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ステータスを引き継いで転生しました  作者: まにまに
序章
2/13

引き継ぎでした

「⋯⋯うう」


赤ん坊故に満足に動けないまま、時間だけが過ぎてゆく。

さすがにこのまま放置はやばいんじゃないか、そんな思いが頭の中をぐるぐると巡る中、ふと視界の端にあるものが映った。


(魔物だ⋯⋯!!)


姿はまさに狼。


EWOでもさんざん見慣れた魔物モンスターは、一目見た瞬間にわかった。ただ、その魔物は初めて見る奴だったが。


鮮血のような赤に染まった毛に覆われ、瞳孔の細い黄色い瞳を光らせる狼の姿をした魔物それ。その視線の先には私がいて、しばし見つめ合う。

⋯⋯⋯こちらとしては見つめ合いたくないというのが本心だ。


(なんてこった。これじゃ逃げることすらできないじゃないか)


今は手足がわずかに動く程度だ。歩けもしない自身に舌打ちをする。

ささやかな抵抗として心の中で文句を言うが、なにか変わるわけでもなく、魔物それは来た。


「⋯⋯⋯」


『⋯⋯ガルルルルル』


唸りながら、だんだんとこちらに近づいてくる。それは餌を見つけた時の様子と酷似していて、明らかに食べようとしているのだ。


────⋯⋯食べられるのか、私は。


その事実が、すとんと心の中に落ちてくる。状況は最悪だ。

こちとら、ハイハイどころか寝返りすらままならない体なのだ。これでどうやって逃げろと?

───しかし、赤ん坊ながらに命の危機に対峙したのは、珍しい体験じゃないか。なんて、ポジティブ考えようにも、どう足掻いたってこの先は地獄行きなので笑えない。


(本当に笑えないってこれ。え、なに赤ん坊で始まり赤ん坊で終わる感じですかね⋯⋯?)


もう既に獣の荒い息があたるくらいに近い。まさに目と鼻の先だと言えるだろう。

その時、魔物の首元に光る銀色の光を見た。


(首輪⋯⋯?飼い主がいるのか?)


よくよく見てみると、文字の書かれた小さなプレートの付いた銀色のチェーンを首につけている。


(なんだ、この文字?日本語でも英語でもないし、記号みたいだ)


首輪のプレートには妙に角張った文字らしき記号が羅列している。

普通に考えれば、これがこの世界の言語なのだろう。だとしたら、ここは────⋯⋯。


(⋯⋯ここはEWO以外のゲームの世界か、はたまた異世界か。どちらにせよ、私の知っている世界ところではないらしいな)


もちろんEWOでの言語は日本語が主だ。これでここがEWOゲームの世界の中という可能性は更に減った。つまり、ここは悲しくとも現実らしい。

それに⋯⋯


(飼い主がいるなら、その人が来るかもしれない。⋯⋯性格云々は別として)


こんな魔物を飼っている人間なんて想像したくもないが、藁をも掴む思いだ。この際、誰でもいい。


射抜くような鋭い眼光、ぬらりと怪しく光る白い牙、ぬらりと粘着質の涎が肌に当たる。


明らかに夢での感覚ではない。


(これは、確かに現実らしい。⋯⋯⋯って、うわ!?)


魔物が牙を剥いたのを見て、反射的に目を閉じる。



(うわ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!やばいって!!)


赤ん坊なのでうーとか、あーとか頼りない声を出して助けを求める⋯⋯⋯なんとも情けない話だ。

しかし、こんな森の中に人がいるなんて早々ないだろう。ならば、やることは一つ。


「あうー!!」


(死ぬ覚悟はできた。さあ、ドンと来い!!)


これぐらいしかできないが、なんか間違ってる気がしなくもなくもない。いや、間違ってるか。


そんな下らない事を考えている中、カツカツと何か硬いもの同士がぶつかり合う音がする。と、すぐに何かが砕けるような音がすぐ近くでした。


うん?と目を閉じながら、首をかしげる。───このあたり一面は森のはずだ。砕けるものなんて⋯⋯⋯それに音はすぐそばでした、魔物がいる所で。⋯⋯じゃあ、この音は?


いや、もしかしたら人がたてた音かもしれない。それか、飼い主が来たか。


もしそうだとしたらこの状況から救われる可能性が出てくる。誰かが魔物コイツを倒して拾ってくれたら⋯⋯あわよくば、世話してくれるとありがたいが、それは贅沢というものだろう。


ゲーム内だったなら、アンデットの特殊技術スキル故に不眠無食でもいけたかもしれないな───と至って冷静沈着な頭で考えた。


魔物に襲われるにしろ、襲われないにしろ、どちらにせよ、今の状態では人に拾われなければ生きられないのだ。

しかし、今回は人もこなさそうだ。音が止んでいる。それに、そもそも魔物以外の気配が無い。


(⋯⋯どうも死ぬのは確定らしいな)


何もかも諦めた。もうどうでもいい───、と暫く目を閉じたままこれから来るであろう運命に身を任せる。


だが、待てども待てども痛みは来ない。当然人らしき気配もない。それどころか、だんだんと魔物の気配が遠ざかっていくではないか。


さすがにこれはおかしいと、うっすらと目を開けてみた。


「⋯⋯う?」


はじめに見えたのは白い破片のようなもの。それがいくつも辺りに散らばっている。

次に見えたのは、赤い血。だが、それは自分の身体からではない。私の身体に傷は一切見当たらないし、痛みもない。

それに、それはまるで、上からポタリと落としたような跡だ。


(この血の跡は⋯⋯?魔物、のものか?)


なぜ、こんな状態になっているのか。


───確かに魔物は私の身体を噛みちぎろうとしただろう。しかし、実際にそれはできなかった。身体の周りにある白い破片とぽつぽつとした血溜まり、それらは多分魔物の血と牙の破片だ。

それ以外には見当がつかない。


それを踏まえて考えると、私を噛みちぎろうとして逆に歯が折れた、いや砕けた⋯⋯ということか。


ありえない話だ。


「⋯⋯⋯」


⋯⋯ふと、思い出す。


(⋯⋯なるほど、現実リアルの私ではありえないよな)


そういうことか、と思わず笑みが浮かんだ。


EWOゲームだ⋯⋯!!)


もしかしたら、EWOゲーム内のステータスのままなのかもしれない。そのステータスならば、よほど高レベルのモンスター出ない限り、私はダメージを受けない。つまり、傷を負わない。


実際、私にダメージはないことをみると、そう考えた方がよっぽど自然だ。

もし、今がEWOのプレイヤーなら色々と状況は変わってくる。


まず、アンデットのため食事と睡眠が必要なくなる。つまりはこのまま放置でも生きていけるというわけだ。もちろん疲労もないだろう、多分。

それに襲ってくる魔物も低位の魔物モンスターならば、問題はない。⋯⋯これに関しては高位の魔物モンスターが来てしまったらそこで死ぬので、運任せだが。

恐らく、今の魔物モンスターは低レベルだったのだろう。


(まあ、この考えは自分に都合よくした場合だ)


もしかしたら、この推測がはずれている可能性もある。人が助けてくれたという可能性もあるし、実は怪我をしているけど痛みを感じていないだけかもしれない。

まあ、何にせよまだ確証は掴めない。


早々と結論を出してしまうのは良くないだろう。なんせ実際、何かしら動き、試してここがEWOゲームとリンクしている確証を得ることが出来ないのだから。


動かずに出来るある事を除いては。


(そうだ、魔法⋯⋯!)


魔法が使えるのと使えないのでは訳が違う。それが使えてやっとEWOのプレイヤーになる。

もし使えなかったら、あるいはここが使える世界ではなかったら、何処かの街などで人に養われるしか生き延びる方法はない。⋯⋯こんな森に人が来ればの話だが。


(あんな魔物モンスターがいるなら魔法がある世界だと思うけどな⋯⋯)


ものは試しだ。


EWOゲームの時はコマンド選択だったが、こちらは当然コマンドすら出ない。

どうしたものか、と早くも嘆いた時ソレは起きた。


「⋯⋯ばぶ!?」


突如、頭の中に浮かんだコマンド。それはまさしく、自分が慣れ親しんだEWOのものと同じだった。

しかも、効果範囲や発動後に次の魔法の発動までどのくらいの時間を要するのかまでもが、手をとるようにわかる。


(これは⋯⋯!!)


魔法が同じように使えるかもしれない⋯⋯!!


勝ったな、と即座に思った。思わず笑みが浮かぶ。だが、できなかったらどうしようか。

これからの人生を決めると言っても過言ではないのだ。蔑ろには出来ない。


高揚する気持ちを抑え、よし、と覚悟を決めるとある魔法を選択した。


最高位魔法。


────第13階級魔法、《消滅ディサピアランス:木》


ふっ、と空間がぶれるような錯覚を起こる。それと同時にまるで揺りかごのような優しい風が吹き抜けた。

そして────⋯⋯⋯


一瞬だった。


文字通り木という木が、赤ん坊を中心として、円状に消える。半径は100m程だろうか。本当に呆気なく木だけが消えてしまった。

⋯⋯まるで最初からそんなものが無かったように。


草花が揺れ、そよ風が吹き、太陽の光が降り注ぐ中に木は存在しない。円状だからか、不気味な異様さを感じる。


「⋯⋯あう。」


自分の魔法が成功したのを見て、満足したように頷く。最高階級である13階級が使えたんだ、全ての魔法は発動すると見ていいだろう。


突然木が消滅したことにより、小さな動物やら虫やらの気配が慌てたように遠のく。


第13階級魔法、《消滅ディサピアランス》はその名の通り対象となった存在を消滅させる魔法だ。1回の発動につき対象設定はひとつだが、対象に制限はないため、使いどころによればかなり強力な魔法、故に取得にはかなりの手間がかかる。しかも、対象にできるモノは自分よりレベルの低いモノや無機物だけだ。


しかし、発動に時間のかかる神級魔術などの「魔術」の類ではないため、殆どデメリットなく使える。ただ唯一の難点は、消費するMPが大きい事ぐらいか。


実際に今、MP消費によると思われる倦怠感が身体に重くのしかかっている。しかし、それも動けないという程ではない。


(さすがに、最高位魔法はポンポンと撃てないなー。MP消費が倦怠感として出るとは⋯⋯)


だがまあ、魔法成功は大きなステータスとなるだろう。これで、抵抗ができずにひょんなことで死んでしまうようなことは無い。


それに、EWOの時とは違い制限は無さそうだ。少なくともオブジェクトには。


すっかり木がなくなり、寂しげになった大地を見やりほくそ笑む。


(⋯⋯なら、アイテムボックスは使えるのだろうか。)


ふと、浮き上がった疑問。試しにメニューを開くように腕を上げるが、当然開くはずがなく。


はあ、とため息をついた。


(アイテムボックスには装備も入ってるんだけど・・・。)


装備があるからこそ強くなれるのだ。この世界の敵の強さがわからない今、命運を左右するであろう装備はかなり大切だ。

アイテムボックスー、と心の中で叫びながらダメ元で腕を動かす。


すると、突然。


(⋯⋯お?)


丁度、自身の真上に手を挙げた時だった。目の前で、手だけが消える。そして腕を引くと手が現れる。


引っ込める。出す。引っ込める。出す⋯⋯。


(空間に手が飲み込まれている?いや、空間に穴があいているのか?)


言わずもがな、その空間がアイテムボックスだろう。

試しにMP回復薬と念じながら手を入れてみると、何か瓶のようなものが現れる。


(もしかして⋯⋯)


掴んで出してみると、淡い桃色の液体が入った小瓶────確かにMP回復薬だ。

日光の光が小瓶を通って薄桃色の光となる。それを見て、再び笑みが浮かんだ。


(⋯⋯MP回復薬に巻物スクロール各種、解毒薬、マジックアイテム色々、装備品⋯⋯。よかった、全部ある。)


アイテム一覧と念じて手を入れると、頭の中にはアイテムボックス内の物全てがリストとして自然と思い浮かんできた。

並び方も分類も個数も、EWOの時のままだ。

これである程度は戦える、とほっと息をつく。


(これで少なくとも私はEWOのプレイヤーを引き継いでることがわかった)


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