南の魔女
ちょっとした追放系にしてみました。
その日はとても良い天気だった。
精霊の占いでも出かけるのに良い日とあり、少し遠くの街道まで散歩することにした。
吹き抜ける風は心地よく、青いにおいが緑の季節の到来を告げていた。
あと少しで町というところで、旅装の人間が木を背に座り込んでいた。
そして目が合ってしまった。
「そこの方、すみませんが何か食べ物があったら分けてもらえませんか」
こんなところで行き倒れそうになっているが、見たところそれなりの実力者のようだ。
まあ私の敵ではないがな。
「散歩で人間を拾うというのは予定にはなかったな」
「いやあ、面目ない」
行き倒れもどきはもう歩けそうになかったので、私が魔法で家まで運んだ。
運び方が気に入らなかったのか、とても微妙な顔をしていた。
家に連れて帰り、食事を取らせた後、メイドに身支度させた。
応接間に呼んでメイドに茶を運ばせる。
「さて、話を聞こうか」
旅人はリザと名乗った。
西の王国の剣士で、国でいちにを争うほどの腕利きだという。
ある日、司令官から魔竜の討伐を命じられ、任務に成功したものの、いつの間にか現れた勇者一行に戦果を横取りされ、それどころか国に嘘をついたとして捕縛されそうになり、すんでのところで逃げ出した。
そして追手を逃れてここ南の公国までたどり着いたということだ。
「なんぎな話だな。まあしばらくゆっくりしていくといい」
リザの体力は次第に回復していった。
訓練がしたいというのでゴーレムを作って相手をさせたりした。
剣さばきを見ていると国一番の使い手というのもうなずける。
そろそろ夏になるかという頃、都から手紙が来た。
「西の王国がリザを引き渡せと言ってきた。公国は関係ないので魔女殿に任せた」
という内容だった。
丸投げがいっそ清々しい。
「先生に迷惑をかけてすみません」
「かまわないよ。義を見てせざるは勇無きなり、と言うしな」
それから三日後、西の王国の使者がやってきた。
リザを返せと要求してきたが、無論断った。
使者はいろいろと悪口を言っていたが、諦めて帰っていった。
さすがにかなわないと考えたのだろう、賢明な判断だ。
「さあ、次はどうするかな」
使者が帰ってから十日後、やってきたのは勇者一行だった。
西の王国は先を読んで準備していたようだ。
「リザを渡してもらいたい」
「だめだね」
「では魔女殿も勝負してもらう」
魔法使いがあらかじめ準備していた炎をリザに放ち、即座に勇者が斬りつける。
いい連携だ。
しかし、それは私が作ったゴーレムだ。
ゴーレムの陰からリザが飛び出し、勇者を吹っ飛ばす。
その間に私は残りのメンバーを風魔法で戦闘不能にさせた。
「私はいりませんでしたね」
「いやいや、リザが勇者に勝つのが目的だからね」
魔法で身動きできない一行に目を向ける。
「さて、ちょっと王国に挨拶してくる。君たちも一緒だよ」
移動魔法で西の王国の王宮の間に出る。
国王の他、ちょうど軍司令官がいた。
「初めまして、南の魔女だよ。勇者殿一行を派遣してくれてありがとう。おかげで良い運動になった。だが、次はいらん。もしちょっかいをかけてきたら黙ってないからね」
王も司令官も、そして勇者たちも悔しそうだったが、何もできまい。
私はローブを翻して王宮の間を後にした。
家に帰って椅子にくつろぐ。
リザとメイドを呼んでお茶にする。
「釘を打っておいたから大丈夫だよ」
お菓子を食べながら語る私を、リザはまぶしそうな目で、メイドは呆れた目で見るのだった。
さて、今日の晩ご飯は何だろう。
きっとうまいだろうなあ。