ただ引っ張り合ってみただけなのに
深夜の自室、ふと目に入った一本の縄。ほんの軽い悪戯心が、取り返しのつかない「恐怖」を呼び寄せてしまいました。
暗闇の向こうで蠢く“何か”と、迫り来る湿った怪音。安息の場所であるはずの自室が、一瞬にして逃げ場のない恐怖の舞台へと変貌します。
最後に主人公が耳元で聴いた言葉とは――。
短いお話ですが、夜一人で読む際は、ぜひ背後にご注意してお楽しみください。
深夜の自室で、クローゼットの隙間から一本の太い麻縄が垂れ下がっているのに気づいた。少し奇妙だったが、冗談半分でキュッと引っ張ると、向こう側からもグッと力強く引っ張り返された。ただの思い過ごしかと、つい童心に帰って力比べを始めてしまったのだ。
「ギチ……ギチギチ……」
暗闇の中で縄が強く擦れ合う音が響く。だが、引き合う回数を重ねるにつれ、音が聞こえる位置が明らかにおかしくなっていった。縄の擦れる音の合間に、「ズズ……ズズズ……」と重い肉塊が湿った床を這いずり回るような怪音が混じり始めたのだ。自分が引っ張るたび、そのズルズルという湿った音は、着実にこちらへ近づいてくる。
ゾッとして手を離そうとした瞬間、暗闇の奥から「ギョロリ」と何かが跳ねる音が聞こえ、一気に強い力で縄を引き込まれた。
「パンッ!」
弾けるような乾いた破断音が部屋に轟く。手元で途切れた縄の端が床へ落ち、静寂が訪れた。
(助かった……)
安堵の息を漏らした瞬間、すぐ耳元で、濡れた舌が唇を舐めるようなネチネチとした音が響いた。
「つぎは、なにを引っ張りっこする?」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
実はこのお話、先日見た夢がきっかけで生まれたものです。あまりにリアルな恐怖に目が覚めたとき、思わず背後を振り返ってしまいました。
物語の中だけで済めば良いのですが……。
それでは、また次の作品でお会いしましょう。




