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ヒーローは誰?  作者: 花名
春の宴
33/48

走る余興

 ギルバート総団長に提出する書類を片手に、ふと疑問に思う。


「そう言えばクラウド、この前王宮に呼ばれてたよね。それって宴の関係?クラウドの予定って、どうなってるの?」


 隣で書類を整理していたクラウドが振り返った。



「報告が遅くなりましてすみません。初日は例年通り参加いたしまして、2日目以降は特別任務を拝命いたしました。」


「それって、ラピス殿下の余興?」


「はい。」


 2つ年上の甥、ラピス王太子は気さくな性格な上、快活で爽やか。パッと見た感じは理想の王子様なので、ご令嬢にも人気が高い。


 素の顔を知っている身内としては、どこが?って思っちゃうけどね。あれで結構したたかで腹黒い人だ。


 あの爽やかな笑顔で黒いセリフを吐く姿に、何度戦慄を覚えたことか。ラピス殿下は間違いなく兄様達の血をひいてる。


 同じ歳のアゼーと私は、いたずら友達のような気軽な関係であるのに対し、ラピス殿下とは親しい間柄であっても、常に緊張感が付き纏う。これが王太子の威厳ってヤツなのだろう。

 とは言っても、イベント好きで面倒見もいい人なので、結局は良いお兄さんなんだけどね?


 このラピス殿下が主催する余興は、何かと趣向を凝らしていて、いつも参加者を楽しませている。


 去年は確か、騎士達から女性陣へ、フラニの髪飾りを贈るというイベントだった。髪飾りを贈る騎士達は適齢期の独身者で揃えられ、贈る際には目の前で膝間付(ひざまづ)き、手の甲にキスを乞うた。その上、直接髪を触って髪飾りをつけるという、その一連の行為に、真っ赤になる娘達が続出し、その初々しくも愛らしい姿は、多くの人の目を楽しませていた。

 そして、ここからは男性にのみに知らされていたこと…。実は、贈られた髪飾りは色違いの二種類で、とある部分が水色のものは“婚約者がいる”御令嬢、ピンクのものは“婚約者がいない”御令嬢といった風に、意中の人がフリーかどうかを知る目印でもあった。


 一昨年は配付される手掛かりをもとに、離宮全体を探す宝探しだった。男性と女性で探す宝が違い、これを2つ合わせると、ある部屋の鍵が開くようになっていた。二人で開けたその部屋は、温室さながらに花で溢れ、各テーブルには高級ワインと小さくて可愛い(つい)の宝石が置かれており、勝者を順に迎えたそうだ。


 どの余興も好評で、この時期に決まる縁談も少なくない。


 先日、クラウドが王太子に呼ばれていたから、もしかしてと思っていたけど…。


「仕掛人は第一騎士団からじゃなくていいのかな?うちが出たら、第一と揉めない?」


 毎年、余興の仕掛を担当するのは第一騎士団なのだ。王宮を知り尽くしている分、第一騎士団が執り行うのが自然だからね。


 うちが出て、またレオ殿の機嫌を損ねたりしたくないんだけどな…。かと言って、ラピス殿下の要請を断るわけにもいかないけれど。


「問題ありませんよ。この依頼はレオナルド殿の提案だそうですから。第一だと出来レースになる恐れがあると…。あぁ、あと私の逃げ足が速そうだから、とも言ってましたね。」


 出来レース?逃げ足って何?


「いったい今年は何をやるって?」


「それはまだ秘密です。せっかくの余興ですから団長も楽しんで下さいね?あぁでも、もし見かけたら、こっそり手助けしてくださると嬉しいです。」


 クラウドはどこか楽しそうに話す。きっと今年の余興も色々な仕掛けがあるのだろう。


「会えたらね?夜会は人が多いし、見つからなければ諦めて?」


 さすがに夜会にはセレシアで参加しないといけないから、どんなに探したってセレスはいないのだ。しかし、薄情に突き放した返答にクラウドは珍しく食いついてきた。


「では、もし大勢の中から団長を見つけることが出来たら、欲張りませんから、何かご褒美を戴けませんか?」


 普段、何かと物分かりの良いクラウドが、おねだりをするなんてと、少々面食らう。


「任務中なのに、私を探してる暇なんてあるの?」


「無駄にただ走り回るのは退屈ですからね。何か目的が欲しいのですよ。」


 そこまで走るって…、今年の余興って一体……。


 いない人間(セレス)を探させるのは気がひけるんだけどな。


「会えるかは別として、仕事を頑張ってたら考えてもいいよ。何か欲しい物でもあるの?クラウドなら大抵のものは手に入りそうだけど。」


「‥‥そうでもないですよ。ままならない事ばかりです。何を戴くかは、走りながら考えますね。」


 クラウドは嬉しそうに笑う。要するにこれも暇つぶしのひとつなのか…。


「そう?出来るだけ叶えてあげたいけど、あまり無理難題は止めてね。あっ、今やってるその書類が終わったら、うちの配置表を提出しに行ってくれる?

 宴期間、貴族階級の騎士は休暇扱い。それ以外の者は通常勤務。宴期間の責任者は一番隊 隊長のダンとする。ダンで対応出来ない時は私が対応するよ。連絡係はアル。基本、アルを騎士団に留めるけど、私も午前中に1度は顔を出すようにするよ。クラウドは特にこちらから連絡がない限り、殿下の指揮下に入って。

 以上。今日はこれを持っていったら、そのまま直帰して構わない。久しぶりだし、ギルバート様と積もる話もあるでしょ?」


 最近、忙しかったからね。主に私とアルのお守りで…。たまにはゆっくりさせてあげないと。


「了解しました。お気遣いありがとうございます。書類は終わっていますので、ではこのまま失礼しますね。団長、お疲れさまです。」


「うん、お疲れさま。」




 クラウドが部屋を出ると、誰も居なかったはずの続き部屋からアルが出てきた。


 アルは何やら含んだ視線をこちらに寄せる。


「なぁ、そろそろ限界じゃね?チラホラと騎士達も勘づいてきてる。俺はこれでも、よくもった方だと思うけど?」


「……そうだね。頃合いかな?現時点で、どれくらいの人数が気付いてる?」


「あ~、確信を持ってる奴はまだいないかな。でも、半数以上は半信半疑ってとこだろ。下手にこじれる前に自分から話したら?アゲート様も性別を隠せとは言ってねぇだろ?」


「うん。言われたのは『団長になれ』ってだけだね。ただ…、女と分かると身元がバレやすくなるからなぁ。そうすると、今後、黒の仕事だってやりにくくなるし。何より黄国(シトリア)が警戒するんじゃない?」


 騎士達に話すのは簡単だ。問題は女と分かれば、私がセレシアだとやがて気付かれること。


 私の煮え切らない様子に、アルは困ったヤツだなと呆れた顔をする。


「相変わらず、お前って馬鹿だよな。あのさぁ、お前って結局何なの?黒騎士?王族?それとも団長?

 お前は根本的な部分でさ、何でありたいの?」


 私の根本…?


 黒騎士でいたいのは、お飾りの王族になりたくないからだ。税を食い潰すだけの存在になんてなりたくない。


 私に出来る事を…。私の役割…。


 私が黒騎士を選んだのは…手段のひとつ?


私の望みは‥‥


 ――この国に必要とされる人間でありたい。


 あのとき私に出来たことが、たまたま黒騎士になることだった、だけ?


 …………。


 そっか、そもそも黒騎士に拘る必要はないのか。 どっぷり裏の生活に慣れちゃったけど、元々、国の為に働きたかったのだから、それが第二騎士団でも、いいんだ。


 そうか…。そうなのか。


「アル、ありがと。何かスッキリした。

 ……早速だけど、ライアンとユリウス、それにトビーを呼んでくれる?」


「はいはい。仲良しの三人ね?しっかし、相変わらず立ち直り早くて人使い荒ぇな。」


 アルは文句を言いながら、笑顔で出ていった。






 日が傾き出した頃、ライアン、ユリウスが訪れ、最後にトビーが扉を叩いた。


 先ず、来てくれたことにお礼を言い、黒騎士の部分を伏せ、出自と性別を打ち明ける。


 きっと驚いて、今まで黙っていたことを怒るだろうと覚悟してたんだけど、何故か3人とも、少しも驚くそぶりがなかった。


「……みんな気付いてたの?」


 難しい顔をしている3人に恐る恐る尋ねると、ライアンが顎を手で押さえながらこちらを見る。


「う~ん。ちょっと聞くけど、ガキの頃、俺らとシャワー浴びたのって誰?」


「登竜試合の後の事?それ間違いなく私だけど?」



「ペッタンコだったぞ?」

「俺らと変わらなかったよな。」

「…………。」


 隣でアルがニヤニヤしている。ペッタンコって胸?胸のことを言ってるの?子供の頃だし、普通はみんなそうじゃないの?


「今更、女って言われてもなぁ。」

「セレスがお姫様ねぇ。」

「でも、女装映えはしそうですよ?」


 女装映えって、ユリウスそれフォローじゃないからね。


 3人の様子にアルは腹を抱えて笑い出す。苦しそうだ。お前はそのまま酸欠にでもなればいい。


 でもこれって、脱がなきゃ信じて貰えない感じ?


「……なら、今の私を見て同じことが言えるかどうか、確かめればいいよ。」


 半ばやけくそに騎士服のボタンに手をかけると、アルはそれを見て、さらに腹を抱えて床に転がりだした。切れ切れに何か言っている。


 耳を澄まして聞けば、ムカつくことしか言ってなかったので、躊躇わず踏みつける。


 アルを睨み下ろしつつ、上衣を脱いだ。上半身はさらしだけといった姿だ。これで流石に分かるはず。さらしだけでは身体のラインは隠しようがないって…思ったん、だけど??


「「「…………。」」」


 ……反応 薄っ!


 いや、分かるよね?まさかここまでして、まだ詰め物とかって思われてるの?なんで!?


 沈黙に堪えきれず、さらしにまで手をかけたとき、ユリウスが慌てて自分の上着を掛けてくれた。


「そこまでしなくていい。」


 転がってるアルは『どうせなら全裸、見せて貰えばいいのに』と笑っている。


 こいつ、あとで殴る。ってか、今 踏み潰す。


 ほどなく『ぐぇっ』と、おかしな音が下から聞こえきて、少し溜飲が下がった。


 どうやら3人は信じられなかったのではなく、戸惑っていただけらしい。


 確かに、突然“私はお姫様です”なんて言われれば、はっ?頭大丈夫?って思うよね…。


 だけど、みんな『お前が誰であっても、大切な友人に変わりはない、話してくれて嬉しい。』と言ってくれた。『打ち明けるのが遅すぎる。』とも。


 この足の下にアルがいなければ、すごく感動的な場面なのに……。


 改めて3人に幾つか頼み事をすると、それぞれ頷き帰っていった。

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