第六話④ 「魔女と、臨時!結界見回りの旅路」
私は杖を高くにかざして、呪文を詠唱する。
まずは水魔法を応用して、あたり一帯に雨雲を生じさせる。そのへんの草花から抽出した天然素材100%の着色料を使用。真緑でエグみのある色味を、瞬時に作成。
「カラフル・レイン・極!降雨seven降水ディスティネーション!!」
真緑色のどろりとしたインク。粘度と色味が混ざった、重い雨粒が、広範囲に降り注ぐ。
透明化をした難敵に、容赦なく浴びせていく。
するとみるみるうちに、異形の輪郭線とシルエットが浮かびあがっていった。
「よし、いいぞ魔女!」
「ありがと魔女さん、あとは俺たちに任せて〜!ヒャッハァァ〜!!」
例のごとく、バトルマニアな嘉紋とゴウト。
二人して我先にと、敵を奪い合うほどに。熱い闘争心を隠さない。
異形の姿や動きをしっかりと視認できるようになると、ようやく二人はいつもの戦闘スタイルに戻ることができた。
まるで水を得た魚のように、イキイキと異形討伐を愉しむ彼ら。
魚が水中で自由に泳ぎ回るかのように、彼らが本来持つ潜在能力が、最大限に引き出されていくのが見て取れた。
そんな二人に業務を任せて、私はしばしの休憩タイム。
戦闘域からは離れた位置に陣を取る。
ピクニック用レジャーシートでもその辺に敷いて、お茶でも飲もうかしら。一緒に甘いものでもいただいて、っと。
「はぁ〜、やれやれ」
ルイくんがサンドイッチのお供に持ってきてくれた焼き菓子も少し残っていたっけ。どれどれ。
ああ美味しい〜。
あら〜、なんて優雅なティータイム。
そうしていると。
私の周囲にはやがて、子供たちが集うようになっていった。
なんと、里のチビッコたちが戦闘の見物にやって来たのだった。
里からはずいぶん離れていたが。
ここに来るまでの道中で、たしかに目が合った子供たちだった。付近にあるチビッコたちの秘密基地らしき地点から、私たちのあとを追ってついて来たらしいのだ。
嘉紋とゴウト、二人の存在に好奇心を刺激され、興味を抱いた結果の行動。そして今、期待どおりの苛烈な戦闘風景が目に入っているのだろう。
スカッと爽快な討伐劇。それが目当てのようだった。
「あの、ねぇ、君たち、あんまり近付くと危ないわよ」
ワーワー。
「ちょっと、ねぇ。親御さんも心配されるだろうし、よそで遊びなさいね」
ワーワー。
「っていうか、里からけっこう遠いし山深いわよね、ここ。ねぇ、ちょっと、早くおうちに帰りなさいよね」
ワーワー。
「……って、君たち、私の話、聞いてる?ねぇ」
ワーワー。
私の制止も耳に入らないくらいに。
チビッコたちは、ゴウトと嘉紋の闘いぶりにとことん熱狂していた。
「すごい!」
「強ーい!」
「カッコい〜い!!」
目をキラキラさせて観戦し、夢中で応援するチビッコたち。
はあ。
チビッコって。好きよね……、こういうの。
彼らの目には、二人の姿が、変身特撮ヒーローや格闘技王者やアクション映画主人公のように見えているらしい。
しかしてその実態は、ただの狂戦士とツンデレ恋愛脳なんだけどねぇ。
異形討伐を終えて、私のもとへ戻って来た二人を、子供達は取り囲む。
そして、拍手喝采で出迎えた。
「おいおい、勘弁してくれよガキども。オレは子供が苦手なんだからな」
クールな物言いを演じながらも、その口角は上がりっぱなしのゴウト。
「まいるよな、まったく、やれやれだぜ」
明らかに浮つきチャラつき、ニヤついていた。
チラッチラッと、私のほうを見やる。
ことあるごとにチラ見しては、私の反応を伺うゴウト。
私を含めた観衆相手に、カッコいいところ……勇姿を見せることができたようで、まんざらでもないようだ。
やはり格闘家は彼の天職だったのだろう。
リングの上で思いきり身体を動かし拳を振るう。その勇姿を見た観衆に感動と娯楽と興奮を与える。純粋な子供たちに夢と希望と勇気を授ける。崇められ讃えられ、戦神のような仕事ぶり。戦士のビジネススタイル。
天職への未練は、まだまだ断ち切れていないようだった。
「おにいさんたち、強いよね!きっと盗賊もやっつけられるよ!」
「何の話だ?」
「みんな困ってるんだ、悪いヤツらを退治してよ!」
子供たちは、興奮冷めやらぬ表情のまま、懇願をする。
村々を襲撃する盗賊集団がいるという話だった。
「ふーん、結界のザコ異形どもよりかは、手ごたえがありそうだな。おもしれぇ。相手になってやるか、なぁ、嘉紋?」
「俺はかまわないけどね。ねぇ魔女さん、いいかな?」
嘉紋が、私にごきげん伺いを立ててくる。
それを見た子供たちは、一様にきょとんとした顔になって、嘉紋の言動を不思議がる。
「剣士のおにいさん、どうしたの?」
「う〜ん、おにいさんたちはねぇ、あのおねえさんの許可がないと自由に行動できないんだよねー」
「ええ?あのおねえさん、そんなに怖い人なの?」
「こ、怖くなんかねぇよ!許可なんかいらねぇし!オレは女の下僕なんかじゃねぇっての!おいガキども!悪党のアジトの場所、さっさと教えろよ!」
ゴウトと子供たちは、さっそくその場で盛り上がる。
地図を囲んで円陣を組み、すぐに作戦を練りだすのだった。
「はぁ。もう……」
「魔女さん、いいの?早く帰りたいんじゃないの?」
「仕方ないわ……。子供たちたっての頼みなのだしね。おまえたちの武力が役に立つというのなら、人助けを優先しましょう」
「へぇ〜」
「もちろん、子供たちを、ちゃんと里に送り届けてからよ」
「ふふふ」
「何よ」
「魔女さん、すましてるけど、けっこう子供好きなんじゃない?あの子たちを見る目がすげぇ優しいんだけど」
何よ狂戦士。
「嘉紋、おまえ、前途ある純真無垢な子供たちによくない影響を与えでもしたら、ただじゃおかないわよ」
「ははは、怖い怖いー。やっぱり俺たち、魔女のおねえさんには逆らえないなぁ〜」
屈託ない笑顔で、明るくおどける嘉紋。
彼のほうこそ、子供たちを見守る目がとても優しい。
飄々としていて掴みどころがなくて、その実態がまるで把握できない彼のことを。たまに、つい気を許してしまいそうになる時がある。
微笑みを、返してしまいそうになる時がある。
それでもすぐに、顔を横に振り、毅然とした態度で努めようとする私である。
なにしろ、相手は狂戦士なのだから。
こうして。
意気揚々と悪党退治をこなす、腕自慢の二人。
嘉紋とゴウト。
盗賊討伐の任務を、見事に完遂したという武勇伝は、すぐに人づてに広がっていったという。
強者としての腕を買われて、やがて各種依頼が続々と舞い込むようになっていった。
残忍で凶暴な指名手配犯の捕獲、凶悪犯罪者、脱獄囚の捜索、巨体を誇る害獣の駆除、などなど。
評判が評判を呼び、二人の名声はしだいに高まっていくのだった。
━━━━━━━━━━━つづく!!




