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ヒーローは誰?  作者: 花名
褐色の青年
21/48

所変われば

**********

(グレオス)



 蒼国(サフィニア)の港町。『龍宮亭』と書かれたこの飯店は、2階が全個室の料亭風で、1階はセルフサービスの食堂となっている。


 白国(オパーリア)には無い、この“セルフサービス”という仕組みが面白い。

 まず、どれでも1皿=1コインで食べることができる。安価なわりに店の者はみな親切で礼儀正しく、初めての客にも嫌な顔ひとつせず丁寧に対応してくれる。それなのに頑として給仕だけはしない。これぞ異文化。


 この町の1日に慣れてくると、俺達は周りの客に話しかけたり、町を散策したりしながら過ごした。


 そして、この数日で分かってきたこともある。例えば、この町にいる大半が移動中の他国民で、そのために入れ替わりが激しいこと。そして、これだけ人が集まるにも関わらず、食事以外に娯楽がないこと…。意外と質素な国民性なのだろうか…?


 白国(オパーリア)を意気揚々と出発したのは、つい先日なのに、既に行き詰まりを感じている。


 ………なんだかな。


「食事は、上手いけどな…。」


 フォークを片手に、揚げた魚と野菜を炒めたものを見ながら話しかける。


「えぇ、でも…、なんと言うか。」


 バインは複雑な表情をする。あぁ、俺も本当に何て言えば良いか分からん。あまりにも想像と違い過ぎる。


 この町は、どうも淡白で生活感がないのだ。人当たりは良いのに、どこか冷たい印象があり、多くの人が行き交うのに何故こうも殺風景なのか。


 これが貿易立国?市場が充実すると、こうなるとでも言うのだろうか?


 いや、そもそもこれは街と言えるのか?



 隣に目をやればバインが不安そうな顔をしている。


「分かってる。このままでは帰れない。明日からは王都にでも行ってみるか…。」


 店を出て港に向かう。これが蒼国(サフィニア)の港湾都市……。確かに、整備された道を荷馬車が途切れることなく通り、多くの木箱が船に積み込まれていく様子は圧巻だ。


 けれど、何というか………面白味がない。


 活気はある。誰もが急いでいて、充実した顔をしていると思う。


 しかし、活気があっても『華やかさ』はなく、笑顔があっても『笑い声』は聞こえない。


 ………そうか、この違和感の正体が分かった。


 普通なら存在するはずの“子供”がいないのだ。白国(オパーリア)であれば、どこにでも見かける、遊ぶ子供の姿がここには無い。


 本当、うちの港街とは何から何まで違う。



 待合所として使われている港のテラスまでくると、不意にバインが声を上げた。


「あっ、そうだ。グレオス様、今のうちに残りのお金も白国(オパーリア)のダガーから、蒼国(サフィニア)のマルクに全て両替していいですか?」


「あぁ、そうしてくれ………って、オイッ!あれ!」


 バインの方を向いた瞬間、目の端に写った人影に目を見開く。あそこにいるのは間違いない、我が愚妹だ。おそらく変装でもしたつもりなのだろう、白国(オパーリア)の娘がよくする、ごく一般的な格好をしている。


 ……だが、そもそも白国(オパーリア)の装いが、蒼国(サフィニア)において異国の服になると何故分からない。異常に目立っているぞ。


 バインも俺が見ている方向を見て驚き、口を開けたまま呆然と呟いた。


「…えっ?フィオリア様が、何故ここに…?」


 本当だ、何故いる。


 急いで駆け寄り捕まえた。つい腕を強く掴んでしまったが、多少痛くとも自業自得だろう。


「さぁ、どう言うことか説明して貰おうか?」





 話を聞くと何のことはない、このじゃじゃ馬娘は俺が蒼国(サフィニア)に出かけたと聞いて、すぐに追いかけてきたようだ。相変わらず無駄に素晴らしい行動力をしている。


 父上には、書き置きをひとつ残してきただけらしく、聞けば聞くほど頭が痛くなることばかり…。


 こちらはこの事態に頭を抱えたくなっていると言うのに、当の本人は、そんなことお構いなしで膨れっ面だ。


「私だってもう子供じゃないのよ?お兄様ばかりずるいわ!ちゃんと準備だってしてきたし…。ミーナだけじゃなく、護衛にエリオスだって連れてきたもの。それに…、お兄様達にだってちゃんと会えたじゃない?」


 ……色々突っ込んで説教したい。


 まず、ちゃんと準備してきたなら、白国(オパーリア)の服で彷徨くような馬鹿なマネしないだろ。


 気温の高い白国(オパーリア)の服は、こちらに比べて男女共に露出が多い。白国(オパーリア)なら良くても、普段 主に長袖を着用するこの国で、年頃の娘が肌を(あらわ)にした服で歩けば、必要以上に注目を浴びるに決まっている。


 それから、エリオスは護衛になどならん。ただのミーナの幼馴染みの商人だぞ?男と一緒なら安心だとでも思っているのだろうか?


 あぁ、くそ。言いたいことは山ほどある……。


 だが、まずこれだけはしっかり伝えておかなくてはいけない。


「……これから父上に手紙を書く。お前達のことを心配しているだろうからな。無事に俺と会えたことを伝え、返事を待つが…おそらく返事と一緒に迎えが来る。そうしたら、その迎えと一緒に帰るんだ。いいな?

 出来るだけいい宿をとってやるから、お前はそれまで部屋で大人しくしていろ。約束が守れるなら一度くらい、一緒に蒼国(サフィニア)の王都を回ってやってもいい。」


「………………。」


 さすがのフィーもこれ以上はマズいと思ったのか、下を向いて殊勝な顔を見せている。


 まぁ、ちょうど王都に移動するところだったし、向こうで宿を取り直して、帰る前に少し買物にでも付き合ってやれば、フィーも気がすむだろう。


 ただしその前に、しっかり反省してもらうがな!!



 ……この時、俺はすっかり忘れていたんだ。コイツが大人しくしている時は、一番 注意が必要なんだってことを。気付いていればバイン一人に任せたりせず、絶対に離れたりしなかったのに。




 ―――せっかく蒼国に来たのですもの。行きたいところが沢山あるの!早くしなければ、お父様のお迎えが来ちゃうわ。だからお願いっ!お兄様が戻って来る前に………ね?



=新しい登場人物まとめ=


白国(オパーリア) ドラコ侯爵領の人々】

――――――――――――――

ダリオス=ドラコ (父:領主)

――――――――――――――

グレオス=ドラコ (嫡男)

《専属執事》 バイン

――――――――――――――

フィオリア=ドラコ(妹)

《侍女》 ミーナ

《商人》 エリオス

――――――――――――――

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