御前試合 3
主人公が姑息すぎる…。
暫しの休憩の後、試合が再開された。とうとう決勝戦、気を抜くと震えそうなくらい緊張してきた。
何たって決勝戦の相手はあのレオナルド団長。昨年の優勝者であり、蒼国が誇る若き剣豪。国の誰もが彼の雄姿に憧れていることだろう。
さぁ、この豪猛たる男にどうやって勝負する?
開始の声がかかった。型で軽く打ち合うも、そのひと振りひと振りがずっしりと重い。型が終わり、レオナルド団長が剣に力を込めて振ると、風がブゥンと唸る。
怖っ!
ディスター、よくこんな剣を受け止めたな…。これマトモに当たったら骨が砕けるんじゃない?
受け流すことさえ生半可なことじゃない。まして、この剣を正面から受け止めるなんて無理だ。合わせた後はその軌道を変えるだけで精一杯だ。
でも、このまま受け流し続けても勝てないし、かといって力で対抗しても相手の得意な土俵に上がってしまうだけだ。(そもそも出来ないけどね。)
どうしようかと考えながら、のらりくらりと剣をかわし続けていると、次第にレオナルド団長の顔付きが変わってくる。
あれっ?これ、もしかして怒ってる?
…………ふ~ん・・・。
正義感が強くて熱い人なのは知ってる。けれどもし、その上に融通がきかない激情型だったとしたら…?
例えば“試合は正々堂々とぶつかり合うもの”
“剣は受け止めるのが当然”
“避けるなんて卑怯者だ”
な~んて思うタイプだったとしたら?
………それなら、私は“そこ”を狙えばいい。
よしっ!怒らせよう。チャンスがあるとしたら、そこだけだ。
レオナルド団長の剣をかわした後、わざと目を合わせてニヤニヤと馬鹿にしたような笑みを作る。ちなみにこれはアルを参考にしている。この顔がムカつくことは私が一番よく知ってるからね。
案の定、レオナルド団長の目つきが変わり、眉間のしわも深くなった。
手応えありと、更にニヤニヤしながらステップを踏んでみる。我ながら、かなりふざけてるわぁ。
途端にレオナルド団長は鬼も裸足で逃げ出しそうな憤怒の形相になった。美丈夫が本気で怒ると凄い迫力があるね!
怒りからか、剣が大きく振り落とされる。よし、いい感じだ。大振りになった剣を、今回は受け止める…ようなフリをして、やっぱりかわす。
顔を赤黒くしたレオナルド団長の脇をすり抜けて、ワンテンポ遅く足を抜く。頭に血が上ってるレオナルド団長は気付かずにつまづいた。
ん?何か言った?ふふっ。卑怯でしょ?ちなみにこれ反則ギリギリ。足をかけるのは反則。たまたま残った足に相手が勝手に引っ掛かるのはセーフ。
なら、わざとやったこれって反則じゃないかって?足を出すのは周りも気付くけど、足を引っ込めるのが遅れるのは事故でしょ。ええ、確信犯ですけど、それが何か?
レオナルド団長も普通の精神状態なら、こんなのにつまづくことなんてなかっただろうけどね。
レオナルド団長は振りが大きくなっている分、つまづいた拍子にバランスを崩して地面に膝をつく。そこに背中から大きな身体を駆け登るように、膝で体重をかけて押さえ込む。立派な身体に跳ね返されそうになるのを掴んで堪えて、剣を喉元に突きつけた。
審判の軍配が上がった。大きな歓声があがる。
………が、しかし!
レオナルド団長は私を後ろに付けたまま立ち上がると。背中にいた私を勢いよく振り落とした。地面に叩き付けられながら反射的に飛び退くと、今までいたところに剣が深く突き刺さる。
ぎゃぁ!怖いぃぃぃ!!
地面が抉れてる!?これ絶対に殺る気だったよね!
審判達が慌てて止めにきてくれるけど、荒れ狂うレオナルド団長に近づけず。
うぁぁ、荒ぶるゴリラ……。
必死に金棒のような剣を何とか避けていると、テントで観戦していたデイビス総長とウォレス団長がすかさず止めに入って下さり、やっとゴリラの手から剣が消えた。しかし、未だに私に殴りかかろうと何か吠えてる。もはや言葉に聞こえない。もの凄く怖い。
“レオの視界に入るな”とウォレス団長に目で促されたので、ご好意に甘えてその場から退場した。
うわぁ、怖かったぁ。
こっそり医療テントまで戻ってきて隠れつつ、手慰みにアルの腫れてきた脇を指でなぞってみる。
アルが時々痛みでビクッとするのを眺めたりして時間を潰していると、いつの間にか閉会式が始まったようだ。
国王様の威厳に溢れた声がテントまで届く。
「逞しくも強靭な我が国の剣士達は、激しい試合にまだ血が騒いでおるようだ。一人一人の雄姿を改めて確認したいところではあるが、未だ滾る血を無理矢理に押さえつけるのも無粋というもの。褒賞は後日、改めて王宮に迎えて行おう。
今日は、このように猛々しくも勇ましい者達が我が国にいることを誇り、皆で讃えようではないか。この者達がいる限り、我が国は如何なる敵にも臆することはない。」
ウォォォオ!!
歓声が会場を包む。表彰を後日、王宮でするなんて異例。イベントを盛り上げて観客を興奮させて、出場者を少し特別扱いする。今年だけ特別な人事を行うことも、これで比較的自然に市民にも受け入れられるだろう。
どこまでが兄様の計算なのか…。アルを見下ろすと考えていることが分かったのか。こちらを向いて呟く。
「やり方に指示は受けてないぜ。俺だって勝てとしか言われてない。」
………当たり前だ。兄様があんな蹴りを指示するはずないだろうが。
次回、姑息な妹が お兄ちゃんに怒られます。