表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーローは誰?  作者: 花名
春の宴
30/48

野次馬

**********

(アル)


 日が傾き、空が紅くなり始めた頃。


 やっとアゲートの“剣の稽古”と言う名の“イビリ”が終わって寮に戻ることが出来た。容赦ないシゴキのせいで全身はボロボロだ。


 あいつ、最近デスクワークばっかで鈍ってるかと思いきや、相変わらず化け物並みに強いったら…。


 身分があって、剣も強くて、仕事もできて、ワイルド系イケメンな上に、品も威厳も兼ね備えてるだなんて、天は二物を与え過ぎだ。まったく。


 しかも、目が回るほど忙しいだろうに、わざわざ時間を作ってまで俺をイビるところに、底知れない執念を感じる。


 更に言えば、あの容赦ないシゴキは絶対、いつぞやにセレスの股関を蹴りあげた事の報復を兼ねたストレス発散に違いない。ったく、女だから問題ねぇだろうが。あのシスコンめ。


 シャワーを浴びて、タオルを首にかけたまま食堂に行くと、いつもなら夜勤以外の騎士は皆ここで寛いでいるのに、今日は何故か誰もいなかった。


 不思議に思いながらパンを頬張ると、廊下を慌てて走る騎士が見えた…あれはダンだな。目の前を走り過ぎようとしたところを掴まえてみた。


「おい、どうした?」


 そう問いかければ、ソワソワした様子で口早に話す。


「団長と副団長が手合わせするって!副団長は双剣を使うらしいぞ。」


 へぇ。面白そうじゃん。


 見た目は優男風のクラウドだが、副団長を張るだけあって剣が滅法強い。それに、なんて言ったって双剣を得意とするあのジルコン侯爵家の人間だ。


 しかも、名高いジルコン家の双剣は見たくても簡単に見れるものじゃない。なんせ公式試合では双剣の使用が認められてないし、そもそも武を競うことに興味がないとばかりに、一族揃って御前試合も不参加だ。


 双剣にこだわりが強い家系なのかと思えば、騎士団の鍛錬は他の騎士に合わせて一刀で振っているし。常に腰に双剣を下げてるわりに、それを使わない。目立つのを嫌う家系なのは知ってるが、腰に下げておいて使わないって何だよ。


 まぁ、双剣も珍しいって言えば珍しいから、手合わせしづらいってのも分かるけどな。


 ずっと出し惜しみしていた、そのお家芸を出すんだ。相手がセレスなら……もちろん本気でやるんだろ?滅多に見れないクラウドの双剣を見逃すわけにはいかない。


「ちなみにセレスは一刀か?」


 あいつ、腕力ないから双剣を扱えないもんな。だとするとやっぱり異種戦か?


「あぁ。刃は潰してあるの使って、実戦を想定したなんでもありでやるって。」


 ふ~ん、まぁそうなるか。


 クラウドの俊敏な動きは、双剣だとどうなるのかね?


「急がないとな。見逃したら惜しい。」


 俺も急いで部屋を飛び出した。







 鍛錬場まで来ると、激しい剣戟の音と歓声が辺りを覆っていた。


「何だよ、もう始まってんじゃん。」


 急いで、人混みを掻き分けて、前に出る。


 いた。あそこだ。


「うわっ。速っ!」


 闘技場を走り抜ける2つの影。刀身が夕陽を反射してキラキラと光っている。


 ――うちは速さが売りなんです。


 いつだったかクラウドが言っていた言葉が浮かんだ。これは確かにゾッとする速さだ。セレスが相手だから様になってるだけで、そこらの騎士じゃあ相手にすらならない。双剣を使わないのって出し惜しみじゃなかったんだな。


 クラウドの剣は一刀の時も速い。それが同じ速さで二刀同時に襲いかかってくるなんて、正直言って嫌な相手だ。


 ふむ。もし俺がこいつを殺るとしたら、どうする?流石に間合いを詰められたら…ヤバイな。もともとデンデンは接近戦に向いてねぇし。デンデン使うなら距離を保つしかない。でも、もし抜けられたら?……メーチ出せるか?いや、この速さじゃあ出す前に終わる。


 つまり勝負は間合いで決まるな。自分の間合いが保てれば俺の勝ち、踏み込めればアイツの勝ち。


 しっかし、あの速さは本当に厄介だわ。セレスもよく受けてる。


 そういやぁ、今まで気にしたことなかったけど、改めて見るとセレスの剣も変わってるのかもな。腕力が足りない分、相手の力を流すやり方は非力ならではだけど…。あいつもよく動くから、はたから見れば踊ってるようにすら見える。ふ~ん、速さ自体はいい勝負なのか?


 おっ。セレス笑ってるし。余裕じゃん。楽しそうな顔しちゃって~。



 二人の動きを目で追っていると、後から体格のいい男が近づいてきた。


「どっちが勝つか賭けないか?」


 どうやら皆で賭けを始めているらしい。確かに団長と副団長の立ち会いなんて、格好の興だよな。


「じゃあ、副団長(クラウド)が勝つ方に5千マルク。」


「おっ!いいね~。今日は第二船団もいるし、団長に賭ける奴が多くてな。もう一声上乗せしないか?」


「何?みんなセレスに賭けてるの?なら、4万5千マルク上乗せしといてよ。」


 堪えきれず、笑いながら言う。


 よしきたっ!とばかりにその騎士は喜んで、次のターゲットを探しにいった。それを見ていたダンが心配そうな顔でこちらを見る。


「お前、副官だろ?団長を応援しないでいいのか?」


「いいんだよ。どうせ、セレス負けるし。…あっ、でもこれ、セレスには内緒な?バレたらボコられるかも。」


「お前……意外と薄情なんだな。」


 ダンは呆れ顔だ。


「現実的って言えよ。賭けに勝って俺が旨い酒を呑んだ方が、結局はセレスだって嬉しいって。」


 団長も気の毒に…とブツブツ言うダンを見て口の端を上げて笑うと、激しく剣を交わしている二人に視線を戻した。


 さぁ、セレスはクラウド相手にどう足掻くんだろうな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ