口は災いの元?
読んで下さり、ありがとうございます。
今回は黒騎士の会議(報告会)の様子です。人物がたくさん出てきますので最後に人物まとめを付けました。
スティーブは振り向きもせず、さっさと窓から出て行ってしまった。釈然としないまま後に続き少し南へ走ると、小さな橋の欄干に先程まで一緒に酒場にいた下級貴族の男と従者の少年が立っていた。
「無事に回収したよ。スティーブはここでディスターを待ってて。アルとソラは顔を見られてるから、私と先に撤退ね。」
スティーブの胸にしまってあった書類を受け取り、自分達のアジトに到着すると、回収したモノをもう一度確認する。
そうこうしているうちにディスター達も戻ったので、全員を部屋に集めた。
「―――では、今回の任務について。
スティーブ達が先行して調べた、例の権利書は今回でようやくその全てが回収出来た。元凶である黄国のジャルナ公爵は、あの宿にいた男達によって、既に何らかのかたちで拘束されている可能性が高い。まず、ファリス達の方はどう?」
別行動していたファリス達の報告を先に促す。
「問題となった領地に関しまして、共謀していた一部の者を除き、元々の管理者が優先的に任地に戻れるように手配致しました。今回新たに管理者に据えた者も、オランジェスタ伯爵から、お墨付きを頂いておりますので心配はないと思います。」
確かに、長年に渡り黄国との国境を守ってきた重鎮(オランジェスタ伯爵)の推薦があるのなら、間違いないだろうな。
「それは良かった。あとは‥‥あの宿にあったモノと、あの男達が何者か、だね。」
視線を向けると、ディスターがむずかしい顔で口を開く。
「まず、国境付近の土地を買収していた黒幕は、こちらの調べ通り、黄国のジャルナ公爵で間違いないでしょう。
他にも色々と問題がある人物だったようで、今回とは別に犯罪や不正に多く関わっていたようです。あの部屋にあった書類はその証拠や資料が主なものでした。
その一番大きな罪状は謀反。余りにも余罪が多いので、土地の買収の件は黄国においてはさほど重要視されていないようですね。しかし、あの男達が持っていた押収書類の中に、うちの件に関わる連判状と各関係者の自供書類もありました。その内容から、やはり買収の目的は国境の実行支配でしょう。
そしてあの男達の身元ですが、ほとんどが黄国第三王子の私兵です。おそらく公爵の余罪の証拠品押収や関係者の洗い出し、断罪の為の手続きに動いていたのではないでしょうか。
そうしますと既に捕らえられている公爵は、そのまま処刑を避けられないと思われます。
あと…、セレスがベットに運んだあの男は…、おそらく第三王子本人です。」
「…………… はぁ!?」
おっと、大きな声が出ちゃった。
いや、でも…。え~?
あのお兄さん、騎士でも官僚でもなくて王子様デシタカ。
うぅ~…丸裸にしちゃったよ。しかも、色々……。これ、まずくない?
そっかぁ、あれが公の場にはなかなか出てこないって言うルークス王子かぁ。王子ってことは、今後夜会でバッタリ会う可能性も、ある…よね?しまったな、今回の役、ファリスに代わって貰えば良かったってそんな事言っても、もう今更だけど…。
今まで会わなかったんだから、きっと今後も会わないって思うのは楽観的過ぎるよね。
お互いに社交から遠いから多分大丈夫だろうけど、可能性はゼロじゃないし。気付かれたら言い逃れが難しい。
あ~っ!もう!!どうせならあのクソ公爵がうちの国まで手を出す前に、さっさと捕まえてくれれば良かったのに!
……はぁ。
つまり、あっちはあっちで第三王子が動いてたってことだよね。王族が動けば色々無理も通るし、都合がいいってのは分かる、うちがそうだし。
社交嫌いで軍に入り浸ってるって話は隠れ蓑かぁ。セレシアの病弱設定と同じじゃん…。
「まぁとにかく、この利権書が黄国に渡るのは都合が悪かったから、王宮に届く前に回収出来て本当に良かった。公爵への制裁を私達自身で出来ないのは残念だけど、今回は黄国にお任せしよう。
王子と鉢合わせてしまった件については、帰国してから兄様達の指示を仰ぐことにするよ。みんな、お疲れさま。……因みにディスターが写してたのは連判状?」
「はい。」
ディスターがさっき写していた書類を手渡す。
「……ん、こっちの見逃しは無いね。国を売った貴族達には自分の行いをとことん後悔して貰う。
じゃあ、ディスターは帰国後、オランジェスタ伯爵にもこの写しを渡してね。あと…ファリス。念のため、暫く第三王子とセレシアの接触を防ぎたいから、予定していた黄国での公式行事を全てキャンセルか、オランジェスタ伯爵夫人に代わりを依頼して。
これからセレシアは表向き、体調不良で公務を中断の上、帰途につくことにする。
取り合えず、本日中にここを引き払って、早朝に国境を越え、昼にはポートガス領のオランジェスタ伯爵邸に入る、以上。」
話が終わって場の緊張が解けると、スティーブは先程までの真面目な顔を崩して楽しそうに話し出す。
「ところでセレス、とうとうアルとちゅうしたって本当?リリィ達と合流したら初ちゅうのお祝い、してあげようか?」
うっ。
何ウキウキしてるのコイツ。今は王子の件で頭が痛いってのに…。
一体、誰がスティーブに話したんだか。よりによって一番面倒くさいやつに中途半端な事を言うなよ。
ジロッとソラを睨むとソラが慌てて目を逸らした。やっぱりお前か…。
ソラの隣に座るもう片方の当事者は、ニヤニヤと面白がってあえて無言を通している。そうやってアルがハッキリ否定しないから、こうなるのに…。もうっ!
ここで「してない」って言っても、アルが意味深に笑っている限り誰も信じやしない。今でさえ、照れるなよと言わんばかりの様子がくやしい。
違うのにっ!
「……分かった。もう一度同じことするからよく見てて。」
半ばやけくそに立ち上がり、ソラの前まで来るとそのまま膝の上に腰掛ける。
突然の密着した体勢にソラが可哀想なくらい動揺してるけど、チクったお前が悪い。一緒に晒し者になれ。
ソラの動揺を無視して、左手を耳の後ろに添え、ゆっくりと首をなでるように後頭部に回し、髪を絡めた。右手は頬を包みこんだ後、その親指で唇をなぞる。泳いでいたソラの目がこちらを向いたかと思うと、目を見開き、そのまま身体を硬直させた。
フワッと笑いかければ、ソラが息を飲んだのが分かる。
やや上目遣いで顔を寄せ、甘えるように指先で鼻先や唇をいじる。ソラはさっきからずっと硬直したままだ。ザマァミロ。
身を寄せて更に顔が近づき、そのまま口づけをした…ように見えるが――
セレスが顔を離すと真っ赤な顔をしたソラの唇の上に、添えるように右手が残っている。
そう、王子に使ったのと同じ手口だ。
ふんっ、と鼻を鳴らし、さっさと膝から降りると、ファリスを連れて出発準備の為に部屋を出た。残されたのは男どもだけ。
「なぁソラ、普通にキスするよりも“クル”だろ?」
アルがニヤニヤとソラに話しかけるが、ソラは真っ赤な顔で固まったまま。
「ソラには刺激が強かったらしいぞ?」
「全く、セレスも人が悪い…。」
未だに固まって動けないソラを生暖かく見守る元凶達だった。
人物まとめ
【黒騎士メンバー】
*セレス(セレシア)主人公
王妹セレシア。
セレスとして黒騎士にて活動中。
*アル
いつもセレスとペアで活動する騎士。
今回の作戦で下級貴族の役をしていた。
*スティーブ
ちょっとウザイタイプ。
*ディスター
スティーブとペアになることが多い。
真面目さん。
*ソラ
新人。まだ純情が残ってる少年。
今回の作戦で従者役をしていた。
*ファリス
女性騎士
今回の作戦では別行動。
【黒騎士協力者】
*オランジェスタ伯爵(ポートガス領主)
国の重鎮。よき協力者。
【黄国side】
*第三王子(ルークス王子)
軍に籍を置き、社交嫌いの生粋軍人だと
言われていたが、実は諜報・斥候なども
やっているようだ。
*ジャルナ公爵
国を私欲で乗っ取ろうと画策して失敗。