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ヒーローは誰?  作者: 花名
春の宴
44/48

隠しておきたい

R15

 暫く無言の睨み合い(?)が続いたが、クラウドは深呼吸すると、いつもの鉄壁の微笑みを張り付けた。


「ところで……先程の近衛とは、どのような関係なのです?」


「ん?先程って…ラズのこと?ラズリムは学友、と言うか…う~ん、なんだろう?」


 改めて聞かれると難しい。甥の従兄弟だからラズは親戚になるんだろうか?でも、私とは血の繋がりがないんだよね…。学友って言うには一緒に勉強してた時期が(おさな)過ぎな気がする。ってことはやっぱり幼馴染みになるのかな…?


「ずいぶん馴れ馴れしい。」


「そう?そう言えばラズはね、子供の頃、剣で一度も私に勝てた事がなくて、普段はあんな口調だけど、負けた時は涙を貯めて『次は絶対に負けないからな!』って必ず言うの。それが可愛いくてつい勝負をふっかけちゃうんだよね。」


「………いえ、やはり何だか少し気の毒に思えてきました。けれど、彼も男です。あまり侮らないように。」


「……はい。」


 ゴリラはともかく、ラズは警戒する必要ないと思うけどなぁ。例えるならラズは小型犬。

 思わず、キャンキャン言いながらシッポを振ってる姿が目に浮かんで笑ってしまう。


「それはそうと…、どうやら貴方は、私のことも男だとお忘れのようだ。私の扱いも相当酷いと分かっていますか?」


 ……あ、やっぱり怒ってたのか。


「見つからなくてラッキー、と思え…ない?」


 う~ゎ、見てるよ。

 目を細めて、すっごい こっち見てる!


 扱いが酷い、か…。酷いかなぁ?

 う~ん。



(―――そもそも、レオナルド殿にはキスをしたのに、私には蹴りを入れるところから、もう酷いですよね?)



 ……あぁ、そうか。



 目の前まで近付きクラウドの肩を掴むと、背伸びをして、頬に触れるだけのキスをする。


 すると、クラウドは驚いて目を見張り、こちらを凝視したまま、固まってしまった。


 あれ?間違えた?


 自分の勘違い行動に恥ずかしくなって目を反らすと、急に引き寄せられ、そのままきつく抱き締められた。


 離れようとしても、しっかり後頭部を抑えられ、硬い胸に押しつけられているので、びくともしない。ちょっとこれ…力加減 間違ってると思う。痛い。


 抜け出すのを諦めて力を抜くと、押し付けられているクラウドの胸から、早く打つ心臓の音が聞こえてくる。


「……鼓動が、すごく早いね?」


 そう言うと、クラウドは少し笑う。


「それは、そうでしょうね。」


 どこか 他人事のように言うと、ようやく力を抜いて、私の背中で手を組み直してくれた。

 腰の当たりにまで手が下がったおかげで、隙間が出来て楽になる。


 上体を反らして上向くと、クラウドは顔を歪めて、困惑と渇望の入り混ざった表情をしていた。


「?」


 また、複雑な表情をして…。首を傾げると、クラウドは目を閉じて天井を仰ぐ。


「どうしたの?」


 頑なに視線を戻さないので、不思議に思って聞けば、クラウドは窓の外の、更に遠くを見つめながら口を開く。


「侍女殿に感謝したいような、呪いたいような気分なんです…。」


「……それはまた複雑だね。」


 何でここでリリィが出てくる…。


「……気付いてますか?そのドレスの襟元…、適切な距離で見れば清楚ですが、こうやって抱き締めて見下ろすと、その…………丸見えですよ?

 更に、上目使いなんて……既にボロボロの自制心が決壊寸前です。」


「あぁ、この付け襟?レオ殿のことがあったから、リリィが後から足してくれたの。」


「は!?この胸を曝して歩くつもりだったんですか!」


 曝してって…、人を痴女かのように言わないで欲しい。確かに今日はコルセットでデコルテが強調されてるけど、これくらい別に珍しくない。


 昨日のドレスは確かにやり過ぎだけど、今日のドレスはごく一般的なデザインだ。リリィだって昨日の今日だから、多少隠れるようにって襟を付けただけだし。


 クラウドは唖然とした後、今度は非常に不機嫌になり、何か小さなものをポケットから取り出して、胸の谷間に押し込んだ。


「うぇっ!? なっ何!?」


「……私が走って落とさないよう、そこに隠しておいて下さい。“とても大切なので”誰かに見られたりしたら絶対に許しませんからね?」


 え~…。そんな大切なモノ、渡さないで欲しいんだけど…。取ろうとすれば、手首を掴まれダメだと言われる。


 何でよ? 不満を込めてクラウドを見上げると、困った顔をして言葉を詰まらせた。


「うっ…、だ、からっ……。」


 クラウドはそのまま口を閉ざすと、今度は熱の籠った目でじっと見つめ返した。


 黙ったままゆっくり顔が近づき、息がかかる距離までくると、何故かまた動かなくなる。あと、ほんの数ミリで唇が重なりそうなのに…。


 腰にあった手が、背中を下から上へとなぞる。その感触にゾクゾクして、知らず知らずのうちに少し開いた唇に、クラウドはゆっくりと自分の唇を重ねた。


 ゆっくりと、でも次第に激しくなる口づけが、思いのほか気持ちよくて、無意識に催促するかのようにクラウドの首に自分の腕をまわして引き寄せていた。


 もっとと思った瞬間、急にクラウドの唇が離れ、肩を掴んで引き剥がされてしまう。


 どこか淋しくて、肩にあるクラウドの手に頬を寄せた。


「~っ! これ以上煽らないでください。さすがにもう限界です。お願いですから…。そうだ、褒美の代わりに御使いをお願いします。今すぐこの袋をラピス殿下に渡して来て下さい。

 このままでは確実に止まらなくなる、私は少し頭を冷やしてきます。……では、また後で!」


 クラウドは、あっと言う間に部屋を出ていってしまった。

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