第六話③ 「魔女と、臨時!結界見回りの旅路」
「なぁ、オレらに対する塩対応とはずいぶんちがうじゃねぇか、魔女のヤツ」
ゴウトの声である。
滝上に至るまでの道中。
途中の休憩スポットで、私は一人、離れた位置にいた。
木立のところで景色を眺めて一息ついていると。嘉紋とゴウト、二人の会話が聴こえてきた。
使い魔同士の、二人のやり取り。
けっして聞き耳を立てているわけではない。だが、会話の内容は、自然と耳に入ってくるのだった。
「ん?あー、さっきの?ルイ先輩のこと?」
「一人だけ特別扱いじゃねぇか。あんなに気安く抱きついても許してもらえるもんなのか。魔女のヤツ、対応に差がありすぎだろうがよ」
「えー、なになに?ゴウトくんもあんなふうに抱きつきたいってこと?」
「そ、そんなんじゃ」
「魔女さんに頭撫でられたりヨシヨシされたいの?可愛がられたいの?」
「そ、そういうわけじゃねぇよ!」
「反抗せずに素直に言うこと聞いてたら、魔女さんだってそれなりに優しくしてくれるだろうに。ゴウトくんってば、悪態ついてばっかだからなぁ」
「そ、そういうんじゃねぇって!」
「俺は、ああいうのは求めてないがなぁ」
「……な、なんだ、と?」
「うーん、俺、考えてみたんだけど。無防備に警戒心なく受け入れられる、っていうのも、どうなのかなぁって。お友達ポジション友情モードのまま定着しちゃうと、この先が大変なんじゃない?」
「……あ、ああ」
「一度ついた印象やイメージってなかなか覆らないものだし。だったら最初っから、異性として、雄として、男として意識されることのほうが大事なんじゃないかなぁ」
「……ああ」
「それにルイ先輩のは、あれはどう見たってただの主従関係だろ?ご主人様と、従僕。魔女と、使い魔」
「……ああ」
「そういうのじゃなくってさ。俺がなりたい関係性っていうのは〜」
嘉紋は一旦止まって間を置いてから、意味ありげに言ってのけた。
「もっと対等な立場で、お互いに同じくらいの熱量でいて。うん。恋人同士。俺、魔女さんとは恋愛関係になりたい」
そこで、沈黙が流れた。
その後のゴウトが、嘉紋に対して何か言い返すことはなかった。
二人の会話は、そこで終了した。
休憩時間が終わると、私は二人がいる場に戻って合流を果たすことになる。
私たちは移動を再開する。
まさか会話をすっかり聴いていたとは言えずに、何食わぬ顔で二人に混ざるのだが。気まずさは隠せず、私は終始無言のまま歩き続けた。
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朽ちかけた祠があった。
各地に点在する、立ち入り禁止区域のうちのひとつ。
大地は汚染され、汚泥となった地面からは瘴気が立ち込め。一帯は、人体に有害な毒ガスのような目には見えない気体に蝕まれている、と考えられていた。
古くからずっと。付近一帯の住民たちは恐れをなして、けっして近づこうとはしなかった。
だが。
「うん、問題ないね」
「全然、平気だな。オレたちが、魔女や異世界人だからなのか?」
くだんの土地に足を踏み入れ、祠の目前にまで迫っても、私たちの心身に異常は見られなかった。
環境や状態の報連相は、重要必須事項である。
ゴウトと嘉紋。二人の会話回数は、いつのまにか元通りの頻度に復活していた。
「おそらくは。この世界の住人でも問題ないはずだよ」
「と、いうと?」
「うーん、それはね」
「要は気の持ちよう、か?信心深さってやつか?」
「オレたちの世界にもあったろ。ちょっと地方の山奥へ行けばさ。閉鎖的で、独特の雰囲気とか掟やルールがあって。信仰、因習の厳しいとこがさ」
「触れると祟りがあるとか、か?」
「そう。近寄ると呪いが降りかかるとか。壊すと災いが起こるだとか、その手のやつだよ」
嘉紋は、朽ちかけた祠の建具をガタガタと掴んで、真っ直ぐに立て直そうとしていた。ゴウトはすぐに呼応して、手を貸すように端を押さえた。
「本当はみんな、実害なんてないってわかってるんだろうけどね」
「ふん、くだらねぇな。まるで茶番だ」
「それでも代々、土地の言い伝えを伝承していかなきゃならない。守って語り継いでいかなきゃならない。ご先祖の言葉を軽く受け取ったり、無視したりするわけにはいかないんだろうさ、表向きは」
「そこで、オレたち異世界人たちの出番、ってわけか?」
ゴウトが斜に構えたふうに皮肉った。
「いわゆる、よそ者。部外者、第三者に、役目を押し付けようってか?」
「まあまあゴウトくん。こういう外国人的立場が有用でお役に立つ、ってなんならさ。ご奉仕して差し上げましょーぜ」
歪んで崩れきっていた祠。それを、嘉紋とゴウトは二人で元通りの配置にまで戻そうとしていた。
その矢先。
「……ん〜?なんか、殺気を感じるんだけど〜」
「それはオレも気になってたがな。でもなぁ、ここには異形なんて一匹もいねぇんだよな」
異形の姿は、見当たらない。
だが、二人の使い魔たちは、敵の気配を察知していた。
私は満を持したように、こほんと咳払いをしてから二人の会話に混ざり込んでいく。
「ようやく気付いたのね、おまえたち」
「どういうことだ、魔女」
「ここの異形はね、透明化をしているの。私たちの目には見えないようにできているのよ」
私の説明を聞いた途端、二人は咄嗟に身構えた。
すぐに戦闘態勢を取って、それぞれの攻撃範囲内や間合いに入らないように、瞬時に散った。
瞑想のように目を閉じて、聴力や心眼めいた能力を持ってして、異形に攻撃を当てようとする。
だが、あまりにも非効率であった。当たる確率はよくて六割といったところ。討ち漏らす可能性のほうが高く、その分、敵の迎撃に晒されてダメージを負う危険性が増すのだった。
まぎれもない、難敵である。
「透明な敵、って。おい魔女、いつもどうやって倒してるんだ?」
それは。
数打ちゃ当たる方式で。大体の位置に向かって、風魔法ウィンドカッターみたいなのをバンバンって。
「かまいたちっぽいやつを手当たり次第に撃ち込んでたわよ。でもすっごい時間かかるし、すっごい疲れるのよね」
「うーん、だろうねぇ」
「なぁ魔女、なにか色がつくヤツは撃てないのか?」
「ああ、それいいね。異形に目印がつくような。防犯用のカラーボールとか、サバゲーのペイント弾みたいなのだよね」
「そうね、やってみるわ」
━━━━━━━━━━━━━━━つづく!!




