入団
あれから毎日、レオナルド団長を訪ねて第一騎士団に行くも、いつも門前払いをされていた。
初めこそ殊勝に腰も低くかったのに、日が経つにつれ徐々に腹が立ってきて、ある日強行突破。
最近では顔を合わせると剣を抜かれるという…。もう、ここまでくると意地の張り合いだ。
だけど、関係が修復できないまま入団というのはやはり心が重い。だからつい足取りも重くなるのに、隣を歩くアルはどこかウキウキしてるって…何で?
「お久しぶりです。ギルバート様、御無沙汰いたしております。」
執務室でペコリと頭を下げると、ギルバード様が渋い顔でこちらを見た。
「まったくだな。試合が終わってから一度くらい、挨拶に来たらどうだ。一切、第二騎士団に顔を出さないかと思えば、第一騎士団には足しげく通っているそうだし。就任先を間違えているのではないかと心配になったぞ。」
「あ~…それは、すみませんでした。試合があのような状態でしたし、先に仲直りをしてから、こちらに伺うつもりだったのですが…。レオ殿の怒りは凄まじく、一向に関係が向上しないまま、今に至りました。」
「あぁ…。」と、ため息をつくギルバード様に対し、クラウド様はおや?っとこちらを見る。
「“レオ殿”と愛称で呼びあえるくらいであれば、もう十分親しいのではないですか?」
やっぱり、クラウド様って目敏いな。この人と会話するときは気を付けよ。
「いえ…残念ながら、未だに私の想いは一方通行です。」
隣でアルが含み笑いをしている。その様子に不穏なものを感じたのか、ギルバード様は聞きたくなさそうに問いかける。
「毎日、第一騎士団で何をしていたんだ?」
「何をするもなにも。初めは毎日、門前払いでしたし、最近ようやく、部屋の前まで通していただけるようになりましたが(無理矢理だけど)、レオ殿はすぐに……頬を赤黒く染める(激怒する)ので、なかなか会話になりません。」
アルが吹き出し、笑い始めた。
ギルバート様とクラウド様は、顔がひきつっている。
「君は関係を修復する気があるのか無いのか分からんな。その件はもういい。これ以上聞くと頭が痛くなりそうだ。それより引継ぎ作業を行う。」
私だって仲直りする気はあるんだよ?でも、向こうが少しも無いんだもの。そろそろ折れてくれたって良さそうなのに。レオ殿ってば、石頭。
引継ぎはいくつかの書類に名前を書くだけですぐに終わった。『あとはクラウドに聞くように』と言い残してギルバード様は王宮へと行き、アルは先に荷物を置きに宿舎の部屋へ行ってくれた。
団長室は執務室の奥に、続き部屋で書庫兼仮眠室があった。小さな会議であれば十分ここで行えるくらいの広さがある。クラウド様と2人だけになると、余計に広く感じる。
「随分すっきりしていますね。」
「えぇ、セレス様が到着されたら、すぐに使い始めることが出来るように、ギルバード様の荷物は既に片付けてあるんです。先ほど、最後の荷物も持って行かれましたし、ここに残っているものは全て、セレス様の自由にしてくださって結構ですよ。」
セレス“様”!?
「あっ、あの…。セレス様と言うのは…、ちょっと…。」
暗に止めて欲しいと匂わすが、クラウド様はゆっくり首をふった。
「いいえ。内定とはいえ団長になられましたし、私は部下になりますから『セレス様』とお呼びするのが相応かと思いますが?」
いやいやいや、落ち着かないし。
「あの…。クラウド様、出来ればセレスと呼んでくれませんか?」
恐る恐る、お願いしてみると、クラウド様は困った顔をする。
「しかし…、団長が私を様付けで呼んでいるのに、私が貴方を敬称も付けずに呼ぶのは立場上おかしくなりますので…。」
確かに、そう言えばそうか。
「では、お互いに“様”を取りませんか?」
そう提案してみると、クラウド様は少し考えた後、頷いた。
「貴方が私をクラウドと呼んで下さるなら…。」
そう、良かった…って。……ん?
クラウド様は何かを求めるようにジッとこちらを見ている。視線が痛い…。これは…もしかして、呼んでみろって事だったりする…?呼ぶの?
「クラぁ、ウド?」
ひぇっ!声がひっくり返った。
うっ、すみません…。
クラウド様はこちらを見詰めたまま首をふる。何か完全にやり直しを要求されてる感じだ…。
「クラ… ウ ド…。」
「もう一度。」
また、やり直し!?
しかも今度はハッキリ言った!身体の芯に響くようなクラウド様のバリトンの声。クラウド様は何故かどんどん近づき、目の前で立ち止まった。
身長差で見上げる羽目になって、首が痛い…。
「ク ラ、ウ ド。」
何だ、このプレッシャー…。
「おかしいですね。そんなに難しいですか?はい、もう一度。」
クラウド様は目を細めて、両手で頬を包んでくるって、ちょっ、近いわ!
「クラウド!」
「はい。何ですか?セレス。」
ニッコリ笑い、クラウド様の親指が私の下唇をなぞる。えっ?ナニ?コノ雰囲気!
この状況、先に目を反らした方が負けな気がする。
でも、どうすればいい?ねぇ?
視線を反らすことも出来ず、だんだん鼓動が激しくなってきた時、救いの神のようにアルが戻ってきた。
「ん?何してんの?」
「ぁ…イヤ、何だろう…?」
それは私が聞きたい。
「呼び方の練習ですよ。団長を“セレス”と呼び、私が“クラウド様”と呼ばれていては、皆が混乱しますからね?」
「あぁ、なるほど。じゃあ、俺はアルで。アル殿って柄じゃないし。よろしくな、クラウド。」
おい、こっちはアッサリだな!
「えぇ、アル。よろしくお願いします。ところで部屋は分かりましたか?」
「あぁ、そうそう。俺の部屋ね、隊長達と同じ部屋を用意してくれたみたいだけど。それだとセレスの部屋が遠くなっちまうし、こいつの部屋の隣にある物置きで十分だからさ、そっちに変えてもらうことにした。
取り合えず、部屋が整うまでセレスの部屋で寝させてもらうわ。いいだろ?」
「別に構わない、けど…?」
そんなことは構わないけれど何だかクラウド様の周りに冷気が漂ってる気がするのは気のせい…?
何がマズかっただろうか…?どうせ何かとアルは私の部屋に入り浸るだろうし、近い方が確かに便利だ。せっかく用意してもらった部屋を勝手に変えたのが気にいらなかったのだろうか?
「クラウドごめん。せっかく用意してくれたのに。ただ、確かにアルは近い方が都合がいいから。その、隣の部屋って言うのを使わせて貰ってもいいかな?」
クラウド様にそう聞くと何やら言いにくそうに話す。
「あの部屋は元々、物置ですから、居室仕様ではないんです。浴室などの設備もありませんし…。」
「別に共同のがあるからいいさ。隊長以下はどの部屋も浴室ついてないだろ?俺も無くったって構わないさ。共同の使うのが面倒な時はセレスの部屋のを借りるし、あそこで十分だ。」
クラウド様の様子も気になるけど、アルは何でこのタイミングでニヤッて笑うの?何かを面白がってない…?
「……団長を煩わせずとも、アルは私の部屋へどうぞ。セレスは荷ほどきもあるでしょうし。その方が良いでしょう。」
「へぇ…。」
アルの口元がドス黒く楽しそうに笑っている。
うわぁ。何を考えてるのか知りたくないなぁ。
「じゃあ、お言葉に甘えて?」
あぁもう…。
先行きが不安だ。
【組織図】
*統帥 (アゲート)
*騎士団 総団長 (ギルバート)
*第一騎士団 団長 (レオナルド)
*第二騎士団 団長 (セレス)
*第三騎士団 団長 (オニキス(通称))
*船 団 総団長 (デイビス)
*第一船団 団長 (ウォレス)
*第二船団 団長 (アゼツライト)




