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ヒーローは誰?  作者: 花名
第二騎士団
18/48

仕切り直し

「………部屋に入られよ。」


 やった。思わずにんまりとしてしまう。


 初めて入る部屋は意外にスッキリと片付けられた実務的な雰囲気だった。招かれるままソファに腰を下ろすと、年若く人懐っこい笑顔の少年が出てきてお茶を出してくれた。


「それでクラウド殿、先程の話は本当なのか?」


 おや、私は無視する気ですか?クラウドと目配せし合い、質問には私が答える。


「本当ですよ?陛下の“勅命”をいただき、団長となりました。正式な任命は春ですが、ギルバート様が総長に昇任されることもあり、前倒しで任に当たることになりました。」


 レオ殿は深く、それは深く溜め息を付く。


「お前が、団長…。」


「はい。私が団長です。」


 レオ殿は、陛下の勅命に物申すは不忠とでも考えたのか、文句一つ言わずに複雑な顔をしている。


「…では、挨拶も済んだ事ですし、少しお時間よろしいですか?」


「あ゛ぁ?」


 レオ殿が顔を上げて、こちらを睨む。お前にやる時間はねぇ!って感じだ。

 この間ずっと、お茶を出してくれた少年は空気のようにレオ殿の後ろに控えていた。何で彼はこちらに座らないんだろうと不思議に思いながら話を続ける。


「今まで、騎士団同士の交流は頻繁にありましたが、意外にも船団と騎士団との繋がりは細いのが現状です。いい機会ですし、第二騎士団では今後、船団と人員を定期的に送り合い、互いに切磋琢磨していこうと考えています。

 しかし、第一騎士団(こちら)は業務の性質上、人員の受け入れが難しいですよね?ですから、受け入れは出来ずとも、もし人員を出せるのであれば、うちと一緒に船団にお邪魔しませんか?」


 一昔前は、団長や隊長クラスに戦争経験者が多く残っていて、私的な交流も盛んだった。けれど情勢が安定して久しい今、船団も騎士団もそれぞれの独自性が進み、ごく稀ではあるけれども、互いのライバル心からか揉めることだってある。


 今回の人事についても、兄様達が何かに警戒しての配置であるのなら、今のうちに国内戦力の結束を固めておきたい。


 既に戦争経験者の多くが引退してしまい、地方に戻っている今、経験者(年長者)に頼っていた従来の体制を見直すいい機会だと思うのだ。


「私は、長く続く穏やかな時間によって、団員がただの警備員になってしまうのが心配なのです。どの団員も、全てが我が国の兵士であり、その垣根はないという自覚を持ってもらいたい。互いに交流を深め、何事にも迅速に対応できるように‥‥。

第一騎士団は、王宮の最後の要です。有事が起こった時ほど、貴殿方(あなたがた)は王宮から離れられないでしょう。しかしその時、他の団がどのような動きをし、どう連携をとるのかを、第一の騎士達も知っておくことに損はないと思うのです。」


 レオナルドは珍しいものでも見ているかのように目を丸くしている。これは私の事を今までどう思っていたのかがよく分かる反応だね。


「それはクラウド殿の考えか?」


 やっぱり私の考えだと受け入れられないのかな。


レオ殿の問いに対し、クラウドが微笑みながら答えた。


「いいえ。全ては我が団長のお考えですよ。今日の挨拶回りで、あっと言う間に話を纏めてしまわれまして、私などは出る幕ありません。」


 それは違うよ!


「待った!クラウドがいなければ、レオ殿は就任の話すら信じられなかっただろうし、こうして今、会話が出来るのも、クラウドのおかげだ。

 他の団長も、確かに個人として親しくはあるけれども、これが私だけの意見であれば決して頷いてはくれなかったはず。貴方が隣にいて、私を肯定してくれることが何よりも大きいんだよ。」


 慌てて伝えた内容に、クラウドは少し照れたように笑うのに対し、レオ殿はどうしても不信感が拭いきれない様子でこちらを見ている。


 本当にこの人は、頑固じじいのようだ。も~、いつまで引きずる気なの…。


 試合後に兄様から受けた説教が、頭をグルグル回る。


「正式な任命は春だろう。なのに、クラウド殿の威をかり、既に団長気取りか?クラウド殿がいなければ己で立つことも出来ない者が、ずいぶん大きな口を叩くものだ。」


 うっ!


 なかなか辛辣。本当の事だけに、これは痛い。言葉に詰まっていると、いままで空気の様に控えていた少年が口を開いた。ようやく話を聞く気になってくれたらしい。


「本当に船団長方の承諾が取れたのですか?」


 少年も、クラウドに質問する。

 あっ、何かちょっと切ない…。


「えぇ、どちらでも二つ返事で了承を貰いました。」


 すかさずクラウドが答える。


 そう、拗ねてるアゼーだって即OKだった。団の機密も大切だけど風通しも大切。

 団員の交流も、おそらく以前から頭にあったのだと思う。


 私の本来の立場も知っている両船団長は、立案者としても問題ないと判断してくれたのだろうけど、それを知らないレオ殿からしたら、お前ごときが!となるのは当然のことだよね。だからこそ、挨拶の順番を最後にしたんだけどね。


「お前個人が船団長と一体どういう繋がりがあるんだ。」


 心底、意外そうにレオ殿が問いかけてくる。



「私の事が知りたくなりましたか?」


「不要だ。」


 早っ! まぁ、いいけどね。



 それより、なかなか話が進まないのがツライ。


「もし、うちが断ったらどうする気だ?」


 ……もう何だかだんだん面倒くさくなってきたよ。


「別に何も?『あぁ、馬鹿だな』と思うだけですよ。」


 つい口から毒がでる。案の定、レオ殿の額に血管が浮き出た。でも、イラついてるのはこっちも同じだ。いつまでこの会話を続ける気なんだろう…って原因は私か……。


 本当、あの時にあんなやり方をしなければよかった。まさに自業自得ってヤツだ。


「第一騎士団においても危機感が薄いといいますか、兵士として、団員の未成熟な部分が目に付きませんか?それに比べると船団は、海と言う曖昧な国境を隣国と小競り合いを繰り返しながら常に守っているので、緊張感が騎士団とは全然違いますよ。

 兵を育てるには、経験が何にも勝る訓練となりますが、その為にいさかいを起こす訳にもいかないでしょう?なら、少しでも疑似体験をと思いまして。既に話は全て纏めてあるのです。貴方はこの話に乗るだけでいい。それなのに、一体何を躊躇っているのです?」


「お前が気に入らない。」


 うん、やっぱりソコなんだね。


 レオ殿の言葉にはもう答えず、クラウドに視線を向ける。


「クラウド、そちらの方と二人で話を進めてくれる?」


 レオ殿の後ろに立つ少年を差し示す。


「貴方のお名前を教えて頂けないでしょうか?」


 少年に名を尋ねると、ふんわり笑ってこたえた。


「僕は“イーレ”と言います。セレス団長。」


 幼い容姿にそぐわない、思慮深い瞳が面白そうにこちらを見ている。


「イーレ殿、詳しい内容はクラウドからご説明いたします。私は若輩ですし、至らないところも多いかと思いますが精進致しますので、これからどうか宜しくお願いいたします。

 それから…。もし、レオ殿に愛想を尽かすことがあったら、是非私のところに来て下さい。いつでも歓迎し…うわっ!」


 話の途中でレオ殿が立ち上がり剣を抜いた。反射的にソファの後ろに飛び退く。


 この人は本当に沸点が低い…。


「何を勝手な事を言っている!イーレをお前にやるつもりは無い!」


 もう目が据わってるし…。


「いい人材は、見つけた時にスカウトしておかないと手に入らないのですよ?イーレ殿だって、いつかレオ殿に飽きる日が来るかもしれないじゃないか。」


 レオ殿の剣を避けながらこたえる。


「お前は!曲がりなりにも、団長を名乗るのであれば、いい加減、私の剣を、一度でも受けてみたらどうなんだっ!!」


 話しをしながら剣を振っているにもかかわらず、一振り一振りの威力はそこそこ強い。


「馬鹿言わないでくれる!?私がレオ殿の剣を簡単に受けとめれるわけないじゃないか!……あぁ、でも‥‥ねぇ?それなら、もう一度あの試合をやり直さない?」


 そもそもアレが元凶なんだから、いっそのこと、やり直せばいいじゃないか。そんな気分で放った一言は、意外にあっさり受け入れられた。


「……いいだろう。」


 二人は無言で外へと向かった。





**********



 騒がしい2人が部屋を去ると、窓の外からは涼しげな虫の音が聞こえ始めた。いつの間にか日が落ちている。


「……セレス団長も言っておられましたし、話を始めますか?クラウド殿、詳細をお教え下さい。」


 イーレの表情からは、すっかり幼さが消え、水色の瞳は静寂な湖面のように静かで思慮深い。


「今まで何度もお会いしているというのに、このような貴方に今まで気が付かなかったとは…、私も未熟ですね。」


 クラウドの言葉にイーレは苦笑しながら見つめ返す。


「私は近衛が長いです。近衛は普段、王族の傍らで気配を消し、空気のように控えます。逆に敵と相対する時は、敢えて目立つように存在を示し、自分へと注意を引き付けるのです。気配を消すことも仕事のうち。ですから、お気になさらず。

 けれど、セレス団長は初めから私の事を随分と気にしておられました。『何故、こちらに一緒に座らないのか。』と責められている気分でしたよ。

 それに…対外的な仕事をレオが、内務的な仕事は私がと、分担して執り行っておりまして。今回の案件ですと、私の管轄になります。

 同じ騎士団でも、知らない者も多いのに、セレス団長はどうやらそれも知っていたようですね。何故ご存じだったのか、機会があれば是非ゆっくりとお話を伺いたいです。」


 イーレはセレスが出ていった扉を見つめている。


「私もあの方に関して、今日は驚いてばかりですよ。」


 2人は一呼吸おいた後、スッと態度を切り替えると、粛々と話を進めていった。

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