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ヒーローは誰?  作者: 花名
春の宴
40/48

告白

「だんちょーーっ!?」


 だから、カイゼル煩いっつうの。寝起きの人間の側で叫ぶな。


「うん。何?」


「胸、本物?触ってもいいっスか?」


「嫌。」


 カイゼルを押し退けて立ち上がると、開けっぱなしのドアを通り、隊長達がいる執務室に戻る。


「ちくしょう。マジで女だったか!

そのドレス、エロいッ。最高!!

しっかし、腰 細っせーなぁ。」


 少し遅れてブツブツ言いながら、カイゼルも続き部屋から出てくる。やっぱり煩い。ちょび髭がカイゼルを睨みながら私の心を代弁してくれた。


「カイゼル、少し黙れ。…で、団長。話とはこの事ですか?」


 多くの者が動揺で混乱するなか、隊長達の中で一番年長のちょび髭は難しい顔をしつつ、正面から私に向き合う。


「そう。これと、あともう1つ。詳しくは揃ってから話すけど、私、実は王族なんだ。セレスは愛称で、本名はセレシアって言うの。」


「…………は? セレシアってまさか!?

……あ゛あ? このクソガキがセレシア様だと?」


 クソガキって…。


 他のメンバーもだんだん混乱から立ち直ってくる。


「本当に団長、なんですね。しかし…、セレシア様と言えば王妹陛下じゃ…。」

「うん。国王陛下とアゲート統帥の実妹になるね。」


 隊長達が互いの顔を見合う。


「お身体が弱いのでは?」

「弱くはないかな。剣を振り回してるくらいだし。」


「今まで、その巨乳をどこに隠してたんッスか?」

「カイゼル、お前だけ質問がおかしい。」



 “トントン”とノックの音が聞こえ、失礼しますと言う声を皮切りに続々と貴族組が部屋に入ってくる。


「遅くまで宴だったのに、早い時間に呼び出して悪いね。」


 一番最初に入ってきた六番隊長のヴィスターは、部屋に入るなり怪訝な顔をする。

 続いて入ってきたザイル達も似たり寄ったりの反応だが、そこは流石貴族組と言うか、状況から薄々察しているだろうに、驚いた表情をしつつも取り立てて騒ぐ様子はない。


 最後にジムニーとクラウドが一緒に入って来た。ジムニーは部屋の異様な雰囲気に警戒を強めたが、クラウドはこちらを見るなり眉間に深く皺を寄せ、大股で近づいてきた。


「貴女はっ…。私は真っ直ぐ屋敷へ帰るように言ったはずですが?」


「ん~でも、この方が話が早いし?」


 クラウドの機嫌がどんどん悪化していくのが目にみえて分かる。そんな中、貴族組からチラホラ自力で答えにたどり着いた者が口を開く。


「そのドレス…セレシア様?」


 すぐに帰ったにも関わらず、意外と目撃されていたらしい。そしてクラウドはその様子をイライラしながら見ている。


 全員揃ったと言うアルの言葉に頷くと、姿勢を正し、皆の方に向き直った。


「改めまして。一昨日、正式に第二騎士団の団長を拝命しましたセレシア=タイト=スピネルです。セレスは私の愛称。今まで隠しててごめんね。

 私が団長になった理由だけど、表向きは皆が知ってる通り御前試合。けれど、内実は黄国(シトリア)がらみだと私は思ってる。…ここだけの話、私は主に黄国(シトリア)の仕事を担当してたから。あちらの表も裏も知ってる私を団長に据えることで、黄国(シトリア)への牽制という側面が、あるのかもしれない。あくまでも私の推測だけどね。みんなから私に何か聞きたいことはある?」


 ダンが一歩前に出る。


「この事を知っているのは誰ですか?それと、これはどこまで公にする予定でしょうか?」


「もう隠すつもりないから、セレシアが団長だと公にしてもらって構わない。既に知ってるのは王族とアル。うちの屋敷の使用人に、個人的な友人の数名くらいかな?あぁ、あとウォレス団長も知ってる。そしてクラウド。……そう言えば、クラウドはいつから気が付いてたの?」


 ずっと聞きたかったことが、ようやく聞けた。


 苦い顔をしつつも、クラウドは渋々話す。


「……女性なのは、初めてお会いした時すぐに気が付きました。セレシア様だと確信を持ったのは、初日の夜会で貴女とお会いした時です。

 ……隠すのを止めたのは、私が気付いていると伝えた事がきっかけですか?」


「まぁ、それもあるけど、どのみちそろそろ話すつもりだったよ?ただ、宴期間が終わってからにしようとは思ってたけどね。」


 クラウドはそれを聞くと少し顔をしかめて黙り込んでしまった。


黄国(シトリア)の仕事とは、一体何をされていたのですか?」


 10番隊のウィルが尋ねる。


「ん~色々?証拠が残るようなヘマはしてないけど…。裏の話はあまり口で言えるような内容じゃないかな。表向きは経済推進担当だよ?湯治とかで、セレシアは黄国(シトリア)の温泉巡りに行ったりしてたでしょ?その時に、うちの特産の売り込みや社交をしつつ、裏でもこっそりね。」


 勿論、黄国(シトリア)の担当外交官だっている。けれど、外交官がうちの特産を買って下さいって言うより、ご婦人方にそれが欲しいと思わせる方が経済効果が高いんだ。それに、どこの国でも女性が持っている情報というのは侮れない。


 まぁ、セレシアとして黄国に行くよりも、商人セレスとして行く回数のが多かったけどね。


 隊長達の質問を順に答えていると、急にアルが思い出したとばかりに口を開いた。


「あっ、黄国(シトリア)って言えばさぁ。第三王子がセレスを嫁にしようと探してるってさ。」


「はぁ?」


 アルの言葉に思わず顔をしかめる。第三王子って言ったらあの人だよね?あの一見硬派そうなのに、手が早い男。


「ずいぶんセレスに執着してるらしいぜ?黄国(シトリア)に知られたら、まず第三王子あたりが飛んで来るかもな。」


 ……あの男は一体何をやってるんだ。


「私が国外に嫁に行くのは無理だよ。個人的にも軍部に縁が深いし。あぁ、そうか……。きっとそれも私を団長にした理由のひとつなんだ。だとすると、兄様が結婚相手を探せって言いだしたのも、第三王子のせいかな?

 ……ねぇアル、もしかして、レオ殿って嫁入り先候補なの?」


「知らな~い。俺、候補が誰かなんて“聞かなかった”もん。」


 こいつ…、わざと聞くのを避けたな。一人だけ高見の見物しようだなんで許さないからな。絶対に巻き込んでやる。

 アルを睨んでいると、カイゼルのデカイ声が響いた。


「あっ!もしかして、そのおっぱいのキスマークってレオナルド団長ッスか?」


「え?何それ?」


 どこ? 思わず襟をひっぱり探す。


「「「…っ!」」」


 途端に、部屋いる隊長達の息を飲む音が聞こえた。


「早くしまいなさい!無防備にもほどがあるでしょう!」


 クラウドが珍しく声を張り上げる。


「くくっ、こいつに恥じらいなんてねぇよ?中身がいつまでたってもガキだからな。」


 アルが笑いながら言うが、その台詞、聞き捨てならないなぁ。そっくりそのまま、お前にも当てはまるからなっ!!


 結局、キスマークと言うのはカイゼルのカマかけだった。あの少ない情報と時間で、昨夜レオ殿と何かがあったと気付く有能さに、私は感心した方がいいんだろうか…。


 何か複雑。

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