PROLOGUE
多少残酷描写が入りますが、それほどではありません。どうしても駄目な人はお控えください
人の命等簡単に消えるものだ。
白石守は思う。事実、この引き金を引けば目の前で不様に震える男の命を奪うことが出来る。
ちらっとよぎった罪悪感をいつものことと受け流した白石は男の眉間に銃弾を撃ち込んだ。
ばっ、と飛び散った赤い液体の中に頭蓋骨の細かい骨片が混じる。胸やけをおこすような異臭がその狭い部屋を満たす頃には白石の姿はもうそこにはなかった。 甘い芳醇な香を放つ白い液体を口に含んだ永見達也は端正な面差しを僅かに綻ばせた。
「操り人形だな」
不意に口を開いた永見に、向かいに座る男が怪訝そうな顔をした。
「糸に操られるままに人を尾行すれば、人も殺す。前後関係も善悪も関係ない。憐れだと思わんか?」
「その憐れな操り人形によってこの国は平穏を保てているのです」
さも、不快そうに答えた向かいの男はグラスの中の液体を乱暴に煽った。
「どちらにしろ。白石守を消せばあれに繋がる糸は完全に絶たれる。どのような手段をとるのだ?」
永見の問いに、男は口元を歪めると言った。
「よくある方法ですよ」
「罪のない人間を殺させておき、罪を問う。大人しく従うか、牙を剥くか。どちらにせよ、一介のスパイが国家には勝てない。真実は明かされることは………」そこで、話し過ぎたことを悟ったのであろう。男は突然言葉を切ると、永見の顔を罰の悪そうに見つめた。
「そうだな。後は任せた」
永見はそれだけいうと席を立った。
「笠間三佐、良い報告を待っている」
睨みつけるような一瞥をおくった笠間祐吉は小さく頷いてみせた。
白石守は背後の気配に思わず振り返ってしまっていた。同時に、振り向けられた銃口に息を飲み込んだのも一瞬、電撃的に動いた腕が、ポケットの中に入れておいた小型の拳銃を取り出した白石は、銃口から身を退いていた。
「なんのつもりだ?」
無駄と知りつつも尋ねてみた白石に返って来たのはマズルフラッシュ(銃の発射時に、銃口から飛び散る火花)だった。
頬を掠めた熱い塊に背中が粟立つのを感じた白石は、反射的にトリガーを引いていた。
弾かれたように吹き飛んだ男の死亡を確認した白石は、その手に握られている銃に驚愕した。
グロック17。彼の所属する組織の正式採用銃だ。それを確認した白石は、瞬時に事態を把握すると、走り出した。




