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4 周囲。

 世界は常にバランスを取ろうとしている。

 世界が壊れない為に、破壊されない為に、恒常性を保つ機構が備わっている。


 それはどんな生き物にも備わっている。

 なら、世界にも備わっていて当たり前だろう。


 世界ちゃんなる新たな概念を持ち、広め、直ぐに帰還した転移者がそう言っていた。


 この世界は生き物。

 より良い方向へ向かう為、右に左に振れながら進む、不器用でも不格好でも前に進む為。


 そう、右には左が有る様に、常にカウンターは存在している。


『中村君、小林君、コチラをご覧下さい』

「はい」


《何ですか、このハーレム特区って》

「伊藤さん、コレは」

『娘さんや息子さんを関わらせたくない、そうした親御さん達に配慮する為でして。因みに他国へ移動して頂いても大丈夫ですよ、少なくとも、この国ではそうして欲しいとの要望が出ているだけ、ですから』


「とうとう追い出すんですね、僕らを」

『いえ、特区に居て頂いても構いませんよ。ただ出入り等は厳重監視、外の者との接触は極力控えて頂く事になるので、何かしらの不自由は発生するかと』

《もう、出て行こう、中村君》


「ですね、今までありがとうございました」

『いえ、本来ならそうしたお礼をすべき相手は鈴木さんですから、お気になさらず』


 自分達は人間を超越した何か、若しくは人間の枠から外れた者、所謂特権階級だ。

 文句を言う者は、須らく嫉妬や妬みからだ。


 そうしてハーレムを大々的に築いていた彼らが、少しは間違いに気付いてくれる事に期待していたんですが。


「伊藤君、渡辺さん、彼らってどうなるかな?」

『今直ぐには、無理だろうね』

《まぁ、ココからが本番じゃないかな》


 無策でハーレムを築く。

 その弊害を理解してくれるだけでも、世界は少し良い方向へと進む筈、なんですが。




《裏切るんですか、田中さん》

『小林君、何の事ですか?』

「田中さんは仮にも同じ、同士、だと思っていたんですけど」


『同士?』

《ハーレムですよ、どうしてココに残るんですか》


『あぁ、僕は同性愛者、男色家なんですよ。いやー、騙せるもんですね、同じく同性愛者の女性と一緒に暮らすだけで、ハーレム仲間だと思ってくれてたなんて』


 僕、鈴木さんの事が凄く好きだったんです、それこそ一目惚れ。

 でも完全な異性愛者で、しかも酷い裏切りを受けたと知って、直ぐに切り替えたんですけど。


《アナタ、バカにしてるんですか》

『そう思うんならそうなんだろうね、君達の中では。と言いたい所なんだけど、はい、バカにしてます。大々的にハーレムを築くには、ココの文明文化に民度の度合いが低過ぎる、なのに。自分達には害が無いからと言って、他人に起きた弊害を無視するのは、少なくとも勇者や英雄のやる事じゃ無いよね』


「そう、成程、田中さんは最初からそう思っていたんですね」

『うん』


《アンタ》

『あ、邪魔はしないから。どうぞ、じゃ、さようなら』


 幾ら強くても、知恵や知能が有ると言っても、所詮は他人無しには生きられない。

 例えどんな能力が有ろうとも、どれだけの財が有ったとしても、今は良くても自分の子孫達が困る筈。


 なんだけど。

 いつ気付くかな、幾ら自国を作り好き勝手出来たとしても、近親婚を避けるなら他者にも少しは阿るべきだって事。




《ごめんなさい》

「いや、なら君達の親も一緒に」


《それは無理なの、ココでこそ、ごめんなさい》

『私は付いて行くわ、だから気にしないで、ね?』


「あぁ、今まで、ありがとう」


 少し数は減ったけれど、それも彼女達の選択だ、と思っていた。

 僕らは自由恋愛なのだから、と。


 けれど。


『やっぱり無理だわ、別れます、ごめんなさい』

《私も、ごめんなさい》


「どうして」

『なら答えて、子供の結婚はどうするの』

《お前ならハーレムの中で育った子に、安心して任せられるのかって、言われて》


「僕達なら、しっかりした子を」

『なら、転移転生者の威光が届かない孫の代、その後の子孫はどうなるの?例え異国に行ったとしても、結局は限られた相手から、無理に、そう選ばせる気なの?』

《私達、ココですらも女色家なのか、誰でも良いのかって、言われてるのに》


「そいつらを」

『止めて、その前に答えて』

《子供達の結婚相手について、どうするつもりなの?どう分からせる気なの?》


「移ろう、分かって貰える場所を作ろう」


 そうして転々とする度に、相手は減り。


《もう嫌、良い加減に落ち着きたいわ》

「まだ、ココはコレからだから」


 そうして残った子と子を成した、けれど。


『あ、コッチにいらっしゃい』


「あの」

『すみませんね、転移転生者様の子と遊ばせてあげられる様な躾けをしてないもんで、失礼します』


《ほっておきましょう、アナタの価値を理解していないだけ、嫉妬や妬みよ》


 いや、寧ろ理解しているからこそ、敢えて関わらないんだろう。

 僕の機嫌を損ねたら簡単に潰される、ハーレムに巻き込まれる、そう理解しての事なんだとは思う、けれど。


 自由を求めて出た筈が、逆に縛られる結果になった。

 そして子供達の未来を、狭めてしまった。


 そんな苦悩の中、新しい者を迎え入れた結果。


「何で、どうして病が」

『前にも言ったよね、僕でも治せない病が出たって』


「アレは、革新派が流した噂じゃ」

『本当だよ、免疫や遺伝の知恵を持つ人が来てね、事象が固定されたんだ。遺伝子に沿った抗体の発生や、免疫の付き方をする。そう事象が固定されたんだよ』


「なら薬が、新薬が」

『残念だけど、向こうと同じ、完治させられる薬が無いんだ。体内のウィルスだけを死滅させられる魔法は、僕には無理なんだ。今は、死と病を恐れる世界に変わっただけ、戻っただけだよ』


「じゃあ、何の為のヒールなのか」

『ゲームした事有る?アレって元は怪我を治す魔法、状態異常は主に毒、でも毒だって無毒化させる為に代謝を早めたり機能を補強しているに過ぎないんだ。病気を治すのは人の免疫や体力に依存する、そして免疫の過剰反応こそアレルギー、免疫が上げる事にはメリットとデメリットが有る。僕はそこを無視していたんだ、色々と、けれどそれは失敗だった』


「だから、無視しないからって」

『ごめんよ、けど忠告はしたよね、新しく病が流行ってるよ、って』


「佐藤さん」

『対処療法の薬なら出せるから、置いておくよ、足りなくなったら言って、じゃあね』


 幸いにも、病は僕と他の2人だけで済んだ、けれど。


《ハーレムのせいで病が流行ったなんて》

「実際に、僕がそうだからね。すまない、苦労させる気は無かったんだ、本当に」


《良いのよ、気にしないで》

「すまない、ありがとう」


 浮気されて初めて分かる、どうしようも無い焦燥感、苛立ち。

 こんな気持ちにさせない様に努力してきたけれど、本当に、絶対に一夫一妻制より幸せに出来ていたんだろうか。


《すっかり辛気臭いし、やっぱり出来無いなんて無理よね、だってすっかり目覚めさせて貰ったんですもの》

『良いのかい?バレたら殺されるんじゃないかな』


《だって、私は反対したのにあの女を入れたんだもの、自業自得よ。それに、本当に愛してるなら病になんて罹らなければ良かったのよ、頭の良い転移転生者様なら、何とか出来るでしょ》

『君は病は持って無いんだよね?』


《勿論よ、子供の為に一緒に居るだけ、腐っても彼は父親なんだもの》


 自分の立場、状況を突き付けられた。

 子供が出来た時点で、僕の役割は変わっていたのに、いつまでも男として愛されるんだと思い続けていた。


 だからこそ、こうして浮気をされたんだろう。


「すまなかった」


《アナタ、違うの》

「いや、良いんだ、すまない。もう後を付けたりはしないよ、追い出しもしない、好きにしてくれ」


 病が無ければ上手く行っていたかも知れない、けれど、それはハーレムだけ。

 家族としては、どうなってたのか。




《スズキ様、タナカ様が面会に来られたのですが、如何が致しましょうか》


「何の用なんだろうか」

《ただお会いしたい、と》


「そうか、会おう」

《承知しました》


 俺が思うより、魔王への評判は悪くなる事は無かった。

 と言うか、必要悪、そうした一種のカウンターや抗体として認識されているらしい。


 そう、北国で言うなら、なまはげレベル。


『あ、鈴木さん、全然変わらないですね。何か、魔王の加護ですか?』

「ぁあ、そんな感じだ」


 田中君は、俺とは真逆だ。

 称号は盗賊、けれども街の警備団隊長にまで一気に登り詰めた、イケメンだ。


 しかも親しみ易い、良い意味で気安いイケメンで、ハーレム形成者だ。


『やっぱり、やっぱり鈴木さんが1番ですよね』


 以前の俺は、周りを見ずに戦うだけの、狂戦士にも近い勇者だった。

 だからなのか、田中君の好意に、今初めて気付いた。


 けど、彼は。


「君は確か、ハーレムを」

『あぁ、同性愛者同士、身を守る為に一緒に居ただけですよ。って言うか僕の好意にやっと気付いてくれたんですね』


「そんな、一体いつから」

『一目惚れだったんですけど、もう異性愛者だって知ってたので。って言うか、今さっき気付いたんですかね』


「あの時の俺は、中年の嫌われ勇者で」

『真っ直ぐでしたもんね、勇者然としてて、好きでした、ずっと』


「勿体無い、折角のイケメンが」

『気にする所、そこですか。あ、じゃあ僕を美少女にしちゃって下さいよ。僕、自分の性別に拘り無いんで』


「そんなものなのか」

『まぁ、抱きたいですけど、何も無いよりは抱かれ、あ、両性具有とかにしちゃいます?』


「そんな、そんな軽く性別を」

『好きになって貰えるなら何だってしますよ、どんな僕が良いですか?胸は大きい方が好みですか?』


「いや、そん」

『まぁまぁ、想像してみて下さいよ、僕の女版、可愛くなりそうじゃないですか?』


 確かに、可愛くなるとは思うが。


「あ、いや、違うんだ」

『想像してくれたんですね、やったー』


「いや、待ってくれ、俺にはメリッサが」

《私は男になる気も両性具有になる気も無いので、1人位なら良いですよ、あくまで妾ですけどね》

『優しいなぁメリッサさんは、ありがとう』


「いや、待ってくれ、そもそも俺の気持ちが」

『大丈夫ですって、どっちでも満足させてあげますから』


 前から思っていたが。

 魔王の能力は、逆に不便だ。




《スズキ様、昨夜はお楽しみでしたね》


「そ、そんな風に見え」

《いえ、1度言ってみたかっただけですので、ご心配無く》

『メリッサさん、何処でそんな言葉を覚えてきたの?』


《勇者と魔王のご専門の方に伺いました》

「そんな者も居るのか」

『因みに、その人の前職は?』


《ゲーム会社、だそうです》

「あぁ」

『成程』


《本日のご予定も何も無い筈だったのですが、料理人志望の方が来訪予定です》


『転移転生者?』

《はい、転移者だそうです》


『良いね、会うだけ会ってみよう?知らない料理や味は出せないんでしょ?』


 鈴木さんの魔王のスキルは、ほぼ万能、けど万能じゃない。

 想像すら難しい事は不可能、だから食べた事も無いトムヤムクンは美味しい物が出せない。


「先ずは、人となりを見てからにしよう」

《畏まりました》


 魔王の料理人になりたい、だなんてヤバそうな奴だろうとは思っていたけれど。


《どうもー、森と申しますー。見た目通り性別は女で性の対象は男でーす》


「それで、大罪の美食になりたい、と」

《そうなんですよぉ、知ってる料理や味しか出せないんで、人肉を合法的に食うならやっぱり魔王の傘下に入って更なる能力を得るしか無いかなーと、思って、来ちゃいました》


「そう、募集はしていないんだが」

《えー、じゃあ自分の太腿焼いて食べるから良いです、ありがとうございました》


「いや、それは。どうして、そこまで」

《美味しい物が大好きだからです、と言うか水族館や動物園が楽しいのって、美味しそうだからだと思うんですよね。ペンギンとかアシカってどんな味だろう、リスって毛皮と美味しい肉と可愛さを持ってて凄いな。とか思うじゃないですか?》


『彼は、結構、普通でマトモだからね?』

《えー?アナタ両性具有だから置いて貰ってるんですよね?》


『どうして、その事を』

《ユニークスキルです、性別鑑定眼、食材選びには重要な事ですから》


「他には、何を」

《あー、味方にするかどうか下調べしないと難しいですよね。はい、ステータスオープン》


 この子、コレでサイコパスじゃないんだ。


「温、厚」

《料理を粗末にする奴意外には怒りませんから》

『拘りが食、なんだね』


《はいー》

《私は良いと思います、能力で悩まれてらっしゃいましたし、分散とすれば宜しいかと》

『悩んでたの?』


「コレは、便利で不便だ」

《あ、悪い魔王さんじゃないんですよね。悪い事はしないって、誰に誓えば良いんですかね?悪魔は今まさになろうって気で来てますし、誓われたら嫌な神様も居るかもだし、どうしたら良いですかね?》


「そこまで」

《だって折角の異世界で魔法が有るんですよ?食べたいじゃないですか、人肉》


「何も、大罪に」

《大英雄に、たった1人に必要悪を背負わせるのって違うと思うんですよね、鈴木さん》

『あぁ、君は誰の紹介でココに来たんだっけ』


《渡辺さんです》

『あぁ』


 鈴木さん魔王化計画の第一人者であり、精神科医の渡辺さん。

 あの女医さん、称号を暗殺者から軍師に変えたんだけど、その成果なのかな。


 けど、コレ加えたら。


「大罪は確か、7つ」

《そうそう、色欲、怠惰、憤怒、虚栄、悲嘆、強欲、暴食。暴食って大食いは勿論、食べ物を加工する美食も含まれてるんですよ、だから本当は加工しまくる人造肉とかも美食だから大罪に引っ掛かるん。あ、今は私の事ですよね、はい、大食いは無いから美食って名乗ろうかと思って。因みに大食いは私としては要らないスキルです、人並みの胃袋で毎食の献立を考えたい派なので》


「あぁ」

《分かりますよ、納得がいかないって。色欲、要は性欲の事なんですけど、性欲無しに子孫繁栄って不可能じゃないですか?何で大罪やねん、って思いますよねぇ、過ぎるって誰が判定するねんって》

『それはそうだと思うけれど、確か嫉妬って無かったかな』


《あぁ、虚栄とか悲嘆に嫉妬が含まれてると思うんですけど》

「あぁ、確かに」

『君、やけに詳しいね』


《家がそうだったので》


『あぁ、もしかして菜食主義?』

《そうそうそうなんです、しかも砂糖は敵、お菓子は手作り限定で外食こそ大罪。初めて食べたハンバーガーに感動した事がバレて、動揺した親に車道に押されて転移したんですよー》


 所謂、近世で、日本でなんて事が起きているんだろうか。

 流石に同情するよ。


「君は、今日から大罪の美食だ」

《やったー!ありがとー!》


 やっぱり鈴木さんは、優しい。

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