告白
「だんちょーーっ!?」
だから、カイゼル煩いっつうの。寝起きの人間の側で叫ぶな。
「うん。何?」
「胸、本物?触ってもいいっスか?」
「嫌。」
カイゼルを押し退けて立ち上がると、開けっぱなしのドアを通り、隊長達がいる執務室に戻る。
「ちくしょう。マジで女だったか!
そのドレス、エロいッ。最高!!
しっかし、腰 細っせーなぁ。」
少し遅れてブツブツ言いながら、カイゼルも続き部屋から出てくる。やっぱり煩い。ちょび髭がカイゼルを睨みながら私の心を代弁してくれた。
「カイゼル、少し黙れ。…で、団長。話とはこの事ですか?」
多くの者が動揺で混乱するなか、隊長達の中で一番年長のちょび髭は難しい顔をしつつ、正面から私に向き合う。
「そう。これと、あともう1つ。詳しくは揃ってから話すけど、私、実は王族なんだ。セレスは愛称で、本名はセレシアって言うの。」
「…………は? セレシアってまさか!?
……あ゛あ? このクソガキがセレシア様だと?」
クソガキって…。
他のメンバーもだんだん混乱から立ち直ってくる。
「本当に団長、なんですね。しかし…、セレシア様と言えば王妹陛下じゃ…。」
「うん。国王陛下とアゲート統帥の実妹になるね。」
隊長達が互いの顔を見合う。
「お身体が弱いのでは?」
「弱くはないかな。剣を振り回してるくらいだし。」
「今まで、その巨乳をどこに隠してたんッスか?」
「カイゼル、お前だけ質問がおかしい。」
“トントン”とノックの音が聞こえ、失礼しますと言う声を皮切りに続々と貴族組が部屋に入ってくる。
「遅くまで宴だったのに、早い時間に呼び出して悪いね。」
一番最初に入ってきた六番隊長のヴィスターは、部屋に入るなり怪訝な顔をする。
続いて入ってきたザイル達も似たり寄ったりの反応だが、そこは流石貴族組と言うか、状況から薄々察しているだろうに、驚いた表情をしつつも取り立てて騒ぐ様子はない。
最後にジムニーとクラウドが一緒に入って来た。ジムニーは部屋の異様な雰囲気に警戒を強めたが、クラウドはこちらを見るなり眉間に深く皺を寄せ、大股で近づいてきた。
「貴女はっ…。私は真っ直ぐ屋敷へ帰るように言ったはずですが?」
「ん~でも、この方が話が早いし?」
クラウドの機嫌がどんどん悪化していくのが目にみえて分かる。そんな中、貴族組からチラホラ自力で答えにたどり着いた者が口を開く。
「そのドレス…セレシア様?」
すぐに帰ったにも関わらず、意外と目撃されていたらしい。そしてクラウドはその様子をイライラしながら見ている。
全員揃ったと言うアルの言葉に頷くと、姿勢を正し、皆の方に向き直った。
「改めまして。一昨日、正式に第二騎士団の団長を拝命しましたセレシア=タイト=スピネルです。セレスは私の愛称。今まで隠しててごめんね。
私が団長になった理由だけど、表向きは皆が知ってる通り御前試合。けれど、内実は黄国がらみだと私は思ってる。…ここだけの話、私は主に黄国の仕事を担当してたから。あちらの表も裏も知ってる私を団長に据えることで、黄国への牽制という側面が、あるのかもしれない。あくまでも私の推測だけどね。みんなから私に何か聞きたいことはある?」
ダンが一歩前に出る。
「この事を知っているのは誰ですか?それと、これはどこまで公にする予定でしょうか?」
「もう隠すつもりないから、セレシアが団長だと公にしてもらって構わない。既に知ってるのは王族とアル。うちの屋敷の使用人に、個人的な友人の数名くらいかな?あぁ、あとウォレス団長も知ってる。そしてクラウド。……そう言えば、クラウドはいつから気が付いてたの?」
ずっと聞きたかったことが、ようやく聞けた。
苦い顔をしつつも、クラウドは渋々話す。
「……女性なのは、初めてお会いした時すぐに気が付きました。セレシア様だと確信を持ったのは、初日の夜会で貴女とお会いした時です。
……隠すのを止めたのは、私が気付いていると伝えた事がきっかけですか?」
「まぁ、それもあるけど、どのみちそろそろ話すつもりだったよ?ただ、宴期間が終わってからにしようとは思ってたけどね。」
クラウドはそれを聞くと少し顔をしかめて黙り込んでしまった。
「黄国の仕事とは、一体何をされていたのですか?」
10番隊のウィルが尋ねる。
「ん~色々?証拠が残るようなヘマはしてないけど…。裏の話はあまり口で言えるような内容じゃないかな。表向きは経済推進担当だよ?湯治とかで、セレシアは黄国の温泉巡りに行ったりしてたでしょ?その時に、うちの特産の売り込みや社交をしつつ、裏でもこっそりね。」
勿論、黄国の担当外交官だっている。けれど、外交官がうちの特産を買って下さいって言うより、ご婦人方にそれが欲しいと思わせる方が経済効果が高いんだ。それに、どこの国でも女性が持っている情報というのは侮れない。
まぁ、セレシアとして黄国に行くよりも、商人セレスとして行く回数のが多かったけどね。
隊長達の質問を順に答えていると、急にアルが思い出したとばかりに口を開いた。
「あっ、黄国って言えばさぁ。第三王子がセレスを嫁にしようと探してるってさ。」
「はぁ?」
アルの言葉に思わず顔をしかめる。第三王子って言ったらあの人だよね?あの一見硬派そうなのに、手が早い男。
「ずいぶんセレスに執着してるらしいぜ?黄国に知られたら、まず第三王子あたりが飛んで来るかもな。」
……あの男は一体何をやってるんだ。
「私が国外に嫁に行くのは無理だよ。個人的にも軍部に縁が深いし。あぁ、そうか……。きっとそれも私を団長にした理由のひとつなんだ。だとすると、兄様が結婚相手を探せって言いだしたのも、第三王子のせいかな?
……ねぇアル、もしかして、レオ殿って嫁入り先候補なの?」
「知らな~い。俺、候補が誰かなんて“聞かなかった”もん。」
こいつ…、わざと聞くのを避けたな。一人だけ高見の見物しようだなんで許さないからな。絶対に巻き込んでやる。
アルを睨んでいると、カイゼルのデカイ声が響いた。
「あっ!もしかして、そのおっぱいのキスマークってレオナルド団長ッスか?」
「え?何それ?」
どこ? 思わず襟をひっぱり探す。
「「「…っ!」」」
途端に、部屋いる隊長達の息を飲む音が聞こえた。
「早くしまいなさい!無防備にもほどがあるでしょう!」
クラウドが珍しく声を張り上げる。
「くくっ、こいつに恥じらいなんてねぇよ?中身がいつまでたってもガキだからな。」
アルが笑いながら言うが、その台詞、聞き捨てならないなぁ。そっくりそのまま、お前にも当てはまるからなっ!!
結局、キスマークと言うのはカイゼルのカマかけだった。あの少ない情報と時間で、昨夜レオ殿と何かがあったと気付く有能さに、私は感心した方がいいんだろうか…。
何か複雑。