プロローグ
──全部、間違ってる。
「や、やだ……」
「嫌じゃないくせに、君は本当に素直じゃないな」
豪華な寝室のベッドの上で私の頬に触れるギルバート様は、そう言って綺麗に口角を上げた。
私を見下ろすアメジストの透き通った瞳は、はっきりとした熱を帯びている。
「もう許し……んっ……」
恥ずかしさからそっと肩を押せば、黙らせるかのように無理やり唇を塞がれた。
「ギルバート、様……」
「そんなに可愛い顔をされると、余計に離してやれなくなる」
それでも私に触れる手つきも声音も何もかもが優しくて、彼に聞こえてしまうのではないかというくらい、心臓は大きな音で早鐘を打っていた。
そんな私に気付いたのか、ギルバート様は再び整いすぎた顔を近づけてくる。
「んんっ……」
「今日も朝まで付き合ってくださいね。愛しい俺の奥さん」
長いキスを終えるたび、彼が幸せそうに微笑むことに気付いたのはいつだっただろう。
──今頃はヒロインと結ばれているはずの彼が私とこんな行為をしているのも、主人公の彼が悪妻キャラの私に愛おしげな顔を向けるのも。
そんな彼に惹かれ始めている私自身も全部全部、間違っているはずなのに。
(……もう、認めるしかないのかもしれない)
輝く柔らかな銀髪に手を伸ばしながら、私は初めて彼と会った日のことを思い出していた。