エスコート
R15 無理矢理表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
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(レオナルド)
このクソ忙しい時に、何故俺がエスコートしなければならないのか…。応接室のソファに腰をおろし、溜め息をつく。これもみんなアゲート統帥に、いつの間にか誘導されてしまった結果だ。何でこうなってしまったのか、何度思い返しても分からない。
皆、統帥の穏やかで柔らかい物腰に騙されがちだが、あの方は実は押しがとても強い。それに剣だけでなく、社交にも話術にも長け、しかも博識。その有能さを外交だけにとどめるのは惜しいと、未だ“この方を王に”と望む人間が少なからずいるのも事実。
王族と言う身分を捨て公爵となり、実力のみで今の位に昇ったその功績に、多くの男が尊敬もさることながら、憧憬を抱くのは仕方のないことだろう。
しかし完璧に見えるあの方であっても、難点はあるもの。あれほど厳しい方なのに、妹のこととなると、とことん甘いのだ。
年の離れた妹が可愛いのは分かる。しかし病弱でろくに公務も出来ず、たまに社交界に顔を出したかと思えば、常に統帥がベッタリと貼り付いてエスコート。
ただでさえ、表に出て来ないセレシア様は、近衛を取り仕切る俺でさえ、年に数度しか拝見することはない。その数度ではあるものの、素人目には健康そうに見えるのだから、よけい腹が立つのかもしれない。例え、本当に病弱だとしても過保護過ぎるのではないか。
今回だって、わざわざ俺がエスコートする必要が何処にある?騎士団の団長にエスコートをさせたとでも、箔を付けたいのだろうか。何とも面倒な話だ。
午後一番に公爵邸に着いてから半刻あまり、使用人が慌ただしく動き始めたところをみると、ようやく支度が出来たのだろう。渋々立ち上がり、扉に頭を下げて姫を待つ。
ノックの後、扉が開いて人が入って来た気配がする。
「お待たせして、すみません。」
先に姫の言葉を聞き、視線を下げたまま挨拶をする。
「第一騎士団、レオナルド=ジェ=ダイトと申します。」
「セレシア=タイト=スピネルでございます。どうぞ顔をお上げください、レオナルド様。急なお話でしたのに、エスコート役を引き受けて下さいまして、ありがとうございます。お忙しいところ、大変申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。」
ほぉ。甘やかされ、高慢で鼻持ちならない女かと想像していたが、どうやら礼儀はきちんと弁えているようだ。それならこちらも、王族に対しての、礼を尽くさねばなるまい。
「とんでもございません。セレシア様のエスコートが出来るなど、身に余る光栄でございます。」
おもむろに視線を上げ、驚きで言葉を失う。
そこには、見たこともないほど魅惑的な女性が立っていた―――。
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パカッパカッパカッ
パカッパカッ
耳に慣れた馬の蹄の音を聞きながら、セレシア様が乗っている馬車の隣を、馬で並走している。どうも、先程の衝撃から抜け出せない。
あの後、驚きと動揺を気合いで瞬時に抑え込み、にこやかに姫を馬車まで送った。今はカーテンが閉まっているので、馬車の中を伺うことなど勿論出来ない。それなのに、つい窓に目が向いてしまう…。
先程のセレシア様は、まさに海から上がった人魚のようであった。銀糸のように流れる美しい髪に、吸い込まれるようなブルーの瞳。
そして、なによりもあの魅惑的な肢体。細い腰に、こぼれ落ちそうな豊な胸が、何と刺激的だったことか。
歩くたびに煌めくドレスは、裾が尾びれのように広がっているが、全体的に身体のラインがハッキリと分かるほど細身で、嫌でもその裸体を想像させた。
離宮に到着し、俺のエスコートで馬車から降りる。隣に立つセレシア様を 間近で見下ろせば、豊かな胸の谷間にペンダント先が挟まっているのが見えた。扇情的なその光景に、思わず息を飲む。
「……幼い頃、王宮の庭でお会いしたことがあるのですが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
邪な事を考えていたからだろうか。セレシア様の質問に反応が遅れた。いけない、既にフロアに着いたようだ。それに、セレシア様は今何て言った?王宮で?いつの話だ?
「やはり、覚えていらっしゃらないですよね。…では、アゼツライト殿下やラズリム様はどうでしょう?幼い頃、よく遊んで頂いたのですが…。」
………えっ?
それは俺が10歳くらいの頃の話だ。父と一緒に何度も王宮に招かれていた時期があった。
主に、幼い第二王子の遊び相手としてで、アゼツライト殿下の元に伺うと、たいてい同じ年頃の友人である男の子二人が側におり、何だかんだ言って結局俺がまとめてお守りをするはめになっていたのだ。確か名前は…。
「あの時の三人はアゼーとラズと私です。」
「はっ?…あ、いや。」
あの中にセレシア様がいただと?あの時は確か、殿下がいて、一人はラズと呼ばれていた。そして‥‥もう一人は?こちらも愛称で呼ばれていたハズだ。しかし、あれがセレシア様?
「そう、でしたか…。いえ、申し訳ありません。男の子だとばかり…。」
「お気になさらないで下さい。あの頃は元気過ぎて、男の子の遊びばかりしておりました。」
「……確かに。木登りや剣など、いたしましたね。今の貴女からは想像もつきませんが…。」
あの時、第二王子が4歳だったはずだから、同じ歳のセレシア様も4歳と言う事になる。
三人ともスボンを履き、どの子も我先にと木に登っていた。剣の相手もしてやったはずだ。第二王子もさることながら、残り二人も幼いなりに筋が良かったのを覚えている。
しかし、どうしたらアレがこう成長するんだ。女は化けると言うが、ここまで変わるものなのだろうか?いや、それよりも、病弱と言うのはやっぱりデマだと言うことだ。一体、何の為に…?
「レオナルド様は、女性が剣を持つ事をどう思われますか?」
セレシア様は用意された王族用の椅子に座ると、その後ろに控える俺に、前を向いたまま話かける。その様子はどこか物憂げだ。
「うちの騎士団にも女性騎士はおります。男性が入ることの出来ない後宮や、姫様方のプライベート空間での警護をするにあたり、剣を持つ女性の必要性は日々感じております。
なれど、個人的な意見ではございますが、女性が男性のように振るまい、男を出し抜こうと腕を張り合うのは正直言いまして、現実的ではないと思っております。」
そもそも男と女では身体の作りが違うのだ。どんなに女が鍛え上げたとしても所詮 屈強な男の力には敵いはしない。
それに子を成す事は、女にしか出来ない事ではないか。子を産み育てることは、とても誇らしいことなのに、結婚もせず、なれるわけのない男になろうとするのは、俺には理解が出来ない。
「そうですか…。予想していたより、ご理解があり、安心いたしました。」
セレシア様は詰めた息を吐くと、弱く微笑んだ。
「なぜ、そのような事を?」
昔のお転婆ぶりを気にしているのだろうか?
「いえ、後程レオナルド様とゆっくりお話ししたい事があるのです。」
俺と?
セレシア様は伏せがちな目を上げ、こちらを見た。上目遣いに、白いうなじと紅い唇が何とも婀娜っぽい。
つい、あらぬところに向かいがちな目線を押し止めながら、会場内を見渡し気を配る。エスコートのために一時的に警備から外れたとはいえ、責任者は依然自分だ。けれどそれも虚しく、結局頭の中からセレシア様を追い出すことは出来なかった。
宴も二日目ということもあり、国王夫妻は早々に部屋にお下がりになった。
楽団が町で流行りの曲を奏で始めると、会場は一段と砕けた雰囲気となる。
夕闇が幾重にもかかり、灯りの存在が強く感じられるようになってきた頃、セレシア様に外を歩きませんかと庭に誘い出された。
通常なら、女性と二人きりで庭に出るようなことはしない。暗くなってきた庭に誘うなど、はしたないとすら思い、そういう誘いをかけてくる女性を今まで軽蔑してきた。それなのに何故、今夜は何も言わずについて来てしまったのだろうか。…まさか、俺はその何かを期待しているのか?
遊歩道を二人でゆっくりと歩く。セレシア様が口を開くのを待つが、なかなか話し始めない。
そう言えば、この遊歩道から少し入ったところに、白薔薇のアーチとベンチがあったはずだ。少し落ち着ける場所の方が話しやすいかもしれないとベンチの存在を伝えれば、セレシア様はあっさりとついてきた。
もしかして、俺は誘われているのだろうか?そうでないとすれば、あまりにも無防備過ぎはしないか。
アーチのところまで着き、ベンチに二人で腰を下ろした。座ったまま見上げた白薔薇のアーチは、葉の合間から月がのぞいている。
側に桃色のフラニが満開に咲き誇り、花の甘い香りに酔いそうだ―。
長いの沈黙の後、セレシア様がようやく固い口を開いた。
「……レオナルド様から見て、国に貢献できる、私の役割とは、何だと思われますか?」
はぁ?役割?
姫は一体、何が言いたい?
セレシア様と言えば先王の末娘。主要国への婚姻は既に姉君達が結んでいるし、縁を結びなおすにしても年齢から言えば現王の姫君達の方が相応しい。しかし、それさえも当分先の話だ。今も、これからも、セレシア様が他国に嫁がれる必要はない。
そうだ…。
病弱と言われていたからこそ、今まで特に問題になってこなかったが、セレシア様の降嫁はどうするのだろうか。
セレシア様といえば、御兄姉のうちで一人だけお産まれになったのが遅く、王族の中で少し浮いた存在でもある。
そのセレシア様に求めること?
「民の模範となり、慈愛をもって民を導くことでしょうか。」
我ながら、ありがちな回答だ…。
「それは貴族であるなら、誰もが当然している事ですよね?それを踏まえた上で、私自身が国の為に何が出来るのかと、ずっと考え続けてきました。」
まぁ、そうだろうが…。しかし…。
「女性は男のように仕官して国政に携わったり、剣を振り、他国の侵略から国民を守ったりすることは出来ません。女性には女性の、子を成し家を守るという重要な役割がございます。」
「……確かにそれも大切なことと思います。しかし、そ―」
「貴女は、家政・社交を学んで家を守り、その美しさで、国の為に命をかける男を癒すことが出来る。」
思わず話を遮ってしまった。そうだ、セレシア様の残る選択肢は国内での降嫁。なら…その相手は?
もしかすると、統帥は俺をその候補にお考えなのではないだろうか。だから、セレシア様のエスコートを俺に、した…?
そう考えれば全てが合致する。
セレシア様はどこかうわ言のように俺の言葉を呟く。
「家政を学び…」
このセレシア様が俺のものになる…?
それは、なんて甘い誘惑だろうか。一度そこに思い至ると、もうそれしか見えなくなるほどに。
そう、今なら手が届く…。
暗闇に浮かぶ 細く白いうなじは、劣情を誘い 喉の渇きを覚えさせる。その甘く柔らげな唇を味わえばこの渇きは満たされるのだろうか?
咲き誇る花の香りが、沸き上がる欲望を更に煽り立てる。
このようなところまでついて来たんだ。姫もそれを望んでいるのではないか?
「…私が、癒す…?」
「えぇ。」
――貴女のその唇で
――その魅惑的な肢体で。
分からないのなら、俺が教えて差し上げればいい。
「このようにするのです。」
先程から、ずっと目が離せないでいる紅い唇に、自らのを重ねる。
「!!」
彼女の身体が強ばるのが分かった。
唇を味わえば少しは収まるかと思った渇きは、いくら重ねたところで一向に収まる気配もなく。それどころか、ますます強くなっていく。もっと深く、もっと激しくと、欲望のままに何度も唇を重ねた。
「んっ!ふ、、ぅん…。」
彼女の苦しそうな吐息がもれる。その声にすら堪らなく煽られる。必死に押し返そうとする様子さえ可愛い。
「男の力には敵いませんよ。」
必死に俺の胸を叩く細い両手を片手でまとめると、彼女の頭上で抑えた。
「何を、なさるのです!お止め下さい!」
腕を外そうと身体を捻り、蹴りあげようとしているのか脚が宙を掻く。
こんな小さな女性が、いくら暴れようとも、覆い被さっている俺を覆すなど出来るわけがない。
それなのに諦めずに抵抗する様子は、逆に俺の欲望を刺激する。
彼女が身体を捻れば、豊かな胸が目の前で躍るように揺れ、足を動かせば、裾がせり上がり美しい脚があらわになる。
「その儚い抵抗が、逆に男を煽っていると知っていますか?」
再び唇を塞ぎ、柔らかい膨らみを手で包んだ。
「なっ。ん~~っ!」
手を這わせて驚く。何てことだ、この人はよりによって、コルセットすら身につけていない。
「ん! ん~っ!!」
柔らかく温かい感触が、薄い布越しに手に伝わってくる。これで止めろと言う方が無理な話だろう。
散々、貪った唇は紅く膨らみ、尚も誘うように艶かしい。唇よりこぼれた唾液を舐めとりながら、そのまま耳、喉、鎖骨と舌を這わす。
「はな、して!…やめっ…。」
胸の谷間に顔を埋めながら、その弾力を口でも味わう。柔らかい感触を食みつつ、手は腰から太股へと撫でおろした。
「嫌がっておいでですよ?」
不意に後ろから声がかかる。
っ誰だ!
振り返ると、そこにいたのは―――。