第九話① 「魔女と、無理のあるエロ展開エピソード」
ある日の朝。
目が覚めると、嘉紋が隣にいた。
「おはよ〜、俺の魔女さん」
きゃあああああ!
「嘉紋!お、おまえ!な、ななな何やってるのよぉぉ!」
「これ、俺のベッドなんだけど。ゆうべ、俺の部屋に転がり込んできたのは魔女さんのほうじゃん」
「………………⁈」
たしかに嘉紋の部屋。
嘉紋のベッドの上であった。
無駄に眩しく明るい日差し。レースカーテンの隙間からは、きらきらした朝日の光が差し込む。
軽く開け放たれた窓からは、肌に心地よい涼風が入り込み、室内の澄み切った空気感を作り上げていた。
チチチ、チュンチュン、という。無邪気で可愛らしい鳥の鳴き声までが、無駄に甘酸っぱく聴こえる。
ぐしゃぐしゃに乱れたシーツ。各種、寝具類といい。雑多に転がったクッションや配置がずれてしまったサイドテーブルといい。
私と嘉紋。
二人で。
一緒に、寝て、いた。
ああああああああああああああああ!
事後!
事後、ってかんじのシチュエーション!!
男女が一夜を共にすることの暗喩、夜明けのコーヒー的な場面!!朝チュン!!
何も、覚えて、いない。
私は意を決して、そーっと、自らの姿を確認してみる。
つねに肌身離さず携行している魔法の杖。それが右手にしっかりと握られてはいる。だが。
大判のバスタオルやシーツがふんわり巻かれただけの、ほぼ全裸スタイル。
何も、着て、いない。
ああああああああああああああああ!
私、やらかしてしまった⁈
「ウソよ、そんな!この私が、まさか!ゆきずりの男とワンナイト?ですって?」
「俺、ゆきずりの男、ではないと思うけど」
う、うぅ!!
「俺のほうからはちゃんと好意は伝えてあったんだからさー。その想いにようやく応えてくれたんだなぁと思って嬉しかったのに。やっと同意が得られたと思ってたのに」
あああああああああああああああああ!
「何も覚えてないの?」
う、うぇぇぇん!
「俺たち、あんなに愛し合ったのに」
やめてぇぇぇ!
「あんなに汁出し合ってべっちゃべちゃに絡み合ったのに」
いやああああ!
「顔にかけちゃったけど、俺が綺麗に拭いといてあげたでしょ」
か、かけ??
な、何を⁈主語は⁈
何を私の顔にかけたっていうのよぉおおお⁈
「それも覚えてないの?」
ああああああああああ!
「早く思い出してよ」
いやぁぁぁぁ!
「ワンナイトで済ますつもりもないよ。これからもよろしく」
何言ってるのよぉおお!!
嘉紋は下は履いていたが、上半身は剥き身である。
「つづき、する?」
上裸のまま、ベッドの上でゴロゴロと寝転がっていた。
「思い出させてあげるよ?」
のんきに片肘で頬杖をついて寝そべりながら、私を眺める。
早く!!自力で思い出して、私!!
絶対、絶対!!何かのまちがいだから!!
と、その時。
コンコンとノックの音が響いた。
「嘉紋、起きてるか?洗濯物出せよ」
ルイくんの声だった。
「あ、ルイ先輩だ」
嘉紋は外に聴こえないくらいの小さな声量に絞って、ひそひそと私に耳打ちをした。
「どうする?魔女さん、このこと、しばらく秘密にしときたい?俺は公言してもいいと思ってるけど……」
秘密、秘密ぅぅ!!
秘密一択!!
公言なんてとんでもない!!
まだ真実、何が起こったかも把握できてないってのに!!
こんな場面見られたら、絶対ルイくんに誤解されちゃうじゃない!!
私は咄嗟に、ベッドカバーを頭から被った。
寝具の中、シーツの隙間に身を隠す。
あああああ!もう!!どうして私、こんな不貞中の間男みたいな忍び方してるのよぉぉ!!
「起きてるよ、ルイ先輩。どうぞ入ってきて〜」
扉の開く音がした。同時に、ルイくんが、中へと入ってくる足音と振動が伝わってきた。
「今朝はずいぶん早いね、どうしたの?」
「別にいいだろ。いい天気なんだから。洗濯くらいさせろよ」
「何かあったの?」
「……魔女様が、部屋にいない。まだ帰ってきてないんだ。朝帰りだよ」
私は、ギックゥゥゥ、と、なった。
「ボクには、魔女様の私生活に干渉したり咎めたりする権利なんかない、って、わかってるけど……」
「まあね、ちゃんと成人もしてるいい大人なんだろうし。夜遊びするくらいはいいんじゃないの?」
「……夜遊びくらいなら、な」
「と、いうと?」
「……嘉紋おまえ、気付いてなかったのか?ゆうべ、魔女様がこっそり出かけて行ったのを。そしてその後をゴウトがついていったのを」
え。
「二人で夜に出かけて行った、ってこと?へー」
「きっとデートだよ。ボクたちに黙って、隠れて、無断外泊だなんて」
え、ええええ⁈
「そうなんだ?あの二人、いつのまにそんなにも進展したんだろう」
「ゴウトも、まだ帰ってきてないんだよ」
「へぇ。どこ行ったんだろうね。このへんにはオシャレなラブホなんて無いのに。どこで密会してるのやら、ねぇ」
「ショックだ。まさかゴウトが、魔女様と……」
「俺たちがいるこの家でことに及ぶのは気まずいってことだろうね。それで場所を変えようとして出て行ったのかな」
「……はぁ。もういいよ、考えたくない」
ええええええええええええ?
どうしてそんなことになってるのぉぉぉ??
何が?どうなって??
ゴウトと私が??
ウ、ウソよ、
私が、ゆうべ、
家を抜け出た、なんて!
しかも、ゴウトも後からついていった、
ですって⁈
バタンと扉が閉まる音。
どうやら汚れ物の収集を終えて、洗濯物を抱えたルイくんが退室していったらしい。
「魔女さん、今のうちだ。ひとまずここを出て、お風呂場にでもこもったほうがいいのでは」
嘉紋はひそひそ声で囁いて、そう促す。
わけがわからないままではあったが。ともかく、ここはルイくんに見つからないように、今のうちに。
シーツにくるまったまま、私はすぐさま嘉紋の部屋から脱出をした。
そうして、ひとまずはバスルームに駆け込んで鍵を閉めた。
えっと、何が?どうなって??
ゴウトと私が??
私が、ゆうべ、家を抜け出た、なんて。しかも、ゴウトも後からついていった、なんて。
たしかに今、館内にはゴウトの姿も見当たらないのだという。
そして、なぜか朝には、私は嘉紋の部屋にいたという、驚愕の事実。
ウソー!なんなの⁈
ゆうべ、一体、私に何があったの⁈
さっさと思い出して、私ー!!
━━━━━━━━━━━━━━━━━つづく!!




