第一話① 「魔女と、ゆかいな使い魔たち」 類登場編
「ふざけんな!もとの世界に戻せ!」
激昂した一人が、叫び出した。
そして私の姿を見つけると、掴み掛かろうと勢いよく向かってくるのだった。
ひ、ひぇぇ!!
怖いぃ!!
「で、ですよねー!ではお帰りください!!」
私はすぐに、落とし穴を起動した。
床に設置されたゲートはパカっと開かれて、彼らは地下室へと落とされる仕掛けになっている。
地下室の床には全面に、返還のための魔方陣が貼られているのだ。
すぐに男たちの声は聴こえなくなった。
しーんと静まり返っている。
これで無事、彼らをもとの世界へ戻してやれたというわけだ。
私はほっとして、胸を撫で下ろす。
は、はぁぁ。
あー、やばかった……。
「はー、無理無理〜、ひと様の運命や人生を大きく変更してしまうとか重たいわ〜。そんな責任重大な役目なんて私には無理ー。絶対イヤだわ〜」
すーはーと深呼吸をして、落ち着きを取り戻す私。
やれやれと一息をついて。
そうしてから、改めて、室内を見渡してみた。
すると。
「えっ」
部屋の隅に、一人、いた。まだ。
残っていた。
さっきの集団の、うちの一人が、まだ残っていたのだった。
「きゃああ!」
私は思わず悲鳴を上げていた。
取り残された一人は、無言のまま。じっと私を見つめ続ける。
線の細い、小柄な青年だった。
「ご、ごめんなさい、一人だけ忘れてたみたいね」
「そのようですね」
「あの、すぐに帰すから魔法陣のほうに戻ってくれる?」
ビクビクおどおどと、低姿勢に接するしかない私。
対して、彼は意外にも落ち着いており、とても冷静だった。にこりと笑みさえ浮かべ始め、私のほうに歩み寄る。
そして、サラサラの長い前髪をふわりと掻き上げながら、こう言った。
「ボク、帰りません」
「……え」
「せっかくだから、しばらく異世界で過ごすことに決めました」
「……え、あの」
「ここで居候させてもらえませんか、魔女様」
……え、ええええええええええ⁈
な、何言ってるのぉぉ⁈
「ボク、類です。ルイくんって呼んでくださいよ、魔女様」
「は、はぁ、ルイ、くんん⁈」
「ですですぅ」
「いや、ち、ちがう、そうじゃなくて、あのねルイくん、そんなカンタンに異世界転移して馴染んでちゃダメでしょう?もとの世界での立ち位置とか責任とか人間関係とか所属先とかどうするの?」
「ボク今、求職中なんですよねぇ。もっとボクが輝けてスキルアップもできる職場があると信じてずっと探してるんですけどー。転職エージェントにも登録してみたけど合わないしどうにも行き詰まっちゃってて。それで気分転換にちょっと自分探しの旅行でもしようかなぁ、なんて考えてたとこだったんですよね。ちょうどよかったですぅ」
「は、はぁ」
ペラペラペラペラと自己紹介をこなす。
類と名乗った、この可愛らしい青年ルイくん。
童顔で一見そうは見えないが、とっくに成人済みの社会人でアラサー男子ということだった。
身に纏うのはオフィスカジュアルらしきファッション。
上質な生地でできた仕立ての良いジャケットを羽織り、インナーシャツは丸首でラフな印象の柄物を着用していた。
明るく陽気でオシャレに爽やか。
涙袋がぷっくりとしていて目立っており、それが幼さと可愛さを主張する一因にもなっていた。丸顔で美容にも気を遣っていそうな細眉と透明感のある肌といい、フレッシュとアクティブキュートの中間くらいの、中性的な魅力もある。
とにかくポジティブな印象で、好青年ではあった。
「お願いしますよ魔女様、ここに置いてくれませんか?ボク、お役に立ちますから。洗濯でも掃除でも料理でもなんでもします」
「あの、でも……」
「ボク家事は大得意なんですよ。さっそく料理の腕をお見せしますから、ねっ。食材はえーっと、あ、何もないんですね、じゃあちょっとそのへんで採取してきますね行ってきまーす」
ばたん。(扉を閉める音)
ぽかーん。
呆気に取られるしかない私。
グ、グイグイ来るわね。強引過ぎでしょ。さすがコミュニュケーション能力の高いコミュ強陽キャは人を丸め込むことに関しての精度がちがうわね。
これだからまったく陽キャはもう。
自己肯定感高いんだから。つねに自信満々で。いつだって多数派マジョリティに属せていて万人ウケして。あんな自信に満ち溢れた堂々とした振る舞いができるのは、相手に断られたり拒否されたりするパターンとか可能性低いし想定しなくていいからなんでしょうよ。
ああ、ニコニコ好青年ってやっぱり苦手ー。
って。
すっかり卑屈になって僻んでしまっているわね、私。
はぁ。
それもこれも、長年魔女として迫害されてきた半生ゆえに派生した心理的弊害よー。
……ま、まあいいわ。
ちょっとした旅行気分のようだし、すぐに飽きてホームシック起こして、もとの世界に帰りたがるだろうしね。
しばらくほっとこう。
━━━━━━━━━━━━つづく!!




