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26 トシオとサキュバス。

 ワシ、見知らぬ世界に来てしまって少し不安だったんじゃけど。

 その不安は一瞬で消え去ってしまったんじゃよね、見た事も無いもふもふ居るんじゃから、しかも触っても平気なんじゃよ。


《ふぉお、鼻も目も痒くならん、クシャミも出ん。もふもふじゃ、もふもふ様じゃ》


《ワイ、こんな喜ばれるとか、何や嬉しい様な恥ずかしい様な》

《誇って下されバロン様、いや、獅子王バロン様。カッコイイですしもふもふで、しかも気が優しい方だとは、有り難い有り難い。正に守り神様、是非お祀りすべきですよ鈴木さん》


「あ、あぁ」


《偉い乗せられてしまいましたわな、ついでに背に乗らはりますか》

《あぁ、ありがとうございます》


 ワシ、そのまま、もふもふを味わいながら眠ってしまったんじゃよね。

 何でも夢魔と言う種族は夜行性、夜明けを境に眠くなってしまうんじゃ、と。


《ミーミル、詳しいね》

「よく間違われるからね」


「森さん、ミーミル、君らは大丈夫か」

《私は大罪だからで》

「僕は似た種類の誘惑者(テンプシー)だからかと、出るフェロモンは同じだそうですから」


《ふぇろもん?》


《まぁ、良い匂いの体臭、かな》

《ほう》


 ワシとしては何も匂わんのじゃけど。


「ご自身では分かりませんか」

《じゃが、こう、良く嗅げば何となく分かる気がしますのう》


「俺の匂いは、どんな匂いなんだろうか」

《あまり甘い物は好きでは無いんじゃけど、腹が空く様な良い匂いが何とも、香りますのう》

《あ、前の好物は?》


《煎餅じゃよね、しかもバリバリに固いヤツが好きで。ただ、ココに有るんじゃろか》

《有るんだなぁ、食べてみます?》


《勿論!》


 ワシ、ココでちょっと婆さんの事とか抜けてしまったんじゃよね。

 もう態々、門前仲町まで行って、あの堅い煎餅を買いに行くのも億劫で。


 久し振りに堅くて美味い煎餅が食べれるとあって、少し浮かれてたんじゃよね。


《はい、どうぞ》


 醤油の香ばしい香り、持っただけで分かる堅さ。

 そして歯応え。


《うん、美味い!》

《ふふふ、私もそれ好き》


《お嬢さんは良い趣味をしておりますな》

《でしょー、食べるの大好きなんだ》


《食べるのは、大事な事ですからなぁ》


《あのね、夢魔って、精気が必要なの。字はコレ》


《精気》


《あれ、雪女とかが男の命を吸うアレ》


《ぁあ、成程》


《しかもインキュバスは女性から、サキュバスだと男性からで、だから多分》

《成程、夢の中で男と、成程》


《あ、でも、もしかしたら他の方法が有るかもだから。仲間を探してみようと思うんだけど。どう?》

《はい、頼みます、宜しくお願致します》


 そうして再びお城へ。

 どうやら鈴木さんは元は勇者、今は魔王なんじゃ、と。


「すみません、驚かせない様に黙っていただけで」

《いやいやいや、ワシがいきなり第六天の魔王織田信長に生まれ変わったとなれば、それを大声では言わんでしょうから。良いんです良いんです、こうしてお助け下さっているんですから、お気になさらず》


「ありがとうございます」

《いえいえ》


「それで、トシオさんの同族を探すのに、少し血が必要なんだが」

《あぁ、どうぞ、お使い下され》


 そしてワシの血が、水の入った綺麗な器に落ちると。

 今度は空中に浮かび上がり、近くの地図へ。


「あぁ、分散しているんだな」

《ちょ、お、地図が汚れてしまいましたが》

《大丈夫大丈夫、この血が仲間が居るって場所だから》


《ほぉ》


 改めて地図を見させて貰ったんじゃが、全然、違うんじゃよね。

 しかも仲間は分散して、各地に。


「どれだけ呼べるだろうか」

《この量なら大丈夫な筈、新しい地区の整備は終わったから》

《その、もしかしてココに集めるんじゃろか》


《うん、ココはコレでもマシな方で、他はもっと酷いんだよね。奴隷制度が有ったり、兎に角治安が悪い》

《はっ!なら婆さんが》

「ココにそれらしき者が居なかった、だからこそ、先ずは同族からと思ってな」


《すみません、神獣様と煎餅に浮かれて》

「いや、ココを良い場所だと思ってくれたなら良い。ただ、外は危険だからこそ、暫くココで待っていて欲しい。知識や経験、それこそ魔法を使いこなせた方が良い筈ですから」


《あ、魔法、そうでしたそうでした、どうにも》

《そうそう、慣れるまで、その間は私達が探すから任せて?》


《このご恩を、どう、お返しすれば良いんじゃろか》


「先ずは、良くココを知ってから考えて欲しい、必ず有る筈だ」


《はい、どうか、妻を宜しくお願致します》




 俺は、トシオさんの同族を救いに行った筈が。


「助けに来たんだ、どうしてコチラに向かって来る」

《分かるでしょ、飢えてるの》


 彼女、彼らの目は完全に血走っていた。

 迂闊だった、それなりに上手くやれてるだろう、と。


 まさか飢えているとは思わず、こうして来てしまい。


「いや、俺には相手が」

《お願い、助けて》


 その瞬間、誰か他に適切な者が居ないか、と。

 つい俺は、山本君とバロンを思い浮かべてしまい。


「えっ」

《お、ピンチでおま?》


「本当に、すまないと」

「いや、それよりココ」

《あぁ、夢魔さん達でっか。ワイは確かに邪や魔を払いますけど、それより精霊使いさんの出番とちゃいまっか》


「あぁ、成程」


「ちょっ、もー、鈴木君」

「すまん、緊急事態なんだ」

《精霊の泉言うの作ってくらはりますかね、せやないとワイら食べられてしまいますねん、色んな意味で》


「あ、え、ぁあ。出でよ、精霊の泉!」


 急に呼び出した元鈴木、現ローズさんが地面に向かい手を翳すと。

 湧き出た、そして地面が抉れ更に水は湧き出し、とうとう泉と呼べる大きさにまでなり。


《あんさん達は暫くこの泉で飢えと渇きを癒しなはれ、ワイがココに結界を張ったるさかい、安静にしてはったら宜しいわ》


《ありがどう》


 こうして、何とか危機を回避出来たが。


「先ずは、少し、どうしてこうなったんだろうか」


《ぁあ、アナタの国には居ないのね、サキュバス》

「あぁ、新しく建てたばかりでな、そこにも居なかった。資料だけが僅かに存在している」


《私達は精気を欲する、けど、私達にだって選ぶ権利が有るわ》


 彼女達は正しく性奴隷の扱いを避ける為、人里からギリギリ離れた場所で暮らしていた、あまり離れては精気を吸い取る事が出来無いからだ。

 本来、フェロモンの影響を受けた相手の夢に入り込み、夢の中で性行為を経て精気を吸収する。


 けれど夢に入り込む事を各所で結界により封じられ、現実での性行為でしか得られない状況に。


「すまない、俺らのせいか」

《もう、かなり昔の事よ、アナタの噂は聞いていたわスズキ》


「改めて尋ねたい、君達が夢の中で精気を得られる様にする、ウチに来ないか」


《その、行為は行為で構わないの、ただ相手を選びたいだけ》


 ただでヤらせてくれるのだからと、アホが他にも存在を教えてしまい、だからこそ森を転々としていたらしい。

 彼女達も精霊の亜種、ニンフやそれらに属する種族、なんだそうだ。


「勿論、選ばせる。ただ、少し準備が必要で」

《大丈夫、2~3日はコレで飢えを凌げるから。ただ、他の地区の子達も、お願い》

《ココに集めたらええがな、出来るでっしゃろ、魔王様》


《アナタが、そう、噂は本当だったのね》


「それでも、構わないか」

《勿論よ、私達は戦う術を持たない。だからこそ、こうして逃げ回り、隠れているのだもの》


「すまない」

《良いの、アナタのせいじゃないわ。私、少し眠るわ、仲間に伝えておくわね》


「あぁ、頼んだ」


 そうして俺が転移を繰り返し、1ヵ所に集め終え、一旦はと元鈴木さんと共に城に帰ると。


「あ、山本君は?」

「あ」


 急いで戻ると。

 いや、ココは敢えて詳しくは言うまい、ただ幸いにも未遂だったとだけ言っておく。


「もー」

「本当にすまなかった、あまりに静かで」

「まさか寝てたとはね、良かったね山本君」


「はぁ」

「ごめんってば、後で一緒に説明しに行くからさ?」


 珍しく、山本君が悩んでいた。

 いつもなら、即断即決の筈の、あの山本君が。


「お願いします」

「了解、先ずはサキュちゃん達の事ね」

「あぁ、安全が確保出来たんだ、遠藤君にも来て貰い解析して貰おう」


 そして、結界を張る為にも、そもそも新しい地区を開拓する事に。


 仕方が無い、コレは緊急事態だ。

 魔王の力を使うしか無いだろう。


「凄い、流石です鈴木さん」

「ただ、こう、遊郭を建てて良いものか」

「女が食い物にされないなら良いんじゃない?」


「ローズさん、そんなものか」

「そんなモノよ、それ以外は無視無視、批判したいなら先ずは代案出せっての」

「ですよね、遊郭が悪って言うか遊郭を使って悪い事をしてた人達が、悪いんですし」


「そうそう、しかも折角出れたのに出戻りも居たって言うし、ココは出入り自由なんだし」

「ですね」


「迎えに行くか」

「僕は止めときます」

「だね、コッチは栄養を集めに行こう」


 そうして、どう言い包めたのか。

 結構な人数が集まっており、トシオさんも含め妓楼で1晩過ごして貰う事に。


「ありがとうございますメスズキさん、お陰で真っ赤な顔が見れました」

「山本君、五ノ竜を連れ込んだのか」

「まぁまぁ、ちょっとは他人も手を貸さないと進まない事も有るしさ、ね」


「まぁ、問題無いなら良いんだが」

「うんうん、はい、着物の図案。木村さんが協力してくれたんだ」


 木村。


「ほら、聖女候補」

「あぁ、アレか」


「ガッチガチの呉服問屋の娘さんだったらしくて、戻りたいんだって」


「ぁあ、ハーレムに行ってたんだったか」

「うん、もう懲りたから、暫く働いてみたいんだって」


「本当に大丈夫そうなのか?」

「うん、渡辺さんも確認したし、一応見張りは付けるよ」


「助かる」

「いえいえ、2毎ずつ作って、私への謝罪とご褒美」

「あ、僕もお願いします」


「分かった」


「後は、奥さんだけですね」

「あぁ、出来るだけ早く見付けたいんだが」

「精霊も手伝うから大丈夫、鈴木さんの体は1つ、はい先ずはコッチ頑張って」

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