第十話① 「魔女と、ライバル魔女な美女」
「あれ?今からどこか行くの?魔女さん」
「どちらへ?魔女様」
「どこ行くんだよ、魔女」
「ちょっと街まで出てくるわ。あ、もちろん門限は守るから」
ある日の朝のこと。
身支度を終えた私は、玄関先から外出の旨を伝える。
いい大人がいちいち私生活を報告する生活スタイルというのもなんなのだけど。前回くどくどとお説教を喰らって口酸っぱく怒られてしまったことだしね。ここは素直に言いつけに従って行き先を告げておくとするわ。
「じゃあ、誰を護衛に連れて行く?」
「お一人では危険ですからね、誰か同伴者を選んでくださいね」
「そばに誰かくっついてたほうが安心だろうな」
【 誰 を 護 衛 に 連 れ て い く ? 】
K 「 俺 だ よ ね ? 魔 女 さ ん 」
R 「 ボ ク で 決 ま り で す よ ね 、 魔 女 様 」
G 「 い い ぜ 魔 女 、オ レ が 行 っ て や る よ 」
え、何、この恋愛シミュレーションゲームみたいな選択肢。
いや、別に、誰も連れてかないわよ。私一人で行けるわ。
まだ日も明るい昼日中なのだし。
まったく心配いらないわよ。
「じゃあ今日はみんな予定もないし、全員で行こうよ」
「わーい、街だ街だ」
「しょうがねぇな、行くか」
なんだか結局、三人まとめてついてくることになった。
なんなのよ、これ、もう。
「それで、どこかにお買い物ですか?」
「うーん、ちょっと、お話が聞けたらいいなぁと思って」
「どなたに?」
「黒い猫ちゃんが二軒目のお手紙を配達していたことを思い出したの。あれって、偉い大魔女様からのお手紙なのだろうし、受け取り主はもしかして……」
「そこに気づかれましたか、魔女様」
ということはつまり手紙の受け取り主は、私と同じような立場の、下っ端魔女なのかもしれない。
魔女といえば森とか郊外住みのイメージが強かったから、まさか街中に住んでるとは盲点だったけれど。
「手紙は二軒分まとめて配達されていましたからね。宛名もなかった。おそらく手紙の内容はまったく同じなんでしょう。どちらが受け取っても差し支えないからできることです」
「私とまったく同じ立場ということなのね」
「そうです。今回の結界見回りを要請される前にこなしていて、偉い大魔女様からも感謝をされたりお礼状を送られるような人物、ということです」
黒い猫ちゃんがお手紙の配達をしていた、二軒目のお宅。
もしかしたら、そこに、私と同じような魔女がいるのかもしれない。
「え、じゃあ、そこに住んでるヤツが、襲撃犯?」
「いよいよ犯人と決着をつける気になったんですね」
「カチコミってやつか。腕が鳴るぜ」
「ま、まだわからないのよ。その住人ももしかしたら私と同じような魔女なんじゃないかなぁ?くらいの段階なんだからね」
私は慌てて、三人を制した。
「とりあえず情報収集したいし、お話が聞けたらいいだけなんだから。物騒な準備はしないでちょうだい」
「で?問い詰めて、当たりだったらどうするの?」
「そうですよ。可能性は十分ありますよ」
「のこのこ訪ねて行って、敵のアジトだったら?詰むんじゃねぇ?」
え、あ、うう。
「う、うーん、そうだったとしても。ことを荒立てたくはないわね。まずはお話をして、事情を聞いて。女性のすることなのだし。穏便に、なんというか。話し合いで済ませたいわ」
「え〜、まさかの和睦案?」
「甘いですよ、魔女様」
「あれだけ被害を被っておいて、示談で済ます気かよ」
「ま、まあまあ、私のほうには怪我もなかったことだし」
お店の方にはご迷惑をかけてしまったから、とりあえず修繕費やお詫びの品なんかは私のほうから贈っておいたけど。犯人側からも謝罪があったほうが心象いいわよね……。潔く犯行を認めてくれればそれでいいのだけど。
「甘い。甘過ぎですよ、魔女様」
「ま、まあまあ」
私の対応策は生ぬるく、まるで納得がいかないといったふうに。ルイくんは痺れを切らせるかのように、勢いよく立ち上がった。
「では、こうしましょう魔女様」
戸棚の扉をバタンと開けて、奥から地図を取り出すルイくん。
街の地図を広げて、テーブルの上に大きく展開させていった。
「まず、ボクは魔女様と一緒に犯人宅を訪ねます。この地点です。そして……」
同じく戸棚から、香辛料の入った小瓶を数種類持ち出してきて、ガチャガチャと配置していく。
「……ここの高台に、嘉紋を見張りにつかせます」
香辛料の入った小瓶。
「ここ、この位置です」
そのうちのひとつを、少し離れた位置にゴトンと置いた。
「嘉紋、おまえ双眼鏡持ってたな?」
「うん、あるよ。この距離なら見えると思う」
「いいか嘉紋、ボクは三色のスカーフを用意しておく。まずは青色のものを腰にぶら下げておくからな。通常時は青、黄色に変わったら警戒しろ、ってことだ。わかったな?赤になったら……、わかるよな?」
「うん、赤色のスカーフが見えたら、すぐに現場に向かえばいいんだよね」
「何かあっても嘉紋の機動力なら、すぐにここから降りて駆けつけられるだろう。頼んだぞ。街全体や犯人宅の周辺に異状がないかを俯瞰で把握しつつ、ボクたちの動きにも注視を忘れるな」
「オッケー、ルイ先輩。任せてよ」
「よし、次」
香辛料の入った小瓶。また別の種類のいくつかを、ゴトゴトと机上に置いていくルイくん。
その姿は、作戦会議中の軍師や参謀、といった貫禄であった。
「ゴウトには、まず、街中に紛れ込むような変装をしてもらう。犯人を油断させるためだ。護衛と気づかれないように、ボクたちとは無関係を装ってくれ。ボクたちにつかず離れず追従をして……、そうだな、5メートルも開ければいいだろう。そして犯人宅に着いたら、その周囲を哨戒するんだ。いいか?ここと、このあたりを重点的にな」
「いいぜ、ルイ先輩」
「あんまり凝視するなよ?おまえギラギラギラギラ眼光鋭すぎるんだよな。あと、姿勢よくシャキシャキシャキシャキ歩きすぎ。護衛ってバレないようにしないとダメなんだからな?もっとこう、ぼんやりした目付きって、できないか?」
「わかったよ、こうか?」
「もっと街中に溶け込まなきゃダメだ。ほら、特に行き先も定まってないまま街をフラついてるかんじで……、こう、アゴをちょっと突き出して猫背になって……。のんびりフラフラ歩くんだよ。うん、そうそう」
ついには、演技指導までが始まってしまった。
ああ。
なんだか大袈裟なかんじになってきちゃったわね。私はただお話がしたいだけなんだけど。
━━━━━━━━━━━━つづく!!




