◇5
「それであの後、どこまでいったの? えっ、まだキスもしてないの? 嘘でしょ!」
花子さんはソテツの木の根っこにもたれかかる俺たちの間に腰を下ろすと、無理やり腕を組んできて交互に俺とトモキの顔を至近距離で見つめてくる。やっぱり、ちょっとうざい。
「なんで、あの流れで成仏してないんだよ」
「えっ? あの時は邪魔にならないよう席を外しただけよ。……ほんとよ? 別に透明になって、しばらく覗き見なんてしてないから。こんなのまだ成仏できないわよ。二人が同棲して結婚して子供出来るまで見届けたいし」
「まて、性別無視してるって。男同士だと子供は」
俺のツッコミを機にもかけず、花子さんは早口で言葉を続ける。
「そんなの分からないじゃない。多様化の時代で、少子化も進行してるんだから、科学が頑張って発展して同性カップルでも子供を残せる時代が来るかもしれないし。ふたりの子供とか絶対可愛いと思うの。それに、あたしはプールサイドをリアルBLカップルが誕生した場所として語り継がないといけないし。トイレのBL本だって、今まで通り守っていきたいし。時代を超えて、それが出来るのは幽霊のあたしだけでしょ」
あっけらかんと言い放つ彼女に俺は若干引いてしまったけど、本音を言うと心強い。もし今後トモキとすれ違ったり喧嘩する事があったとしても、花子さんが近くに居てくれれば俺たちは上手くやっていける気がしてしまう。正直に伝えると調子に乗るから、絶対に言わないけど。
「でも、また三人で遊べて嬉しいな」
トモキは屈折のない笑顔で笑ってる。それを見て、俺が「そうだな」ってぶっきらぼうに付け加えると、花子さんは両腕で俺たちを引き寄せて、決まり文句を嬉しそうに言ってのけた。
「じゃあ、今日は何して遊ぶ?」