第七話② 「魔女と、トキメキ⭐︎星占い」
「魔女様、聞きましたよ。ゴウトのことを占ったんですって?ぜひボクもお願いしますよ」
「ええ?占いを?」
翌日のことだった。
中庭で日向ぼっこをしながら読書をして寛ぐ。そんな私のもとに、猫撫で声のルイくんが甘えるように絡んでくる。
「ゴウトばかりずるいじゃないですか。ここは平等に公平に。ボクのことも占ってもらわないと」
「ルイくん、占いに興味があったの?」
「そりゃあもう。魔女様に、人生の相談に乗ってもらえるだなんて最高じゃないですか」
「そうなの?今まで何も尋ねてこなかったから、てっきり苦手なのかと思ってたわ」
「お商売にしてらっしゃるくらいの技能ですからね。プライベートな時間に、身内であるボクが気安く要求するのはどうかと思いまして。ぐっと我慢して遠慮していただけです」
「ま、まあ。私に配慮してくれていたのね。さすがルイくん。行き届いた心遣いだこと」
「その技能を、ゴウトには早々とお披露目しちゃうんですもん。たまったものじゃないですよ。贔屓はいけませんよね魔女様。ボクにもよろしくお願いします。ボクのことも占ってくださいよ」
ガーデンチェアに深く腰掛けた私。その背後から肩を揉んだり抱きついてきたりと、せわしなく甘えてくるルイくん。
早く早くと、追い立てるように、少々興奮気味に私にまとわりつくのだった。
「うーん。当たるかどうかはわからないわよ。相手によって、すらすら頭に思い浮かぶこともあれば、何も想像できないこともあるし」
「いいんです。魔女様が、ボクのことを考えてくださるだけでも。寄り添ろうとしてくださるその心意気だけでもボクは嬉しいんです」
私は、魔女。
天文学と西洋占星術の知識に、精通してはいる。
あと、タロット占いとかもできる。
こうして。
占い師として。私は、ルイくんの対面鑑定に挑むことになった。
中庭に設置されたテーブルセットに、向かい合わせになって座る私たち。
机上には薄い生地の布を広げて、その上から、タロットカードを一枚一枚と展開していく。
ケルティック・クロスのスプレッドを、ルイくんはまじまじと観察していた。
普段の落ち着いた佇まいとは違っていて。彼は明らかにワクワクドキドキといった、純粋な少年のように期待に満ちた表情を見せるのだった。
「ルイくんは、うーんと。乙女座ね。土星の効いた第二デーク、お誕生日は、9月の上旬頃。うーん、7日前後あたり?」
「そ、そうです、当たってます。ボク、9月の7日生まれです、魔女様」
「土属性、乙女座。キチッとしていてこだわりが強い」
「は、はい」
「職場で、なんだか疲れてしまっていたのね」
「は、はい」
「まあ、乙女座さんは有能だからこその苦労人というか。他の人たちには見えてない問題点なんかも、すぐに察知してしまうものね」
「は、はい」
「それで面倒ごとにも自分が対応しなきゃならなくなって、損な役回りも請け負いやすくなっちゃうのよね。みんなが思ってる以上に、いつも周囲のフォローやカバーをしてくれてるってことだから。人一倍疲れてストレス溜まるのも無理ないんだけど、まずそこを周囲が気づいてくれないから、辛いわよね」
「は、はい」
「なるべく休養日を多めに入れたりして、ゆっくり休むといいわよ。まずは自分のことを優先にして、自分の身体をいたわってあげてね」
「は、はい、魔女様……」
ルイくんの目が、潤み始めていた。
そっか、今まで、辛かったのね。
ルイくんは、もちろん優秀で器用で人生うまくいってるタイプではあるんだけど。
それでも、やっぱり悩みはあって。
脆いところだってある、繊細な青年なのだわ。
彼は席を立ち、そのまま私に抱きついてきた。すがりつくように。
泣き顔は見せなかったが、おそらくは、涙を流していた。
私は、彼の背中をぽんぽんと軽く叩いてやった。
よしよしと優しく摩ったり、撫でたり。そんなふうに、彼を受け止めた。
私と身長がさほど変わらない、小柄なルイくん。
目線の高さはほぼ同じ。ハグをしても、けっして生々しくはならず、爽やかな光景の一環として周囲の目には映る、はずである。
と、そこへ。
「へ〜、占い?」
裏手の雑木林から、ガサガサと葉を揺らして近寄ってくる人物。
「俺もー。俺も占ってよ、魔女さん」
嘉紋だった。
彼の登場にルイくんはいち早く反応し、すぐにその場を立ち去って行ってしまった。きっと、感情的になって泣いている姿を見られたくなかったのだろう。
先ほどまでルイくんが座っていた席。そこには、代わりに嘉紋がどっかりと腰掛けるのだった。
こうしてなぜか。
占い師として。私は、狂戦士嘉紋の対面鑑定に挑むことになってしまう。
……うーん。嘉紋か。
妙な色気と闇深いとこが、冥王星を感じるわね。
でも、さそり座っぽくはないのよね。よくも悪くも、サッパリしてる。情に深いかんじでもないし、執着心もない。水星座っぽくない。
うーん、もう少しだけちがうかんじの冥王星味。
ってことは、冥王星と個人天体、そこでのタイトなアスペクトの影響か。
あと、戦いぶりを見るに、軽々とした身のこなしや手数と瞬発力を活かしたトリッキーなスピード型。
それを見るに、風属性っぽい。
変わり者だから天王星が効いてるし。
外面は明るくて陽気で、基本は社交的なわけだし、うーん、ここは……。
「う〜ん、嘉紋は、水瓶座」
「え、あたり」
「水瓶座、第1デーク、ど真ん中。お誕生日は、1月の最終週あたり……、25日前後」
「わー、すご」
月と天王星、で、やっぱり冥王星のアスペクトは強めにあり。アセンダントは木星絡みかも。
うーん、うーん。占い師としては、こんなことを言っていたらいけないのだけど。嘉紋、こいつのことだけは、よくわからないわ。
謎だわ。
もともと、風星座については、実態が掴めないというか、わかりにくいというか。うまく把握できないことがよくあったのだけども。
単に、私が風属性と相性が悪いせいなのかもしれないけど。まあ、わかりにくいという特徴、それこそが、風星座のそもそもの特徴なのかもしれないのだけれども。
まあとにかく。
嘉紋については、本当に、よくわからないのよ。お手上げなのよ。
それでも。
なんとか、タロットカードの効果も活用したりして、今あるだけの集中力を振り絞って、視てみる。
「うーん、おまえ、淋しい、の?ひとりぼっちだと、感じやすかったりするの?」
「え〜」
「うーん、圧倒的な孤独感……?」
「ふーん」
「たとえ周囲にたくさん人がいても。大勢の仲間に囲まれていたとしても。なんだか常に、疎外感や孤立感を抱えているのね?良くも悪くも、自分一人だけ、みんなとちがってる、って、思いがちなのね?」
「へぇ〜」
にやにやとしながら、ガーデンチェアの背に深くもたれかかる嘉紋。そのまま、伸びをしたり、ずるずるとずり下がっていったりと、ふざけた態度を取り続ける。
それは、照れ隠しというのか、動揺を誤魔化したり本心をはぐらかしての反応だったのかもしれないが。
「ははは。魔女さんさぁ、なんだか誰にでも当てはまるようなこと言ってない?月並みな意見だなぁ。占いにすがってやってくるような、弱ってて迷える心境のお客なら、つい涙してうなづいてしまうような言い方ばっかりだよねー」
「ああそう。じゃあもういいわ。ここまでよ。だったらもう私に述べられることなんてないんだからね」
「ふーん、じゃあさ、魔女さんは何座?」
「ええ?私?」
「俺との相性って、どうなの?いいの?」
えーと。
魔女ナナミ。は、水属性。魚座なんだけど。
でも、ここんとこ。なんだか魚座っぽくない。なんだか、水属性なかんじではないことも増えた、ような気がする。
なんか、お淑やかな水っぽくない。性格や言動が。
身近に、土属性、風属性、火属性の使い魔がそれぞれいたら、色々と影響を受けて、バランスが一定になる、ということかもしれないわね。
あと、前世の記憶を思い出したから、前世での私の考え方なんかも影響してるのかもしれないけど。
「ねぇねぇ、早く俺との相性占いしてよ、魔女さん」
シナストリーチャートやコンポジットチャートを作成して、相性診断、か。
なかなか大変なのよ、これが。
「恋愛相談とかも乗ってくれるの?俺の恋愛運とか結婚運って、どうなの?」
「占いも、けっこう魔力使うのよねぇ。疲れちゃった。今日はもうおしまいよ」
「じゃあ、占いじゃなくっていいよ」
「ええ?」
「ふつうに、恋愛の話でもしようよ」
麗らかな昼下がり。
中庭のガーデンチェアにゆったりと腰掛ける、私たち二人。
この後しばらく、なぜか私は、狂戦士とおしゃべりを交わすことになった。
そうして例の如くに。
やはりいつのまにか、嘉紋の口から生じる話題は、日本刀への熱い語らいへと特化していくのだった。
い、いや、ごめん嘉紋。嬉しそうにイキイキと喋ってるとこ悪いのだけど。
刃文だとか地鉄だとか語られても、よくわかんないのよ……。
━━━━━━━━━━━━━━つづく!!




