盗まれたのは
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(ラピス)
「殿下にお届けものです。」
アゲート叔父上と少しからかっただけで、慌てて逃げていった可愛い叔母が、巾着袋と一緒に戻ってきた。
小さいわりにずっしりと重さのある袋に、すぐに盗まれた宝飾品だとわかる。
「セレシア、これはどこで?」
まぁ聞くまでもなく、クラウドに頼まれたんだろうけど。
「廊下に落ちていました。」
「落ちて、ねぇ…。」
あのクラウドがこの袋をそんな雑に扱うわけがない。あくまでも演出として、拾ったという体にしているのか、それとも…それ以外に隠したい理由があるのか。
ラピスはセレシアの唇を見て意地悪く笑う。
「コレを拾う時、何かありましたか叔母上?
……口紅がとれてますよ?」
「!!」
途端に頬を赤く染め、下を向く小さな叔母に、やっぱりかと思う。
可愛い反応しちゃって…。クラウドと、ねぇ?
あと僅かで鐘が鳴る。約束の盗品も手元に戻った。これでタイムオーバー、クラウドの勝ちだ。
終了の刻限が迫り、諦めた騎士達が集まり始めた。レオは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
バタバタバタ…
ん?今更なんだ?
激しい足音と騒がしい声が聞こえてくる。
ダンッ!「おいっ!」
バタ、バタバタバタバタ…
「待て!そいつだ!」
最後まで粘って捜していた残りの騎士達を引き連れて、クラウドが会場に乗り込んでくる。へぇ、見せ方を分かってるじゃないか。宴の客達は余興のクライマックスだと、目を輝かせる。
盗賊は会場を駆け抜けるかと思えば、何故か真っ直ぐこちらに走って来た。
俺の目の前まで来るやいなや、我が叔母上を肩に担ぎ上げ、そのまま庭に逃走。予想外の行動に騎士も含めて会場が大混乱となった。
盗賊は去り際にテラスで一度振り返ると、仮面を外して声を張り上げる。
「では、王太子殿下。姫をいただいてゆきます。」
それだけの言葉を残して、あっと言う間に走り去ってゆく。
―――やってくれたな。
あいつ、この騒ぎの収拾を俺に丸投げして行きやがった。
王族がさらわれたことに動揺したレオが反射的に追尾の号令を出す。オイオイ…落ち着け。
「それまで!」
レオの号令で走り出そうとする騎士達を静止させる。騎士達は新たな命令に踏みとどまるも、何故だと言いたげに こちらを仰いでいる。
お前達、よく耳を澄ませろ。既に終わりを告げる鐘が鳴っているだろうが。
鐘の音を聞きながら鷹揚に壇上に上がると、誰もが息を潜めて俺の言葉を待った。
(――“王太子殿下”姫をいただいてゆきます。)
本当、呆れるほどに大胆なヤツだ。この俺を利用しやがって…。あいつの筋書き通りに動くのは腹立たしいが、先程のセレシアの様子が目に浮かび、まぁいいかと思い直す。
……今回だけ、お前の思惑に乗ってやる。
一度全体を見渡してから、鷹揚に話し出す。
「小癪な盗賊はこの盗品と引き換えに、想い人をさらっていった。盗賊が盗んだ品を全て返してまで望む恋であるのなら、我々も応援してやろうではないか。
余興はこれにて終了とする。
ここに改めて、我が叔母上セレシアと盗賊役を務めた第二騎士団 副団長クラウドとの婚約を発表し、祝福する。
さて、盗賊が姫の代わりに残していった盗品だが“持ち主に心当たりのある男性”は騎士団に名乗り出るように。盗賊などに遅れをとるなよ?
では、それぞれ残りの時間をゆっくり楽しんでくれ。」
壇上から降りると、会場は一転して祝賀ムードへと変わる。
意中の娘を横からさらわれないようにと、騎士団に慌てて詰め寄る男どもを横目に、余興の終わり方としてはまぁ悪くなかったかと一日を振り返る。
それよりも、今回の事で一番大きくダメージを受けたヤツが気にかかる。
今日はレオを部屋に呼んで、酒でも付き合ってやるか…。