棟、通称内進棟。中学からの内部進学組が多いということと大学への内部進学を狙う連中が多いということのダブルミーニングだ。


そしてスポーツ科が使うのがα棟。

通称スポ棟、蔑称禊原動物園。

まあ文字の通りである。

頭脳関係なしに募ってしまったがために、二年に一回くらいにとんでもない凄い連中が集まってくるため動物園と形容される結果になったという。

ちなみにC棟は高校が使う視聴覚やらの特別教室が集まっているため、スポーツ科は使っていない。

というかスポーツ科自体が新しいため、α棟という新しい通し番号がつけられたとか。


僕が向かうのは特進棟。合計10クラス、約四百人が学生生活を送っている。

二千人の内残りの人数配分としては千五百人が普通科、百人がスポーツ科だ。


クラスは昨年の終業式に発表された。

たしか僕は三年H組だったはずだ。

ちなみにA組とF組はそれぞれ文理の成績優秀者が集まる選抜クラスとなっている。

まあ僕が入れるわけがなかった。


三年のフロアは校舎の5階だ。

1階は予備教室、2階が高一、3階が高二、4階が高三文系、5階が高三理系となっている。

僕はこう見えて理系なのだ。


残念ながら昨年物理で落第したが。


ほんとによく進級できたのレベルである。

5階まで階段を登りきると、色々な教室から教師の声が聞こえてくる。

まだホームルームやってるのか。

じゃあまだいいかな。

そんなことを考えて、教養スペースへそそくさと移動する。

ここならどの教室からも見えない。


H組の担当は誰なんだろうか。


実は担任教師の発表は今日だから僕はまだ知らない。

まあ、担任教師はまだ分からないけど、その人にはホームルームが終わってから謝りに行けばいいか。


ホームルームの中に突入していきなり謝罪するなんて恥ずかしくて嫌だ。

いきなり悪目立ちしてしまう。


それにここまで来たのはホームルームを受けるためじゃないし。

僕は諦めてベンチに寝っ転がって腕を組んだ。


寝るわけには行かないけれどまあこうやって退屈な時間が終わるのを待つとしよう。



この時、

僕の日常はまだ退屈と言えるそれだった。

ここから物語が動く、といいな。

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