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ヒーローは誰?  作者: 花名
春の宴
45/48

盗まれたのは

**********

(ラピス)



「殿下にお届けものです。」


アゲート叔父上と少しからかっただけで、慌てて逃げていった可愛い叔母が、巾着袋と一緒に戻ってきた。


 小さいわりにずっしりと重さのある袋に、すぐに盗まれた宝飾品だとわかる。


「セレシア、これはどこで?」


 まぁ聞くまでもなく、クラウドに頼まれたんだろうけど。


「廊下に落ちていました。」


「落ちて、ねぇ…。」


 あのクラウドがこの袋をそんな雑に扱うわけがない。あくまでも演出として、拾ったという(てい)にしているのか、それとも…それ以外に隠したい理由があるのか。


 ラピスはセレシアの唇を見て意地悪く笑う。


「コレを拾う時、何かありましたか叔母上?

……口紅がとれてますよ?」


「!!」


 途端に頬を赤く染め、下を向く小さな叔母に、やっぱりかと思う。


 可愛い反応しちゃって…。クラウドと、ねぇ?



 あと僅かで鐘が鳴る。約束の盗品も手元に戻った。これでタイムオーバー、クラウドの勝ちだ。


 終了の刻限が迫り、諦めた騎士達が集まり始めた。レオは苦虫を噛み潰したような顔をしている。



 バタバタバタ…



 ん?今更なんだ?


 激しい足音と騒がしい声が聞こえてくる。



 ダンッ!「おいっ!」

 バタ、バタバタバタバタ…

「待て!そいつだ!」



 最後まで粘って捜していた残りの騎士達を引き連れて、クラウドが会場に乗り込んでくる。へぇ、見せ方を分かってるじゃないか。宴の客達は余興のクライマックスだと、目を輝かせる。


 盗賊は会場を駆け抜けるかと思えば、何故か真っ直ぐこちらに走って来た。


 俺の目の前まで来るやいなや、我が叔母上を肩に担ぎ上げ、そのまま庭に逃走。予想外の行動に騎士も含めて会場が大混乱となった。


 盗賊は去り際にテラスで一度振り返ると、仮面を外して声を張り上げる。


「では、王太子殿下。姫をいただいてゆきます。」


 それだけの言葉を残して、あっと言う間に走り去ってゆく。


 ―――やってくれたな。


 あいつ、この騒ぎの収拾を俺に丸投げして行きやがった。





 王族(セレシア)がさらわれたことに動揺したレオが反射的に追尾の号令を出す。オイオイ…落ち着け。


「それまで!」


 レオの号令で走り出そうとする騎士達を静止させる。騎士達は新たな命令に踏みとどまるも、何故だと言いたげに こちらを仰いでいる。


 お前達、よく耳を澄ませろ。既に終わりを告げる鐘が鳴っているだろうが。


 鐘の音を聞きながら鷹揚に壇上に上がると、誰もが息を潜めて俺の言葉を待った。



 (――“王太子殿下”姫をいただいてゆきます。)


 本当、呆れるほどに大胆なヤツだ。この俺を利用しやがって…。あいつの筋書き通りに動くのは腹立たしいが、先程のセレシアの様子が目に浮かび、まぁいいかと思い直す。


 ……今回だけ、お前の思惑に乗ってやる。




 一度全体を見渡してから、鷹揚に話し出す。


「小癪な盗賊はこの盗品と引き換えに、想い人をさらっていった。盗賊が盗んだ品を全て返してまで望む恋であるのなら、我々も応援してやろうではないか。

 余興はこれにて終了とする。

 ここに改めて、我が叔母上セレシアと盗賊役を務めた第二騎士団 副団長クラウドとの婚約を発表し、祝福する。

 さて、盗賊が姫の代わりに残していった盗品だが“持ち主に心当たりのある男性”は騎士団に名乗り出るように。盗賊などに遅れをとるなよ?

 では、それぞれ残りの時間をゆっくり楽しんでくれ。」


 壇上から降りると、会場は一転して祝賀ムードへと変わる。


 意中の娘を横からさらわれないようにと、騎士団に慌てて詰め寄る男どもを横目に、余興の終わり方としてはまぁ悪くなかったかと一日を振り返る。


 それよりも、今回の事で一番大きくダメージを受けたヤツが気にかかる。


 今日はレオを部屋に呼んで、酒でも付き合ってやるか…。

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