想い描く未来・グレオスからの手紙
―――トントン。
侯爵家の執務室のドアをノックする音が響く。
「入りなさい。」
思慮深い瞳をした壮年の男性がそれにこたえる。
「失礼します。」
「……答えは出たか?」
「はい。」
「では聞こう。」
ドラコ侯爵はグレオスに座るようにすすめると、自身も執務机からソファーへと移動する。
「俺はこのトーンの港がより栄え、そしてより暮らしやすくする為に区間整理を提案します。」
「区間整理?」
「はい。現在ドラコ領は、明確な区分をしておらず、大小の商店・宿・住宅が、街に混在しています。
更に、整備された道はありますが、馬車や馬、人や荷車、路面店もがその場所を取り合い、日々混雑に悩まされています。
一度それらを全て見直し、交通の便を良くすることで物を流れを効率化、路面店を集めて大きな市場をつくることで相乗効果を促し、住宅と商店や宿を分けて治安向上を図ります。」
「ほぅ…。しかし、それには莫大な資金と時間がかかるぞ。」
「はい。覚悟しております。それに…、一度にするつもりも、必ずしも全てをやるつもりありません。領民に負担をかけぬよう、緊急性のあるところから順に、時間をかけて取り組んでいくつもりです。」
「ふむ。やり方を間違えれば大きく財政を傾けるが、慎重に取り組むのであれば‥‥。それにこれから先、長い時間があるお前に相応しい仕事だ。私の代でそれを成し遂げるのは難しい。
慎重にやると約束するのであれば、出来る限りその想いを後押ししてやろう。今度、街の構想の骨格案を作って見せてみろ。」
「はい。父上!」
ドラコ侯爵領が活気溢れる大港湾都市となるのは遠くない未来。けれど、グレオスが大侯爵と呼ばれるようになるのは、まだまだ先の話。
【グレオスからの手紙】
***************
我が友、セレスへ
先日は大変世話になり、改めて感謝申し上げる。
バインの傷口も癒え、通常の生活をおくれるようになった。後遺症も特に心配ないそうだ。迅速な治療と応急処置が良かったのだろうとこちらの医者に言われた。
治療に当たってくれた騎士達にも、感謝していたことを伝えて欲しい。
セレスに選んでもらった宝石をこちらの職人に渡したところ、初めて扱うと困惑していたが、書類一式を渡すと、なにやら嬉しそうに呟きながら帰っていった。
お前の名前はうちの職人も知ってるらしい。よく分からんが誉めていたので伝えておく。
ちなみに、デザインはフィーに任せた。たったこれだけのことなのに、凄く喜んでいた。お前の言っていたことを、もう少しよく考えてみるつもりだ。
お前の友、グレオス
***************
***************
我が友、セレスへ
誕生祝いの品(剣の房飾り)を受け取った。とても気に入っている。ありがとう。
両親へのプレゼントはとても好評だった。デザインをしたフィーも両親から誉められ、誇らしそうだった。
父上も母上もとても喜んでくれ、幸福な誕生日が過ごせた。セレスのおかげだ、ありがとう。
お前の友、グレオス
***************
***************
我が友、セレスへ
お前ふざけるなよ?なんだ、あの恐ろしい兄貴は。確かに礼がしたいとは言ったが、借りた恩の取り立てが半端ない!どこの高利貸しだっ!!
お前の兄貴は躊躇うことなく、笑顔でうちの執事達をこきつかってるぞ。日に日に痩せていくアイツらが不憫でならん。
父上と俺も毎日王宮へ走らされている。本当、あんな約束なんてしなきゃよかった。
しかし、お前はよくあの兄貴の下で働き続けれるな。いや、コレが日常だからこそ、その年で団長なのか?
それにお前、俺に隠してることがまだあるだろ!本当にふざけんなっ!次に会った時、覚えてろよ。
あと、いちいち、お前に馴れ馴れしくするなとか牽制されるのがウザイ。男だと思ってたのに下心もクソもあるか!兄貴が帰ったらしっかりお前からも言っておけ!!
お前の友、グレオス
***************
***************
我が友、セレスへ
やっとだ。やっと終わった。これであの悪魔が帰る。たった1週間が恐ろしく長く感じたぞ。
正直言って、身も心もボロボロだ。割りに合わない。
だが、あの仕事ぶりと恐ろしくキレる頭脳にズバ抜けた身体能力。尊敬を通り越して恐ろしいが、とても勉強になった。
それにあの父上が、あのように毎晩楽しそうに笑う姿を見るのは初めてだった。歳も近いし、話が合ったのかもな。
今度は兄妹2人で遊びに来い。こちらも親子で歓迎する。
お前の友、グレオス
***************