反省会
恋愛要素が足りない…。
う~ん。濃い一日だった。ほとぼりが冷めて会場を出ると皆の熱狂ぶりがすごかった。
試合を見た人達は、チケットを手にいれる事が出来なかった人達に囲まれながら、試合の様子を面白可笑しく話している。そして誰もが、その話を肴に酒を飲み、盛り上がっていた。
トビーの処に顔を出した時には、まだ夕方なのにも関わらず、既に出来上がって床に伏している者ばかり。大丈夫なんだろうか?
今日の試合は色々と思い残す部分もあるけれど、取り合えずは任務終了。
………そして、いつもの如くお呼び出しです。
「セレシア、アル。覗いてないでさっさと入って来なさい。」
兄様から声がかかる。やっぱり気付いちゃうんだよね、兄様すごい。
「む~。でも、兄様は何故すぐに分かるんだろう?今回だって音を立てないよう、すごく気を付けたのに…。」
そんな私を見て、兄様は少し困ったように言葉を続ける。
「僕が、君達の気配に気付かないわけないだろう?」
『…地獄耳だしな。』アルが極々小さく言う。
「アル?」
兄様がアルに優しく微笑む。それを見て背中がゾクッとした。睨むより怖いってどういうことだろう…。
「誉め言葉です。」
アルは、しれっと答えた。いや絶対、誉め言葉じゃないし。
「それより、優勝とベスト4おめでとう。それでセレスは、あれからレオと和解したのかな?アルの馬鹿はともかく、お前まで反則負けになるかと心配したよ?」
うっ…。
でも兄様、あれくらいなら反則は取られないよ…?まぁ、それも全部分かってて言ってるんだろうけど。しかし兄様あの席からよく見えたな。
足をかけたこと、審判だって気付いてなかったのに。恐るべし兄様、耳だけじゃなく目もいいらしい。
確かにあの試合は実力不足…だよねぇ。
「…申し訳ありません。レオナルド団長の剣は想像以上に重く、受けとめる事すら出来なかったこと、日頃の鍛練不足と恥ずかしく思います。」
あまり筋力トレーニング増やすと腕が太くなってドレスが似合わなくなるんだけど…、やっぱり、もう少しメニュー増やそうかなぁ。
「……違うからね?セレス。腕力に差がある相手の剣をまともに受けないようにするのは当然のことだし、レオを煽って陽動する作戦も、良かったんじゃないかな。
それにレオのあの闘志は、眩しいくらいに情熱的だけれど、激情に呑み込まれるようでは欠点でしかないからね。レオも今回、いい勉強になったと思うよ?
それはさておき…。それで?これからお前は団長になるのに、団長同士がギクシャクした状態でどうする気なのかな?さっきも言ったけど、レオはとても情熱的で、そして頑固だ。」
あっ!
勝つことでせいいっぱいで、そこまで考えてなかった…。
心の内が顔に出てたんだろう。兄様は呆れ顔だ。
「あの試合は時間がかかったとしても、隙を見て斬り込む方法を取らなくてはいけなかった。
それでなくも、お前は王族だ。公の場で後ろ指を指されるような汚点を決して残すな。色々な意味で本当に今回はハラハラしたよ。やるのであるなら、もっと巧妙にやりなさい。
それに、女の子なんだからレオの剣をはじき返すような筋肉をつけようとしないように。そもそもあんな身体になるのは無理だからね。お前はお前の方法を探せばいい。それにあんなことしなくても勝てたと、私は思っている。…まぁ、まずは早く仲直りをしなさい。」
「はい…。」
これは……ヘコむ。
確かにあの時、レオナルド様は面白いくらい、頭に血が上ってたから、時間はかかったかもしれないけど、粘り強く待てば きっと斬り込むチャンスがあったと思う。
足をかけることのリスクと、その後のレオナルド様との遺恨も考えずに、さっさと楽に勝つ方を選んだことを兄様は指摘しているんだ…。
はぁ…。私ってばまだまだ考えが足りない…。
………ん?でも“やるなら、もっと巧妙に”って…やるのはいいの?
「あぁ、それから。皆が頑張ってくれたおかげで、白国に出発する日を繰り上げることが出来そうだ。少しでも早く解放してあげたいからね。
まず私を含む数名が先行し、白国に働きかける。国王のご理解をいただけたら、私と入れ替わりで第二船団の特別チームが向かうことになっている。
僕は他にも色々あるから、兼務している騎士団総長の仕事を早くギルに引き継ぎたい。
…と、言うわけだから、セレスは来月から早速第二騎士団に入団ね?正式に春の人事で任命するまでは、取りあえず内定ってことなるから。春までにさっさと実務を引き継いでおきなさい。もちろんアルは副官として、セレスの補佐だ。」
「「はい。」」
騎士団に入団かぁ。
「そうそう、今回の御前試合の白熱ぶりが、王都中で話題もちきりでね。デイビスとレオの雄々しい戦いも、あの気難しいウォレスの大爆笑も、アルの反則やレオの暴れっぷりだって、なかなかいい見物だったからね。
決勝まで勝ち進んだ者で、まだ所属先のない者には陛下よりそれぞれ勅命がおりる。お前達と同じように、まずは内定、そして春に正式に任命だ。
ちなみに、ディスターは第一船団の第三隊長に配属される。既に役職のある者には階級の昇進と褒賞が与えられることになるだろうね。……で、もう気付いたかい?」
「はい。船団、騎士団それぞれの要所に、王族もしくは黒騎士が配置されたということですね?」
「そう。もともと黒は何人か潜入してるんだけどね。あまり、目立つところに置くと後々使いづらくなるからね。今回、君達を第二に配置することで、何かあったときの統率が取りやすくなった。あぁ、もし第二騎士団の中の黒に気付いても不用意な接触はしないように。彼等の邪魔になる。」
「分かりました。」
アルと一緒に頭を下げる。兄様達は何を警戒しているんだろう。退出しようとすると、またアルだけ残るように言われる。それを見て、また少し胸がモヤモヤするけれど我慢我慢。
でも前回と違って扉を閉める直前、アルが情けない顔をしてこちらを見ているのに気付いた。
あぁ、そう言うことか…。アルもしっかり怒られておいでよ。多分、反則の説教だ。
これで【第1章 黒騎士】終了です。
次回から【第二騎士団】編に入ります。
第3章への繋ぎ的な章です。