表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

勇者は告げる


黒髪の勇者は、地に片膝をつき、右手を左胸の前へ置き、頭を垂れた。


「火竜。貴女に望むのは、"許し"。

残り少ない魂をかけた、全身全霊の愛を叫ぶことをお許し下さい。

貴女を想えば、冷めた血が騒ぐ。

貴女を見つめるだけで、凍りついた心が揺れる。

貴女の傍らにいるだけで、胸の奥からぬくもりに満たされ、泣きたくなるほどに幸せになれる。

貴女へのこの暴力と変わらぬ激情を、

一生涯の恋を。許していただくことを望みます」


ドラゴンは、ただ静かに勇者の言葉に耳を傾け、黄金の瞳で見つめた。


「…ねぇ勇者。いま、心臓どの辺り?」


俯いたまま。うなじを真っ赤に染めた勇者は胸に置いた手を開き、己の喉を指した。


咆哮でもない、悲鳴でもない。ドラゴンの笑い声が洞窟に響き渡った。



勇者とドラゴンは洞窟を出て湖に向かった。

背中に乗れと命令するドラゴンだったが、女性に跨がるなんてと照れる勇者が気持ち悪かったので、咥えて運ばれた。

湖、海、山。

美しい場所を巡る旅。


ドラゴンの背に乗り慣れた頃には

魔族の里を訪れるようにもなる。

勇者は相変わらず装飾過多な台詞を朝から晩までご機嫌に語っていたが、時折ドラゴンに「それ敬語無しでもう一度」と言われると、やっぱり盛大に照れてしまうらしく、顔は赤かった。


給餌と身繕いも続いていて。


「魔法って便利ですよねぇ」

どうやら牛や豚は、神聖国ライサナの神官専用の農場から「転移陣」と聞いた事のない魔法で勝手に取っているらしい。

山奥深い魔族の里を訪れた時は、痩せた子ども達の腹がはちきれそうなほどに様々な料理を振る舞い

大人達へ保存食の作り方を教え、農地の改良も手伝う勇者。


元々ドラゴンは魔族から慕われていたが、甘い台詞ばかり吐く変な勇者も皆に受け入れられていた。


竜族の中でも、一番の美しさを誇る水竜に合わせた時だけ、火竜は勇者に殺意を抱くことになったが。

「お主が火竜の配下になった人族か。ふむ。醜い火竜のくせに美しい爪じゃな。褒めてやろう。これ、人よ。爪に塗る油を差し出せ。妾が使うてやろう」

「…うっせえ、ぶーす」


水竜VS勇者の戦いは三日三晩続き、勇者が圧勝。

「驕り高ぶる愚かな老人め!世代交代

を浅ましきその身で思い知れ!」

魔王様より恐ろしい顔で止めを刺そうとした勇者を竜達が本気泣きで止めた。


「いくら火竜が世界で一番美しいからと言って、嫉妬や妬みから醜いなどと事実に反する事を言ってはなりません。わかりましたね」

「ごめんなさい火竜ちゃん。貴女が突然綺麗になった、ひぃっ。元々美しかった火竜ちゃんがさらに輝かんばかりのお姿になったので嫉妬しました」


恥ずかしさで火竜の心臓も口から出そうになった。


事実、あれほど憧れていた水竜より、火竜は頭から尻尾の先まで鱗全てが光り輝いていたから、照れ臭い。

勇者の絶え間ない努力(朝晩2回全身の鱗磨き)と、飽く無き怪しげな研究(食糧、睡眠、運動による体調管理)の成果である。


ドラゴンと勇者の大陸を巡る旅は続いた。いつまでも、いつまでも続いて欲しいとドラゴンは願ったのだけれど……



「魔王様!魔王様!勇者がっ!」

「…僕は…幸せです…貴女に会えて…」

「魔王様!勇者を、勇者を!」


早朝、魔王城の大広間に窓を破って飛び込んだのは、一匹の美しいドラゴン。

驚き固まる魔王と閣僚達の前に、ドラゴンは口に咥えていた勇者を、ていっと床に投げ捨てた。


「魔王様!勇者を殴って!」

「……噂のバカップル…」

「カップルじゃない!魔王様、勇者を殴って!言うことを聞いてくれないのっ!」


ていっと投げ捨てられたはずの勇者はなんなく着地し、姿勢正しく膝をついた。

「お初にお目にかかります」

「ムカつく!」

地団駄を踏むドラゴンの足元で配下達がわらわらと逃げ惑う。


「落ちつけ火竜。どぅどぅ。何があったか聞いてやるから」

「脱皮しそうだから山に行かないといけないのに、勇者が着いて来るって言うの!見られたくないのに!」


ふんっふんっと鼻から噴き出す熱風に涼しい顔の勇者。


「脱皮の時に貴女の柔肌が傷ついてはいけません。見守るのは当然」

「火山に入るの!危ないの!」

「貴女の炎よりも熱いものなどこの世に存在しません」

「魔王様っ勇者殴って!脱皮する間預かってて!」


痴話喧嘩?に魔王は額を手で覆い、とりあえず冷静そうな勇者に話しかけた。

「勇者、神聖国ライサナの召喚者か?よく生き残ったな。お前とそこな火竜との珍道中は報告を受けている」

「珍道中じゃないよ魔王様っ」


うんうん、わかっていると火竜に生温かい目を向ける魔王。


「先に礼を言わねばな。我々中央が手の及ばぬ辺境で、勇者と火竜が魔族の者を救ったと数多の報告がある。

そこの二本角の秘書官も、お前が授けた知識に救われ飢餓を乗り越えた奴だ。魔族を代表し、心からの感謝を」


「…ぁあー。それでだな。火山の同行は勘弁してやって欲しい」

「私ならば、自らの安全は」

「違う違う、お前が強いのは分かってるから。裸を見られたく無いんだよ」

「彼女の全身は朝晩尻尾の裏までガン見してますが?」

「おぉい、火竜よ、言ってないのか」


ふいっと首を背けてしまう火竜を不思議そうに見上げる勇者。


「全く。何年旅を続けてんだお前ら」

「何年って……勇者?もしかして寿命近いの?だから離れたくないの?」


ぶおんっと風を唸らせて竜の顎が勇者に落ちるが、彼はなんなく両手で受けとめて、鼻先を優しく撫でる。


「寿命?…そういえば」

はて?と首を傾げる勇者とドラゴン。


「おいおい。頼むぜ。勇者さんよ、あんた召喚されてから二十年経ってるって気づいてないだろ」


ええっ!と顔を見合わせる、ぼんやり勇者とうっかりドラゴン。

ドラゴンはともかく、勇者は出会った頃の青年の姿のままだ。


「おい、火竜。お前この勇者にかなりの魔力渡したろう。同じ金目になった時に気づかなかったか?」

「最初から金目だったよ。珍しいと思ったから覚えてる」

「いえ、僕は黒目のはずですが。いつの間にか」

「はぁ?だって、あの時、」


あれ?


あれ?


一日目は振り落として、二日目にありったけの魔力ぶつけたような?


ぐりんぐりんと左右に首を傾げる火竜と、

よくわからずにとりあえず鱗を撫でる、火竜の魔力を吸収し人族最強になった勇者を、大広間の魔族達はほのぼのと見守る。


「うん。まぁあれだ。相性が良かったって事にしとけ。寿命の心配も当分無いから、今後もイチャイチャすればいい」

「ありがとうございます!お父様!」

「魔王様だよお父様じゃねぇよ」


あれ?あれれ?とまだ首を捻じっている火竜をチラリと見てから魔王は勇者に、だけどな、とにやりと意地の悪い笑みを浮かべ続けた。


「今更こんな事を言うのはバカバカしいが、二人の交際は魔王様、認めません」

「「えぇっ!」」

大きな金目と小さな金目が揃って魔王を凝視する。


「当然だろう、火竜は脱皮もまだの幼体だ。脱皮して人間体の練習をしないと。お前ら竜体と人間体でどうやって付き合うつもりだよ」


幼体?幼体って、えっと、未成年?

未成年?!


「…ひ、ひどいっ魔王様!勇者に内緒にしてたのにっ!」


うわぁぁぁん!


四肢で地団駄を踏んだかと思うと、尻尾で大広間の扉をぶち破って泣きながら走り去る火竜。


「いや、飛べよ」


破壊の限りを尽くされた大広間だが、怪我人が出なかったのは混乱しつつも勇者が防御魔法を無意識に張ったからだろう。


「幼体?…いやでも二十年以上…未成年?」


まだ混乱する勇者を、あぁやれやれと玉座から降りた魔王が肩を叩いてなだめた。


「ありゃあのまま火山の火口に飛び込むだろうから、お前はここで広間の修復でもして待ってろや、な?

脱皮が終わったら、交際だろうが生涯の伴侶だろうが認めてやるから」


…うわぁぁぁん…ぁぁん…。


「あと回廊と、庭の修繕も頼む。ほんと頼む。何、一ヶ月もかからん。

地竜に頼んで、マグマが落ち着いたら知らせるように言うから。迎えに行ってやるといい」


バシバシと肩を叩かれ、勇者がよろめいた。


「いいか、人型を多少失敗してても褒めろよ?鱗や尻尾が残ってても笑うな。一生根に持つからな」

「僕は、」

「ん?」

「…彼女に一生涯の恋を捧げてますから」


だろうねぇ。

火竜が走り去った後も、愛しい眼差しを送る勇者に、魔族達はやれやれと笑い合った。



きっと。

一ヶ月もかからないうちに、勇者は少女をその瞳にうつすだろう。

敬語を使わないように、顔や耳を真っ赤に染めてしどろもどろとしながらも、綺麗な言葉を届けるのだ。


金色の瞳そらさず。



お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ