第一話④ 「魔女と、ゆかいな使い魔たち」 類活躍編
幸い、この地は魔女に対する偏見や差別が少ないようだし、まだ私の正体もバレていないようだから好意的に受け入れてもらえるのかもしれない、けども。
でも。
やっぱり、怖いし、勇気が出ないわ。
「あのぅ、魔女様」
食事が済む頃になって、後片付けをしながらルイくんは切り出してきた。
「さっきの話なんですけど」
「……うん」
「もし魔女様が社交が苦手だというのでしたら、ボクが代わりに担当しますよ」
「……えっ」
「用件があれば伝達なんかもしますし。円滑な交友関係を築くくらい簡単ですからね、お使いや買い物はもちろん、挨拶代行もボクに任せてくださいよ」
「……ルイくん」
ルイくんは、私の反応や言動をよく見てくれていて、色んなことを察っそうと努めてくれていた。
今後の身の振り方までもを先回りして考えて、対処してくれようとしている。
たくさん、気を遣ってくれていた。
……すごい。
使い魔って、こんなふうに役立ってくれるものなんだ……。
こんなふうに、自分の苦手なことを代わりに任せちゃってもいいものなんだ。
なんだか嘘みたい。
私、これまでずっと一人で生きてきて、自分一人の力だけで何とかしようとしてばかりだったから。誰かがそばにいてくれるって状況があまりなかったから。
……私、こんなふうに、誰かに頼ってもいいんだ。助けてもらってもいいんだ。
甘えて、いいんだ……。
なんだか、じんわりと胸が暖かく包まれて行く。
ありがたい、気を遣わせてしまって申し訳ない、と思うと同時に。
このままではいけない、自分もしっかりしないと、という奮起にも繋がっていく。
私は、意を決して、宣言する。
「……わかったわ、ルイくん。お客様をお迎えしましょう」
「魔女様〜!」
「……ルイくんばっかり働かせてちゃ悪いしね。私、自分でも頑張って挨拶してみる」
「うんうん自信持ってくださいよ、魔女様!あなたはそこにおられるだけでも!場が一気に華やぎますからね!微笑んでるだけでもいいんですよ!」
こうして私は、ルイくんに背中を押される形となった。
ささやかな社会性を取り戻す一歩を、少しずつ踏み出すことになったのだった。
「ではさっそく、ホームパーティの準備に取り掛かりましょう」
「ホーム、パーティー……。こ、このボロボロの廃墟で?」
「うーん、そうですね、ガーデンパーティーにしましょうか。幸いお天気もいいですし。雑草を刈ってお庭の整備をして、テーブルセットやチェアーを並べて。建物の外観は、お客様の目に入る片側だけなら、飾りつけとハリボテでなんとかごまかせると思います」
「ガーデン、パーティー……」
「大丈夫、すぐにできますよ魔女様。ほら、おまえも手伝えよ嘉紋」
テーブルの隅で、呑気に食後のハーブティーを啜っていた狂戦士嘉紋。そんなマイペースな彼に声を掛けて、強引に動員、召集するルイくん。
「うん、わかったよルイ先輩。俺、何すればいい?」
「嘉紋は草刈りと薪割り、資材運搬。魔女様はその間にドレスアップとヘアメイクを終えておいてください。なるべく明るく華やかな印象になるようにお願いします。難しければボクがお手伝いしますから」
「俺も、魔女さんの髪いじるのとか化粧とか着付けとかのほうを手伝いたいなぁ」
え、えええ……。
彼らはそんなことを言い出してる。
「だ、大丈夫。手伝いはいらないわ。魔法でなんとかするから」
が、頑張らなくっちゃ。
彼らには、絶対に、手伝われたくないわ。
完璧に身だしなみを整えなくては。
私は急いで、二階にある衣装部屋に駆け込んだ。
召喚魔法に全集中してたから、とはいえ。今の私ったら、いかにも魔女!ってかんじの格好だったわ。
召喚儀式に臨む際の、呪文に集中するためにあつらわれた魔術の礼装。黒装束。とんがり帽子に杖装備、黒ずくめのケープマントにロングスカート、編み上げブーツだもの。
これではいけないわ。
二階にある衣装部屋。クロゼットを開けると、古着のドレスが何着か残っていた。
水魔法を駆使して、杖の先端部から水蒸気を発生させる私。
そこに火魔法をプラスして勢いと温度を調節すると、高温スチーム機能搭載アイロンの完成である。
これで古着のドレスも、見事に蘇った。
汚れや滲みはもちろん、皺の数々も綺麗に無くなり、お客様を迎えるのにもふさわしい一張羅となってくれた。
背中の編み上げコルセットなんかも、強力な風魔法の応用でフックに衝撃を与えたりして、自力で着付けをして、ドレス装着もクリアー。
次はドレッサーの前に座ってっと。
机上にあるのは、30㎝ほどの魔法ステッキ。この短めのミニ杖を火魔法でくるくるドライヤーにすると、ハーフアップの巻き髪セットスタイルが完成。完璧〜。
よーし、最後はお化粧に取り掛かれば、ゴールはもう目の前だわ。
土属性の魔法でミネラル成分を生み出して。肌に合う色味のコンシーラーを練って、目の下のクマやソバカスなどのアラをピンポイントで馴染ませてー。そののち、細かい微粒子のお粉、ルースパウダーを発生させてふりかけて、ふわふわブラシで余分なお粉を払い落とす。
仕上げに水魔法のミストで瑞々しくしたら、ベースメイクの完成。
植物をはじめとする天然由来の成分のみでつくられた自然派オーガニックコスメ。根、茎、葉、花、植物全体をあますことなく使った、私の手作り化粧品。
天然色素の口紅も。
頬と目元にパッと明るい色味を足して、唇も血色よくして、さあ完成!
「やったぁ〜、なんとか完成〜!」
わーい魔法って万能〜!
魔女ってつくづく便利だわ、こういう時〜。
地水火風、四属性すべての基礎魔法をコツコツ真面目にマスターしてきた私の努力の賜物ね〜。
一番適性があって得意なのは、水魔法なんだけどー。
そういえば、召喚魔法も……得意……。うーん、わりと簡単だと思ってたんだけど……。
うーん。
「うーん、どうしてこうも召喚失敗ばかりするのかしら……」
私はぽつりと呟く。
身支度を終えた私は、衣装部屋の出窓を開け放ち、階下のルイくんと嘉紋を見下ろした。
二人の姿を眺めてみる。
黙々と作業を続ける二人の姿。雑草を刈り取ったり木々の剪定をしたり。材木を運んだり外壁を直したり。
そんな二人の姿を。
「召喚失敗……、か」
二人は、よくやってくれていた。
━━━━━━━━━━━━━つづく!!




