護るもの
前半は前回と内容が重複します。
後半に戦闘描写があります。
グロくはないですが、苦手な方はご注意下さい。
原石の購入後、一瞬疑うも、グレオスはアッサリとこちらの話を受け入れてしまった。これはもう、元来の性格なのだろう。心配ではあるが、眩しくも感じる。
後は、夕飯をご馳走になりながら観光案内でも申し出れば、自然に側にいられるだろう。
グレオスの連れがいると言う宿に向かい歩いていると、街の様子がどこかおかしいことに気付いた。
“何かあった”それはもう直感だ。胸騒ぎが酷い。
騒ぎの中心には、血だらけで意識のない男性が倒れていた。脈はまだあり、血は乾いておらず、斬られて間もない様子で出血が続いている。背中の傷が特に酷く油断は出来ないが、すぐに止血すれば命は助かるだろう。
改めて周りの声を拾うと“娘達が”,“拐われて”,“さっき騎士団”,“連絡”,“助けようと”,“斬られて”,“また人拐いが”と次々にざわめく声が耳に入る。
十文字の残党…。しかも、こんな日中に多数の目撃者を出すなんてザコもいいところだ。
人混みを分けてようやくたどり着いたグレオスが取り乱し始める。倒れているのはグレオスと共にいた男で、あの娘達は妹とその連れらしい。
つまり拐われたのは侯爵令嬢と言うことになる…。厄介なことになったな。
グレオスは心配で堪らないのだろう…。その取り乱す様子を見ると心が痛む。
「……アル!いるんだろ?」
「ここにいる。」
隠れて私達を尾行していたアルが人垣から姿を見せた。
「第二には連絡してあるようだ。もう少しすれば、かけつけるだろう。アルはここで応急措置をして待って、第二がきたらクラウドに詳細を伝えて。私は女性達の救出に向かう。例の場所を近い所から順に洗うよ。いなければ白。追いかけてきて。」
準備もなく単身で向かう事が、どんなに危険かは分かってる。分かってはいるけど、このままではグレオスが、がむしゃらに突っ走りそうだ。
残党達がそれに反応して、拐った娘達を殺害してさっさと逃亡、なんてことになったら最悪だ。
娘を殺されて跡取りに何かあれば、こちらに非がなくとも、ドラコ侯爵は黙っていないだろう。
グレオスの手綱を引きつつ、早急に解決しなくてはならない。アルだって同じ事を考えてるのだろう。いつになく渋い顔をしている。
「了解。セレス、俺が追いつくまで、向かってくるやつは捕まえずに殺せ。それが俺がここに残る条件だ。」
アルの本来の役目を考えれば、本来 私が危険な時ほど側から離れるわけにはいかない。だけど、今回は譲歩してくれるらしい…。
「………分かった。」
私だって、無理に捕まえようとして、うっかり殺されるなんてまっぴらだ。
グレオスも、さっきより幾分か落ち着きを取り戻し、アルがバインを手当てする様子をジッと見ていた。
「グレオスはどうする?」
「勿論、行くさ。」
だよね、そう言うと思ったよ。なら、さっさと片付けようか。
以前、スティーブ達と作った潜伏先リストを思い浮かべる。前回あらかた潰してあり、残っている場所はそんなに多くない。
リストの場所を、犯人が逃げた方へ向かって1つ1つ踏み込んで確かめる。違うのが分かれば白い印を残した。アル達が追いかけて来れるように。
幾つか空振りをした後、ある建物の近くで見覚えのある顔を見つけた。あいつは確か…幹部候補だったヤツだ。
ヤツは周りを気にしながら、数人の男達と一緒に建物に入っていく。他に見覚えのある人間はいない。新しく仲間を増やしたのだろうか。
建物に出入りする人間は思っていたより多く、一般人と犯人との区別がつかない…。
これは、まずいな…。
「どうした?」
グレオスが焦れて話しかけてきた。
「……おそらく、あそこにいる。」
焦るグレオスの気持ちも分かる。しかし、あの人数が全て一味なら、間違いなく拐われたのは二人だけではないだろう。おそらくここには他の被害者もいる。
被害者全員の安全を最優先にしたい。出来れば、もっとこちらも人数が欲しい。
しっかり作戦を練ってから……
「なら、早く行くぞ!」
「待て!!……おそらくアイツらは、拐った娘達を黄国の売人に売るつもりなんだと思う。商品の価値を落とすような事はしないから、たぶん二人は無事だ。
アル達が来てから突入すれば、全員を捕らえることも出来る。それに、このまま強引に突入して徒に刺激すると、逆に娘達が危ない。」
「ふざけるなよ?あの黒髪が来るまでにフィー達が無事でいる保証がどこにある?お前が行かないなら、俺だけでも行く!」
あ、やっぱり?
「…だよね。分かったよ。ただ、突入する前に、言っておく事がある。」
「あぁ?」
「拐われたのは2人だけとは限らない。妹君達だけでなく、他の被害者の命も考慮して欲しい。
あと、犯人は捕らえなくていい。逃げる奴は追うな。そして向かって来た奴には容赦するな。グレオスは被害者と自分の身を守ることだけを考えて。いいね?」
これで嫌だと言ったら、最初にグレオスを拘束することになるだろうな。
「分かった。さっさと行くぞ。」
分かったのか…。残念。
いきなり剣を持って現れた私達に、犯人らは一気に戦闘体勢に入った。さて、どうやって選別しようか。それに出来ればグレオスより、自分に注意を集めたい…。
「やぁ初めまして、人拐いども。私がお前達の頭を捕まえた、第二騎士団のセレスだ。敵を討ちたい奴は、遠慮なくかかってこい。向かってきた奴は全員ぶち殺す。」
おっ!割りといい反応が返ってきた。目がギラギラしてるヤツとビビってるヤツに別れたな。
久しぶりの戦闘。帰り血を浴びながら、斬る感触に嫌悪を覚える。
相手側に剣の手練れがいないことに安堵しつつ、武器を持って向かって来るヤツは斬り捨て、素手で来るヤツは蹴りで沈める。
グレオスをチラッと見れば、ガシャン!バリン!とたくさん物の巻き込みながら派手に立ち回っている。……大丈夫そうだね。
気の弱そうな男を一人捕まえて、娘達の居場所に案内させ扉を開けると、弱い悲鳴があがった。中には6人程の女子供が身を寄せあっている。
やっぱり…と言う気持ちが大きい。顔立ちの綺麗な子供ばかり、大人と呼べそうな人は2人しかいないので、おそらくアレが妹君達だろう。
縛られているにも関わらず、顔に殴られた跡のある少年が必死に娘達を背中に守ろうとしてる。なかなかに健気だ。
「助けに来ました。」
安心させる為に、柔らかい笑顔を向けた時だった。
「どけっ!」
グレオスに押し退けられる。流石にちょっとムッとしたけど、続いて剣を持って入ってきた奴らの相手で手一杯となり何も出来ず…。
まぁ、アル達が来るまで、この扉を守って待ってようかな?
こう言う時に、入口が1つだと助かるよね~。なんて呑気に考えてたら、中からグレオスの騒ぐ声が…。どうやら妹君が安心したのか意識を失ったらしい…。
あぁ…もう、次から次へと…。まだ終わってないのに。
扉の前では、膠着状態が続いている。斬りかかってくる奴はもういない。互いに睨み合いが続いている。
視線は敵から外さず、意識は部屋の中に向けて声をかける。
「グレオス、妹さんの脈と呼吸に異常は?」
「異常はないが、二人とも意識が戻らない!」
増えてるし!でもまぁ、眠っててくれれば運ぶの楽だからいっか。
「増援が、くるのか…?」
娘達を見つけたのに、一向に逃げようとしないことに違和感を感じたのだろう。
でも今更気付いても、もう遅い。遠くから争う声が聞こえ始めたからね。きっとアル達が追い付いたんだろう。
そこからはあっという間だった。倒れている者のうち、歩ける者は連行され、被害者達は全て無事に解放された。