Element of SPADA
遥か昔の国同士が鬩ぎ合う時代、とある大陸に1つの国があった。
規模は小さいもののそれなりに栄えている国だ。
治めるのは歳もまだ若い王女。20代であるにも関わらず国を治めている人物だ。
秀でた才能は無いものの持ち前のお淑やかやと王女としての気品を兼ね揃えているため国民からの支持は絶大である。
彼女には何人もの兵がいるのだが、その中でも特別信頼を持っている人物がいる。
その名はクー・フーリンという。
彼は元々兵士なんて大層なものではなく、喧嘩や盗みに明け暮れているゴロツキであった。
彼と王女が出会ったのは5年前、クー・フーリンが王宮に侵入し盗みを働かせた際に宮殿内にいた騎士達に取り押さえられていた時だ。
5年前
「くっ、離せ!離しやがれ!」
「貴様、よくも宮殿に侵入したな!直ぐに牢屋にぶち込んでやる!」
宮殿内に侵入したゴロツキはたくさんの屈強な騎士達に地に伏せられていた。
「いいか、ここはお前みたいな薄汚いゴロツキがくるような場所じゃないんだよ!」
ボスッと騎士団長の蹴りがゴロツキの体に突き刺さる。
その衝撃で思わず血反吐を吐くゴロツキ。
「いいざまだな・・・お前達!こいつを直ぐに牢屋に連れて行くんだ!」
騎士団長は部下にそう命令した。
物心ついた時からスラム街で1人生きるために過ごしていたゴロツキは俺の糞みたいな人生もこんなつまらないところで終わるんだなと歯を噛み締めながら騎士達に連れてかれる。
その時だった。
「少し待ちください。そのものに用があります。」
そう発したのはゴロツキとは正反対の煌びやかな装飾を身につけた女性であった。
「お、王女様!なぜここに!?」
真っ先に驚きの声を挙げたのは散々ゴロツキを痛みつけていた騎士団長であった。
「なにやら騎士達が苦戦する盗人が入ったと聞いたので少々お話に来ました。」
王女は躊躇いもなく騎士に取り押さえられているゴロツキの元へ近づいた。
「お前は誰なんだ・・・!」
「私はこの国の王女です。両親は幼い頃に亡くしたので今は私が治める者です。」
王女はこのゴロツキに向かってまるで人畜無害なものと話しているように話す。
「治める者としてこの国を守りたい。それにはある程度の力が必要となります。もうお分かりでしょうか。」
王女の発言に騎士達はザワザワと騒めき始めた。
「あなたを騎士として迎え入れようと思います。」
騒めきはさらに大きなものとなった。
そんな中ゴロツキは王女を見ながら言った。
「ふざけてるのか?俺を誰だと思っていやがる。俺はこんなところとは真逆の人間だ。」
「確かにそうです。しかしあなたには惹かれるものがあります。」
なんだと?とゴロツキは口にする。
「その鍛えられた体、その膨大な闘争心。」
そして、と王女は一区切りつけた。
「その圧倒的なほどの芯の強さです。」
その一言で場にシンッとした空気が漂った。
「まてよ、体と闘争心についてはわかる。だが芯の強さとはなんだ?」
ゴロツキは意外な言葉を聞いたので思わず尋ねた。
「あなたの眼を見ればわかります。幼い頃から醜いものを見ていたせいで淀んでいるにも関わらず、その中で小さな光が輝いているのです。」
王女は続けて話す。
「その小さな光は希望の光、ほんの少しでも正義を貫く芯の強さがあるということです。」
希望の光?正義を貫く芯の強さ?ゴロツキは王女がなにを言っているのかさっぱりわからなかった。
「私は悪だけの人には話しかけません。あなたにはそれ以外に多少の正義がある。それだけで十分です。」
ゴロツキはそこまで聞いて、なお反発する。
「嫌だね、なにが正義だ。俺はそんなもの持ち合わせていない。ここを抜け出しこれからも人を殺し、奪い、クソッタレな人生を突き進んでやるよ。」
今までの人生が好きなわけでは無いが、正義なんて虫唾が走るものを見るよりは泥のような汚い地獄のほうがまだマシだ、とゴロツキは言い捨てた。
すると王女は論するように言葉を放つ。
「奪うことばかり重ねて闇に飲まれることに何が意味あるのです?命の重さも、強さの意味もわからないままのたれ死ぬのですか?」
凛とそう告げた王女の曇りなき瞳に、ゴロツキは言葉を失った。
王女の曇りのない瞳から発せられるゴロツキの人生の全否定。
しかしそれがゴロツキの心を揺さぶった。
今までの人生を否定されることで別の道が生まれる。
ゴロツキもほんの少しだけは光を求めていた。
しかし誰にも求めることが出来ずにいた。
何故ならゴロツキのいた場所は光さえ求めてはいけない場所であったからだ。
誰にも改心させてもらえず、ただ1人燻っていた。
しかし、ここにきて初めてゴロツキの人生を変えようとしている人が現れた。
本当に、俺は光を求めてもいいのか・・・?
ゴロツキの思いが思わず声に出てしまう。
その声を聞き、王女はニコりと笑い、
「勿論、あなたを歓迎致します。」
こうしてゴロツキは眩しいくらいの彼の光である王女への忠誠を誓うことになるのだ。
「ところであなたの名前はなんですか?」
重要な話も終わったので王女はたわいも無い話に入る。
「名前か、そんなもの俺には無いな。」
そうですか、と王女は呟き、少し考え事をする。
「それなら、私が名前をつけてあげます。」
「はぁ?あんたがかぁ?」
「そうですよ。王女に名をつけてもらえるなんて光栄でしょ?」
王女は本気か冗談かよくわからない調子でゴロツキを揶揄う。
「そうですね、あなたは我が国の英雄になってもらいますし・・・クー・フーリンなんてどうです?」
王女はケルト神話に存在する英雄の名前を口に出した。
「ほら、伝説では猛犬と名高い番犬を1人で絞め殺したり代わりに自分が猛犬として家を守ると聞きますし、あなたにぴったりだと思いません?」
思いません、と軽くツッコミを入れるゴロツキであったが満更でも無い様子。
「俺がクー・フーリンだとしたら得物は槍にでもなるのか?生憎だが俺は普通の剣しか扱えない。」
「別にそんなの構いませんよ。お国のために清く正しく戦ってくれるのであれば。」
「へいへい、あなた様にはかないませんよ。」
こうして彼はクー・フーリンと言う名で第2の人生を歩み始めた。
そして現在、クー・フーリンは5年の歳月で騎士道を学び、昔のゴロツキ時代とは打って変わって正しい強さを持っている。
しかし昔からの1人で戦う癖は未だ治らず、団体行動が出来ないため騎士の中でも地位の低い存在であった。
地位は低いものの人一倍腕が立つのでみんなからは『孤高の狼』と呼ばれ親しまれていた。
そんなある日、王女の元へ伝達係が大慌てで飛んできた。
「た、大変です!隣国が攻めてきました!」
「なんですって!?」
この国ではここ数年戦争は起きなかった。
このまま平和が続くのであろうと考える者もいれば、そろそろ内にも侵略してくるのではと戦々恐々する者もいた。
そしてついに予想は悪いほうへ傾いてしまった。
隣国との戦力は大して変わらない。
しかし現在運の悪いことに半分ほどの兵力は戦争で大敗した国への援助のため遠出をしている最中なのだ。
現在国に残っているのは老兵や新兵、そしてクー・フーリンだけである。
「こちらは完全に戦力不足・・・降伏しかないのか。」
「何を言っている!国のため最後まで戦わなくてなにが騎士だ!」
緊急会議を開いた会議場では騎士たちの怒号が響き渡っている。
「王女!ご決断を!!」
決断は王女に委ねられる。
いくら国を治める者であってもまだ若者同然の王女は簡単には決めることはできない。
「父や母が守っていたこの国を明け渡すにはいきません・・・しかし騎士たちを戦力不足の状態で戦場にだすわけには・・・。」
王女がこれまでにない大きな二択に押し潰されそうになっているとき、ある人物が王女の光となった。
「それなら俺が先陣切ってやるよ。」
「お、お前は!?」
「クー・フーリン!?」
過去に自分の光となった王女の光にならんと、クー・フーリンは立ち上がった。
「ダメです!あなた1人が犠牲になるわけには行きません!」
確かにこの場で1番の戦力はクー・フーリンである。
しかし例え彼でも国を相手に戦うのは無謀である。
「なに、他の連中が帰ってくるまで俺が敵の進行を止めるだけだ。」
現在遠出してる騎士たちに帰還命令を送ったので予定より早く帰ってくることは確実だ。
しかし、早く帰ってくると言っても1日は掛かる。
つまり自殺行為と何ら変わりないのだ。
「しかし・・・!」
王女が何か言おうとするのを制止するようにクー・フーリンは言葉を遮る。
「俺を誰だと思ってるんだ?『孤高の狼』だぞ?」
それに、と彼は付け足した。
「俺はあんた、いや、王女に誰かのために振るう剣の強さ教えてもらった。だからここで誓おう。」
小さく深呼吸をし、最後の言葉を告げる。
「迷うことなく行く手を阻む絶望を全て断ち切り、必ずきみの元へ戻る。」
そして英雄、クー・フーリンは戦地へと降り立った。
後日遠出をしていた騎士達が帰還したため直ぐさま敵の進行を防ぐため戦地へと向かった。
その騎士達の報告によると、敵のほぼ半分は壊滅しており進行を簡単に防ぐことができたという。
そして最大の功労者であるクー・フーリンの姿を確認することはできなかったという。
数日後、王女は戦地になった場所に訪れた。
戦地といっても国同士を結ぶ荒野が戦地となったので戦後でもそこまで荒れてはいなかった。
そんな荒野を歩いているとなにか太陽の光を反射する物体を見つけた。
「!?これは・・・。」
王女が見つけたもの、それはクー・フーリンの愛用していた剣であった。
「嘘つき・・・、例え剣が戻ったとしても、あなたが戻って来なければ意味がないじゃない。」
誰よりも強い意志を持ち、祖国の明日を切り開いたクー・フーリン。
彼が散った戦地には彼のいた証である英雄の剣が王女を待っていたかの如くその場で佇んでいた。
そして王女はその剣を自分の部屋に持ち帰り、生涯をその剣と共に過ごしたと聞く。
どうも、こんにちは。初めましての方は初めまして。dayというものです。
いつもは音ゲー部!というほのぼの音楽ゲーム学園物語、または音ゲのことがよくわかるというよくわからんジャンルの小説を書いております。
今回は昔書こうと思って断念した作品、Element of SPADAを完成まで持ってくることができました。
これはbeatmaniaⅡDXの曲なのですが、とてもいい曲です。
いい曲とざっくり言うのもなんかあれなのである程度説明しておきます。
まずこれはbeatmaniaⅡDX SPADAのテーマソングのようなものです。
作曲は猫叉Master、歌は霜月はるかという方達です。
猫叉Masterの哀愁漂う曲調と霜月はるかの綺麗な声がマッチして完璧なハーモニーが奏でられています。
もうとにかくめっちゃいい曲です。
思わず小説を書きたくなるほどいい曲です。
聞いて損はないと思います、いやマジで。
弐寺の他にもポップンにも収録されているので是非そちらもやってみてください。(jubeatにはよ来ないかな)
さて、今回の話ですが、自分なりに解釈したストーリーを書きました。
少しだけ作曲者コメントでヒントを貰おうかなと思ってサイトを見ても特に曲のストーリーに関わるような内容は書いていなかったので歌詞だけを頼りにストーリーを作りました。
なのでクー・フーリンとかは自分で勝手に名前をつけさせてもらいました。
最初は英雄がスパーダって名前だと思ったんですけどスパーダって剣のイタリア語なんですね。
さて、何故クー・フーリンになったかというと、英雄の名前でいろいろ探してたら今回の主人公にあったキャラ像がヘラクレスとクー・フーリンにぴったりでしてので、その中から選びました。
ヘラクレスはよく使われている名前なので在り来たりかなって思ってクー・フーリンにしたんですが、彼は槍使いなんですよね。
途中で気がつきましたがそこはスルーしました。
もし槍を使うことになったら、「俺がクー・フーリンだとすると、こいつはゲイボルグってか?」っていう台詞が入っていました。
まあボツ案なんですけどね(笑)
私の作品を初めて見たのが音ゲー部!だという方が恐らく大多数いると思いますが、どうだったでしょうか。
結構完成度が違うと思います。(ていうかそう思ってください)
本編のほうはキャラたちがキャッキャうふふと音ゲーを楽しんでるだけなので割とゆる〜く書いております。
しかし今作品はガチの小説を目指して書きました。
これがdayの本気じゃー!ってことです。
まあそれでも小説としての評価がイマイチかもしれませんが。なんせ素人なんで。
しかも長すぎるので途中で疲れがでて何を書いてるのかよくわかってない場所もあると思います。
初めて制作に5時間もかかりましたよ。
それと誤植も私の知らない間に何個があると思います。
それを見たら、あぁ、この辺りで意識飛んでんだなとでも思ってください。
正直見直しするのも億劫です。
そんな訳で誤植を見つけた際はご報告をば。
今回はこれで以上となります。
今回みたいな作品をまたいつか書く日があると思います。
しかしそのまたいつかがもしかしたら半年後かもしれませんし1年後かもしれません。
なのでこれはシリーズ化せず単発できまぐれに書いていきます。
音ゲー部!のほうは毎週更新するのでよろしくお願いします。
それではまた次回。