第一話③ 「魔女と、ゆかいな使い魔たち」 続・嘉紋編
きらきらとした陽光も眩しい、お館の外。
テラスの大きな扉から、とりあえず庭先に出た私たち。
すぐに、シャアアアアアー、という流水音が響くようになった。
「うわ、冷たっ。ちょっと魔女さん、これ温水とか出ないの?」
「我慢しなさい」
私は杖を振るっていた。
水魔法を駆使して、シャワー機能を杖に搭載してやったのだ。先端部から流水が出るように念じ続けなければならない。けっこう面倒な魔法である。
どうあっても帰らない、と居座り続けるこの狂戦士。
とりあえず。
いつまでも血まみれのままでいさせるわけにもいかない。
頭から水シャワーをかけ、髪や衣服についた血の汚れを洗い流してやることにしたのだった。
「ふー、サッパリしたぁ」
嘉紋、と名乗ったこの狂戦士。
血飛沫や泥汚れが落ちていくにつれて、その風貌が顕になっていく。
整った顔立ち。穏やかな佇まい。余裕ありげで柔和な笑顔。高身長で均整の取れた体躯。
ぱっと見は、健全な青少年、といったふうだった。
ぱっと見だけは。
「そんなに怖がらないでよ、魔女さん」
亜麻織物でできた浴布を、無造作に頭から被る。
杖シャワーを浴び終えて、半稞の状態でこちらを向く嘉紋。
「俺、ふつうの大学生だって」
「ウソつかないで」
嘉紋は、洗った衣服を絞ると、朽ちたガーデンデッキの欄干や手摺りに広げていった。洗濯物を天日干しして乾かそうという工夫のようだった。
「本当にふつうの大学生活だったんだがなぁ。ふつうに大学通ってワンルームで一人暮らしして自炊して家事して牛丼屋でバイトして同級生と仲良く遊んで、っていう毎日だったんだぜー」
明るく楽しく平和に暮らす、健全な若者……。
彼はそんなふうに自己紹介を始めた。
干している洗濯物は、全体的にどれもがゆったりとした服だった。カーゴパンツに厚底スニーカー。ダボダボのパーカー。オーバーサイズのスポーティカジュアルな服。ストリート系スケーターファッションというやつだろうか。
たしかに、ふつうの男子大学生らしい格好。そう言われれば、そうかもしれない。
……ふつうの大学生。
……って、そんなわけないっ!!
血まみれ日本刀ヤロウが、ただの大学生なわけないでしょぉ!!
「じゃあ丸腰なら安心できる?とりあえず、これはここに厳重に保管しとくからさ」
軒下にあった、チェストタイプの用具入れ。
そこに日本刀は収納された。
次いで、ゴトンゴトンガシャンガシャンと、鈍い音が続く。重たそうな装備の数々がチェスト一杯に詰め込まれていく。
右手に握られていたメインの日本刀だけではなく、腰にぶら下げていた予備用がもう一本と、サブウェポンらしき小刀が何本か。
それと、防具。防刃防弾ベストや、肘あて膝あて各種サポーター。グリップ付きラバー軍手。暗視スコープ、双眼鏡、懐中電灯、固形燃料、などなど。
よくもまあ、こんな得体の知れないサバゲーグッズやキャンプアイテムの数々をゴロゴロ身につけたまま異世界に飛ばされて来れるものだわ……。
安心、できるわけない。
私は呆気に取られながら狂戦士装備一式を眺めた。
と、そこへ。
「魔女様〜!ただいまで〜す!」
ルイくんが帰ってきた。
食材を採取しに行くとだけ言い残し、外出していたルイくん。彼は有言実行。両手いっぱいに、どっさりと大荷物を抱えて帰宅したのだった。
「あれ、そいつは?」
「あ、あの、お帰りなさい、ルイくん」
嘉紋をじろりと睨みつけ、警戒するルイくん。
「ちょっと魔女様、なんですかそいつは。新しい使い魔?また召喚したんですか?」
対して嘉紋は、友好的に右手を差し出し、握手をしようと歩み寄るのだった。
「ルイくん?俺、嘉紋。よろしく〜」
「おい敬語使えよ、ボクのほうが先輩だろ」
「え、あ、そっかー」
「ルイ先輩、って呼べよ。嘉紋って言ったな?」
「うん、ルイ先輩」
「すぐに食事の支度するから手伝えよ、嘉紋。ほら、こっち来い」
「はーい、ルイ先輩」
あ、あら。
お互いのコミュニュケーション能力と順応性が高いと、こんなにも話が早いのね。なんという時短スムーズな流れ。
初対面にも関わらず、すんなり二人は打ち解けた。
使い魔一匹目二匹目という特殊な関係性をすぐに理解し、把握して行ってしまった。
「あっ、それより嘉紋、服……!」
私は慌てた。
嘉紋のほうはいまだ、浴布を腰に巻いただけの上稞スタイルであったのだ。
すぐに杖から風魔法を噴出させて、そこへ火魔法を適量追加して温度を調節。洗濯物をドライヤーのような熱風で乾かしてやった。
しかし、やはりというか、ところどころ血痕の跡が滲みになっていた。
そこで、水魔法火魔法で作った熱湯をかけて、一箇所一箇所を叩き込んだり、大釜で特殊洗剤を調合したりする羽目になる。
ぜーはーと肩で息をして、悪戦苦闘の私。
ああもう、どうして私がこんなことを!
なんで私が、狂戦士装束についた血の染み抜きなんてやらなくちゃいけないのよ!
まったくもう!
でも血のシミのついた服なんかでウロウロされても、こっちがビビるのよ!怖いのよ!
しばらく近くにいるのなら、せめて見た目だけでもまともであってほしいからね!!
そうして畳んだ服を両手に、ようやく追いかける私。
すると、二人は台所にいた。
「あ、俺の服〜、ありがと魔女さん。もう乾いたの?」
「魔女様、ちょうどいいところに。食事の用意ができましたよ」
すでに掃除や片付け、調理の準備は終わっていた。
あれよあれよという間に、ダイニングテーブルは清潔に保たれ、食事の用意が出来上がっていった。
「さあ、いただきましょう」
丸太テーブルや作業台の上には、たくさんの料理が並べられている。
根菜の冷製スープに、すりおろしたチーズとブラックオリーブをまぶした葉物サラダ。山菜とチキンの照り焼きソテー。茹で卵とキノコのクリームリゾット。
材料はすべて、ルイくんが先ほど調達してきたものらしい。
お、美味しい!!
すごい!素晴らしい!
誰かが作ってくれたお食事、美味しい!
誰かと一緒に食卓を囲むお食事、美味しい!
ふだん、自炊して孤食スタイルが多い独り者の私にとっては、さらに追加要素もプラスされて、とびきり満足感のある結果となった。だが、そもそもルイくんのお料理の腕は、非常にクオリティの高い洗練されたものであった。
「どうですか魔女様、お口に合いますでしょうか」
「と、とっても美味しいわ。それにしてもルイくん、この食材の数々は?どうやって手に入れたの?」
中には、近隣では入手不可能な、稀少な穀物や香辛料などもあった。
「ああそれ、ご近所さんちを訪ねたり、町のほうにある民家にも顔を出してみたんですよ。それで、山で採れた山菜と物々交換してもらったんです」
えっ。
見ず知らずの人の家を訪ねて自分から話しかけて交渉するとか。
びっくりだわ。
すごいわ。信じられない。
さすがコミュ強の陽キャはちがうわね。
「しかもあなた昨日今日ここに来たばかりの異世界人だというのに。順応性や適応能力やコミュニュケーション技術がチート過ぎない?」
「ふつうですよ」
「いやいやいやいや」
「みなさん親切でしたよ。そうだ、麓にお住いのお嬢さん方なんてあとで挨拶に伺いたいとまで言ってくださったんですよ」
「挨拶?え、そんな!」
「お菓子を焼いて持って行くと張り切っておられましたので、三時のおやつ時くらいには来られるかと」
「えええ、困るわ!」
「でも魔女様、ここを拠点に据えるのなら、近隣の住民とは仲良くしておいたほうがいいですよ。ご近所付き合いは大事にしないと」
そ、そんな!
私、ご近所付き合いとか無理!
できればしばらく、陽のあたる場所避けたいし、極力外に出たくないし、人前に出たくないっ!
だって魔女ですもの!
ほら、ついこないだ、暴徒から迫害受けて追放されたりとかしたばっかりなのよ!
さすがにトラウマよ!
村人全般が怖いわよ!!
━━━━━━━━━━━つづく!!




