1 僕の青春
僕は何も知らなかったんだ。
そう。何も。
この世界に関しても、自分が生きる街のことさえも、自分の周りで生きる人々のことも何もわかってなかったし何も知らなったんだろう。
血の凍り付くような、地獄絵図そのものというべき、そんな恐怖に満ち溢れた残酷極まりない四月を迎えてからは僕は胸を張ってそう言うようになった。言えるようになった。
以前にはなんだかすべてを悟ったかのような甘い、無意味な感傷に浸っていた僕、神山社は今やそんな無駄に現実味を帯びたことを言うようになった。
いや、これもまたうすら寒い感傷に浸った中二心燻るイタイ発言なのかもしれない。
当事者、つまり被害者であり加害者であるの僕の方からしてもこんなの絶対に経験しない方が自分のためだっただろうという考えは今でさえも変わらない。
けど、今ならば僕はこう断言できる。
仮に僕がある少女に出会わなかったことで、そんな地獄を経験せずに、いつも通りの平穏な世界で、その中で起こる惨たらしい一部の惨状から目を背けて生きることができたとしても僕はこの地獄の方を選ぶに決まっている。いや、絶対に選ぶ。
とんでもないことが起こって、とんでもない事件に発展してとんでもない結末を迎えた信じられないような地獄そのものを潜り抜けた僕はある少女を一人、一人だけかもしれないが救うことができた。
いや救うことができた気になった。たとえあの少女、櫛形陽菜乃本人がそれを迷惑がり、おせっかいな蛇足だったと思っていても、僕自身は紛れもなく彼女を救ったつもりだ。
例え虚無な自己満足といわれてもいい。それでいい。
偽善者だと、けったいな自己犠牲だと言われたってかまわない。
たとえ残念な自己満でもなんでもいい。僕は彼女を救いたかった。その時僕に有るのはそれだけだったんだ。
そこにたった一人だとしてもその人を救える道があるのならそれを選んで初めてその人を救える。
僕は少女を救うその道を選んだ。その愚かな判断で地獄を見た。人でない「化け物」を救うことになってしまったのだった。
世界に済む何十億人の人間に紛れて生きる人のようで人にあらずな化け物達。世界に散るその化け物を駆逐する業者たち。化け物達、それに対峙する業者の彼ら彼女たちが僕の人生をあとかたもなく引っ掻き回したのは間違いない。
僕は哀れにも化け物も人間も救おうと試みた。足掻いた。叫んだ。散った。死んだ。砕けた。生き返った。また死んだ。消えた。
業者たちにときに力を借り、ときに戦い当たり前のように負けた。
結局そういうことだ。負けたけど救った。結果論なら勝利でいいんだろうか。
とりあえず僕がこの一年での出来事に対して言えること、それは、
僕の人生をぶっ壊した真犯人とでもいうべき対象は氷海聖鬼という人であり吸血鬼である。言うなれば人にあらず吸血鬼にあらずという風変わりな駆逐業者、それも魔法少女駆逐業者というとんでもない奴と出会ったのが一番の間違いと呼べる出来事だってことだ。