第五話② 「魔女と、恋愛脳ツンデレ使い魔」
「こちらの世界へようこそ」
私はにこりと微笑んで、友好的に出迎えて見せた。
「私の召喚によく応じてくれましたね、我がしもべよ。心から歓迎しましょう」
失敗続きだった召喚術。
それが念願叶って、ようやく一応の成功をおさめたことに、私は悦びを隠せない。
いつになく饒舌になって満面の笑顔で愛想よく振る舞い、手厚く出迎えていた、つもりでいた。
だが……。
「私は、魔女。さっそくですが、我がしもべよ。おまえには、これから魔女の使い魔としておおいに役立ってもらいま……」
「ふざけんなぁ!!」
……私が自己紹介や説明事項を言い終えるその前に。
忠実なるはずの我がしもべは、それを遮ってくるのだった。
「ふざけんじゃねぇぞ、おい女ぁ!何が召喚だ!いつオレが応じた⁈人を勝手に移動させんな!何様だテメェ!さっさと元の世界に戻せよ!オラァ!!」
「………………はぁ」
………………失敗だわ。
……ああ。
やだもう、またミスっちゃった。
何よ、この反抗的なヤカラは。忠誠心のカケラもないじゃない。
私に従順で忠実な使い魔を求めていたのに。どうしてこうなっちゃうのかしら。もうこの手の不良キャラとか問題児はお腹いっぱいなのよ。
やっぱり私、召喚術、才能ないのだわ。
理想の使い魔なんか、全然手に入らないじゃない。
あーあ。しゃーない。
ここは潔く、あきらめよう。
「では、お帰りください。さようなら」
「はっ⁈ああ?強制じゃねぇのかよ⁈」
「無理にとは言いません。私に協力的な方のみ残っていただきますので」
獄卒っぽい、この男。
彼は、すでに勢い余って私の目前にまで迫ってきていた。
すっかり魔法陣からはみ出してしまっている。
「さあ、魔方陣のほうに戻ってくださいねー。すぐに向こうの世界にお返ししますので」
「へ、へぇ〜。ふーん」
彼は、そのまま立ち止まったまま。
魔法陣に戻るどころか、私の真横の位置から、動こうとしなかった。
そして、私の顔をじろじろ眺めながら、思案し始めた。
いつまで経っても、魔方陣のある床には戻らないまま、時が流れた。
「な、なぁ。あのさ」
ようやく、ぽつりと口を開き始めた。
「あんた、魔女、って言ってたな」
「そうですけど」
「そ、その、いつでも帰れるってんならさ。しばらくこの世界にいてやっても、いいぜ?」
「え」
「まあ、いいけど?オレ、あんたのそばにいてやっても。しばらく、この世界で暮らしてやっても、いいぜ?」
獄卒っぽいこの男。
ようやく口を開いたかと思えば、意外なことを提案し始める。
「もといた世界に戻っても、つまんねぇし。旅行気分楽しめて案外ラッキーかもだぜ、うんうん。いつでも帰れるってんなら、しばらく飽きるまで、こっちでのんびりするのも悪くねぇからな」
え、いや。
要らな……い、とも言えないわよね。
こっちが呼び出して来てもらってる手前。まあ失礼よね。
ここは丁重にお断りして帰っていただくしかないけども。
「な、なぁ。あんた、名前は?」
私の名前を尋ねてくる、獄卒っぽいこの男。
「オレは豪斗、ゴウトだ」
彼は、ゴウト、と言うらしい。
よく見ると、彼は、頬を紅潮させていた。
口角は弛み、目尻は下がり。
そのコワモテは今や、だらしなくスキだらけ。
緊張感も締まりも一切無しの、デレデレとした表情。シャープで精悍なフェイスラインも、たるみきっていた。
え、何?これ?
どういうこと?
なんだか、思春期真っ只中の、ピュアに恋する少年少女のような初々しい言動の数々である。
挙動不審に、私との距離を測ったり詰めたり離れたりを繰り返す。
じっとガン見して来たかと思えば、私が見つめ返すと、焦ってパッと目を逸らす。
その後は、さりげなく空や宙を見上げたり、といったふう。
明確に、好意を感じる。
私に対する、恋愛感情。過剰な興味や執着が、たやすく見てとれた。
あれ、うそでしょ。
何これ。
え、もしかして、これって。
「ねぇ、ゴウト」
「な、なんだよ、急に!名前を呼んでくれるなよ!ビビるだろ!」
「おまえ、ゴウトと言ったわよね」
「そ、そうだよ」
「おまえ、私のことが好きなの?」
「な……っ」
さらに紅潮し、慌てふためき、パニックになる彼。
「ふ、ふざけんな!誰が!」
あ、そう。
「そうよねー。そんなわけないわよねー」
うん、ごめん、私の勘違いだったわ。
そうよね。
出会ったばっかりで、しかも魔女相手に。
一目惚れするとか、そんなことあるわけないわよね。
「それじゃ、いいかげん帰りなさいよ」
「オ、オレはあんたのそばにいるって言ったろ!いや、べ、別に好きとかそういうんじゃないけどな!」
「いいから。早く魔方陣に戻って」
「帰らねぇって言ってんだろ!命令すんな!」
何コイツ。
意味がわからない。
「オレに指図するな!魔女!」
えー。
「女の言いなりになんてなってたまるかよ!えらそうにするな!」
うわあ。
「あんた、ちょっと綺麗だからって調子に乗るんじゃねぇよ!だいたい傲慢なんだよ!美貌をエサにしてオレを操縦したり支配したりする気だろうが、そうは行くか!その手には乗らねぇぞ!オレにはハニートラップなんか通用しねぇからな!ルックス自慢の女どもなんか見飽きてんだよ!」
え、何言ってるの、コイツ。
言葉はとっても荒いけど、私の容姿を高評価してくれてるわよね。綺麗、美貌、ルックス自慢、って。褒めて、讃えてくれてるじゃないのよ。
なんなの、どういうこと?
これって何?
やっぱり、コイツ、私のことが好き?なの?
実は、今回の召喚って成功していたの?
こいつってば、実は、私に従順で、忠誠心のある立派な獄卒だったりする?
理想の使い魔だったりするの?
「……う〜ん」
……そんな都合のいい話、あるわけないかー。
━━━━━━━━━━つづく!!




