第一話⑤ 「魔女と、ゆかいな使い魔たち」 ナナミ編
「あ、いたいた、ルイくーん」
「来ちゃった〜」
「お菓子、上手に焼けましたわよ〜」
甲高くて可愛らしい声が響く。
キャッキャと嬉しそうにはしゃぐ、高揚した様子の女の子たちがやってきた。
ルイくんはすっかり人気者になっており、女の子たちの憧れの的だった。
物怖じもせずに堂々と振る舞い、来客を迎え入れて対応し、もてなす。私と嘉紋、二人分の紹介までをスムーズにこなしてみせた。
「この館は共同住宅なんですよ。社宅っていうか社員寮っていうか。うん、まあルームシェアみたいな。ボクたち、この館で共同生活をしてて。あ、彼女は雇用主っていうか、大家さんなんです」
「……よ、よろしく、ナナミです」
「まあ、大家さんでしたのね」
「よろしくね、ナナミさん」
「あと、後ろにおられるそちらの方は?」
「ああ、彼は嘉紋。同僚で同居人、ルームメイトなんですよ」
紹介されると前に出て、にっこりと甘い微笑みを見せる嘉紋。
「嘉紋です、よろしく〜」
一瞬、女の子たちの時は止まった。
狂戦士の外面はよく、お嬢さん方のハートをたやすく掴んで離さない。
「嘉紋、ちょっとこっちを手伝ってくれ」
「うん、ルイ先輩。わかったよ、俺、何すればいい?」
すぐさまルイくんは、嘉紋の服の裾を引っ張って、後ろへ控えさせた。
嘉紋は素直に指示に従い、ルイくんの後に付いていく。
「ボクたち、お茶を用意して来ます。みなさんはご歓談をお楽しみくださいね」
こう言い残して、二人はキッチンのほうに向かって行ってしまった。
二人のいないしばらくの間。
お嬢さんたち数人の話し相手は、私一人で務めなければならない。
けっこうな高難易度のハードモードな試練で、極めて成功率の低いミッションだった。
あ、ああ、緊張するぅ。
コミュニュケーションって、難しい。
でもでも、忙しいルイくんにばかり任せていては、いけないわよね。
が、頑張らなきゃ……。
女の子たちは、手作りのお菓子を焼いて持って来てくれていた。
クッキーやマドレーヌなどの焼き菓子。他にも、砂糖細工にキャンディの缶、ロールケーキやバームクーヘンのような巻き物スィーツなどもバスケットに詰められてあった。
香ばしくて甘い香りが、ほのかに広がる。
明るく心地のよい陽の光と、爽やかな風。
中庭には、突貫工事で修繕されたとは思えない出来の、ラティス、ガーデンチェアやベンチ、テーブルセットが設営されていた。
格子状のアイアン壁掛けなどはロマンチックでアンティックなデザインの極みで、その脇にもガーデニング小物の数々が、センスよく配置されている。
テーブルには小さな花瓶に可憐な花々が飾られ、日除けのパラソルまで設置されているのだった。
すべてがルイくんの采配によるものだ。実際に物を動かしていたのは嘉紋で、非力なルイくんは、ただ上から指示していただけではあったが。
ともかく、ここまでお膳立てしてくれたのだ。
私も頑張らねば。
「よ、ようこそ、我が家へ〜……」
しどろもどろの私。
「……あの、その、ゆっくりしていってね。あ、あの、お菓子もたくさんありがとうね」
なんとか会話を盛り上げようと頑張る私。
だが。
ありがたくも、私が頑張ったり無理したりする必要はないくらいに、女の子たちはみんな優しく余裕があり、ごく自然に会話を弾ませていってくれるのだった。
「大家さん、ナナミさんとおっしゃるの?綺麗なお名前ね」
「こちらのお館もお庭も、雰囲気がよくて、とっても洗練されてるわ」
「いいなぁ大家さんってー私もやりたい〜」
えへへ〜。
ああ、嬉しい〜。
たくさん褒められちゃった〜。
みんな優しい、可愛くていい子たち〜。
「あんな素敵な住人に囲まれてさぁ、羨ましいわ〜」
「ルイくんは礼儀正しくて可愛いし、もう一人の嘉紋さんのほうもカッコいいわよね」
「ほんと、あの人、なんだかミステリアスで」
ミ、ミステリアス……??
狂戦士特有の殺気や狂気……業深く闇深く不気味な印象が、そういうワードで良いふうに表現されちゃうとは……。おそるべし嘉紋の外面。
「明るくてにこやかな方なのに、ふとした時に影があって」
「そうなの、謎めいていて。色気というか」
「ね、すごく色っぽいわよね、ドキドキしちゃう」
「それを言うなら、ルイくんも時折見せる大人びた一面が、ギャップがあっていいのよね」
「それよね、ギャップよねー」
「ああ私はやっぱり、可愛いルイくんのほうが〜」
あれ、これって、恋バナ?
すっごく、女子会っぽい。
女の子たちは頬を赤らめ、うっとりとした虚ろな瞳。ポワーンとしていて、すっかり恋する乙女たちの表情となっていた。
賑やかで可愛らしい声が、庭内に響く。
みんな、キャッキャと無邪気にはしゃぐ。
「ふふふ」
私は自然と笑みが溢れていた。
にこにこして、みんなの会話を聴いていた。
たとえ、ろくに口は挟めなくとも。蘊蓄のある格言を用いた言い回しや、会話の内容を大きく作用するような影響力のある返答などは、これといってできずじまいでも。
ただ相槌を打ったり、聞き役に回っているだけでも幸せだった。
わあ、嬉しいなぁ。
お茶会だ、女子会だ。
前世ではたまに楽しめてたけど、転生して魔女になってからは友達とかできなかったし。こんなふうにみんなでお菓子を食べておしゃべりして、キャッキャするのって、すごく久しぶり。
すぐにルイくんと嘉紋がお茶を運んで来てくれた。
二人も合流して、場の雰囲気はさらに盛り上がる。
青空のもと、明るく楽しく開催されたお茶会イベント。ガーデン、ティーパーティー。
魔女であるこの私が、こんな素敵な時間を持てるだなんて、なんだか夢のようだった。
ここは、新天地、なのかもしれない。
悪夢の故郷から移住を余儀なくされて、ここに引っ越してきて。はじめて村の人と、近所の人とこんなに仲良くなれた。
平和な時間を共有することができたんだ。
ああ、なんてありがたいことだろう。
ルイくんと、嘉紋。
二人がいてくれたおかげで、私、こんなに素晴らしい時間を過ごすことができた。
うん、そこは感謝しよう。素直に、お礼を言わないとね。
使い魔って、こんなふうに役立ってくれることもあるんだ。
自分の苦手なことを代わりにやってくれる。
今の私は、一人じゃない。
こんなふうに、誰かに頼っていいんだ。助けてもらっていいんだ。
……甘えて、いいんだ。
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そろそろ日も暮れかけて来た頃、お開きの時間がやって来た。
楽しい時間ももう終わり。しかし、にこにこ笑顔で満足そうに帰っていく女の子たちの姿がそこにあった。
名残惜しさや寂しさだけではない。大切な想い出となった記憶や充足感が、確実に心に残っていた。
彼女たちを見送って、すっかり姿が見えなくなるまで手を振って。門扉のところで、私はしばらくたたずみ続けた。
二人は、私を見守るように、後ろに立ち続けてくれていた。
そんな二人に向き直り、私はゆっくりとお礼を言う。
「今日はありがとう、ルイくん。ルイくんのおかげで、私、とってもすてきな時間が過ごせたわ」
「それはよかったです、魔女様」
「嘉紋も。たくさん手伝ってくれたのね。お庭も、お館も、綺麗になってよかったわ。ありがとう」
「魔女さんの新しい服も、よく似合ってるよ」
うん、そうね。
私、このお館のこと、好きになれそうだわ。新しい服も。
しばらくの間、よろしくね。
ここで一緒に過ごしましょう、二人とも。
そういった旨のことを、私が発言しようとしていると。
しかし。
「あの……魔女様」
その前に、ルイくんに遮られてしまった。
「あのぅ……」
「?どうしたの?ルイくん」
彼の様子が気になった。
「あのぅ魔女様、出会ってばかりでこんなこと、軽薄な印象持たれるのもイヤなので、言うかどうか迷ってたんですが……」
いつも堂々と自信満々に振る舞う彼が、珍しく落ち着きがない。
私の顔をちらちら覗いたり、もじもじしたりと、不安定なルイくん。
「なぁに?」
「ボク、魔女様が好きです……」
「あ、俺もー」
え、唐突ね。
愛の告白。
おまけに、ついでに嘉紋まで。
━━━━━━━━━━つづく!!




