24 吉田と佐々木とギルド。
《ギルドの運営方法、ですか》
《はい、そもそもギルドが全然な場所が多くて、改めてどう運営しているのかな、と》
渡辺さんが良い人を紹介してくれるとは聞いていたんですが、この人、では無いですよね。
こうして勇者とか選んじゃう人って、私、苦手と言うか寧ろ今はもう見下す種類と言うか。
いえ、鈴木さんは良いんです。
鈴木さんは例外と言うか、あのクソみたいな世界に必要だった人で、寧ろ勇者と言えば鈴木さんと言うか。
あ、いえ、今はギルドの運営方法ですかね。
この、勇者佐々木さんに教えるのは。
《分かりました、ご案内致しますので、コチラをどうぞ》
《ギルド運営マニュアル、ですか》
《はい、私はコレでも早く引退したい方なので。少し業務連絡等をしてきますので、暫くお待ち下さい》
《はい、宜しくお願いします》
私、人種なんですけど、称号のお陰で鼻が利くんですよね。
彼は苦労していない香りがプンプンする、正に鼻につく。
いえ、鈴木さんと言う存在を知らないからこそ、選んだんでしょうけど。
魔王が居ると知りながら勇者って。
絶対、虚栄心や自尊心、承認欲求バリバリの。
《あ、田山さん、コレからご出勤ですか》
『そうなの、おはよう吉田さん。朝早くに起きないと勿体無いと思っちゃって、貧乏性って中々直らないわね』
《分かります、燃料費って意外と積み重なるモノですから》
『そうなのよねぇ』
《あの、佐々木さんの事、何かご存知ですか?》
『あぁ、例の称号の?』
《はい》
『そうねぇ、一言で言うと、若い、よね。そこまで色々な方の事は分からないけれど、最近の若い子ってこうなのかしら、って』
《私、苦手なんです、苦労して無さそうな人》
『ふふふ、私もあまり苦労して無い方だと思っているのだけれど、苦手なのかしら?』
《田山さんより苦労してない人が苦手、ですね》
『あらあら、でもきっと、良い面も有るかも知れないのだし。短気は損気、先ずは長い目で見てみましょう』
《はい、呼び止めてすみませんでした、行ってらっしゃい》
『いえいえ、じゃあ、行ってきます』
この先には遊郭、妓楼が有る。
てっきりこの先の事を佐々木さんは聞きに来るのかと思ったけれど、どうやら、まだ敢えて耳には入れていないらしい。
仕方無い、鈴木さんの頼みですし。
粛々とご案内し、さっさと終わらせましょう。
《皆さん、おはようございます。来客中ですが、私のお客さんなので特に気にせず、ですがもし何か有れば報告を。以上です、ではお仕事を始めましょう》
凄く、とてもしっかりと運営されていた。
ほぼ家屋全体に魔道具や魔法が発動しない様にと魔法封じの結界が張られ、騒動が有れば警備と従業員が連携し、重力の魔法で制圧。
数日置きにレートが変わる品物は表に掲示し、それを基準にするので査定も明瞭、ダンジョン攻略用マニュアルに至ってはココに何セットか有るので読み放題。
規約も理路整然としている。
身内以外の男女混合パーティーは禁止。
コレ、意外と無かったけど本来はこうすべきだと思う、お互いの為にも。
《どうして結界を張らないんでしょうね》
《面倒なのでしょう、それに手間暇にお金も掛かる、維持費って少額でも馬鹿になりませんから》
《そこですよね、完全に分配を間違えてる》
《バカだからでしょう。コチラも一応はマニュアルを残しはしたんですよ、今ではほぼダンジョン用ギルドと化していますが、向こうでもギルド運営はしていたんです。主に人員の貸し出し、仲介役、それこそ街の雑用係でしたから》
《完全に、形骸化していますね》
《でしょうね、バカですし、有能な者は全てコチラに引き入れましたから》
この怒気、向こうの国に向けるのは分かるんだけど。
僕、何かやっちゃったかな。
《あの、僕、何か不愉快にさせる様な事をしたり、言ってしまいましたでしょうか》
《それ、本気で聞いてますか》
敵意とは違う視線。
コレ、侮蔑だ。
《すみません、はい》
《私が鈴木さん派だからか、男があまり好きでは無いからか、さして苦労していなさそうな匂いがするからか。又は、それら全てだった場合、どうなさるおつもりなんでしょうかね》
《それは、どうにも》
《はい、ですのでお気になさらないで下さい、コチラも善良な大人ですので仕事はしっかりこなします。それとも、万人に好かれないと気が済みませんか、勇者様》
頭が真っ白になった。
別にチヤホヤされたいだとか、万人に好かれたいとは思って無かった。
けど僕の称号、僕の態度、それらがそう思わせても仕方無い。
知らなかったとは言えど、僕が鈴木さん以外に勇者になってしまったのだから。
《すみません、魔王が居ると知って、生き残るにはコレしか無いと思ったんです》
《どんな世界の、誰の勇者、なんですかね》
彼女の称号は分からないけれど、きっと、中身が空っぽな勇者だってバレてるんだ。
ただ勇者の称号を持ってるだけ、の転移者、転移転生が大勢居る中で。
僕は魔人とヤって、力を借りて各地を放浪するだけの、勇者の称号を持つ者。
勇者じゃない、僕は単なる勇者の称号持ち。
鈴木さんは根っからの勇者、だから魔王になってもコレだけの人が集まって、未だに鈴木さんは勇者だって信じてる人達が居る。
こんな僕は目障りで当然。
なのに、少し下手に出る程度で大丈夫だろうって接して、嫌になって当たり前。
鈴木さんが築いた土台の上に、僕は土足で上がって、対等に接するなんて烏滸がましい。
きっと彼女も、この基礎を作り上げた1人なんだから。
《すみませんでした、勇者の名に相応しくなれる様に努力し続けます、ごめんなさい》
《で、する事が魔人とヤる、ですか》
死にたい。
《すみません》
《あぁ、良いんですよ、どうせ私に好かれずともアナタに損は無い筈なんですから。他には何か?》
《いえ、ありがとうございました》
《いえ、では》
佐々木君と吉田さんの相性は最悪だとは思ってたけど、凄いなぁ、ぶっ殺しに掛かったな吉田さん。
《すみません、もう、僕》
《あのさぁ、鈴木さんがそこまで勇者らしいかどうか気にして動いてたと思う?》
《いえ、ですけど》
《それで勇者の称号を外しても良いけど、計画はどうすんの?それで吉田さんが責任感じたらどうすんの?それとも責任感じて欲しいの?》
《計画は、計画が終わったら》
《それ、卑屈になる為の楽な道だよね。やっぱり出来ませんでした、俺には何も無理なんで頑張りませーん、って。頑張りたく無いのか、卑屈になりたいのか、慰めて欲しいのかどれだい》
《こんな僕が頑張っても、鈴木さんに、追い付ける気がしなくて。勇者、名乗るのも、恥ずかしくて》
《もし周りがそれを承知で生暖かい目で見守ってたとしたら、どうする》
《消え去りたいです》
《つまりは何もしたくないんだね》
《いえ、せめてダンジョンとギルドの事だけでも》
《帳尻を合わせは幾らでも出来るよ、何に転職したい?》
《僕、そんなにダメですか》
《それ本気で聞いてんの?本気で聞いてるならショック受けるなよ?》
《すみません》
《周りの目を気にし過ぎ、そこナイーブだよね、その点は勇者に向いて無いと思う。ただ選んだ理由のまま、生き残るだけを考えれば良いんじゃないの》
《でも、それじゃあ、父親像も家庭の事も》
《君はそんなに器用なのかね、今は実績を積む時期、評価は後から付いて来る。もし鈴木さんだったら、今頃はずっと狩りをしてた、不器用で口下手だから強くなる事だけに専念してた。顔色を伺うより、出来るだけの事を全力で行えば、いつか認めて貰えるかも知れないけど。あぁ、そうだ、そこが吉田さんの逆鱗に触れたのかもね》
《あの、どう》
《根本的に人に嫌われると思ってない、しかも言葉足らずに尋ねても周りが答えてくれるだろう末っ子気質、何処かで甘えた態度を見せちゃったのかもね》
《はい》
ビンゴ。
しかも彼に優しくする利益皆無だからなぁ、吉田さんは鈴木さんの妹的存在だし、魔王になった鈴木さんは何でも出来るって本気で思ってるし。
《向こうは先輩だからねぇ、幾ら鈴木さんが君を認めてても、全員が認めているとは限らない》
《はい、好意的に扱われないだろうと思うべきだったのに、不機嫌さの理由を尋ねてしまいました》
《まぁ、仕方無い、ココで勇者の称号だとそうなる》
《はい、皆さんに甘えてました》
《以降は甘えるべき相手を見誤らない様に、自分の立場を忘れない様に、それでもどうしても無理なら転職。今直ぐに転職しても良いけど、鈴木さんと吉田さんの間に亀裂を生じさせるかも知れないから、もう少ししてからだな》
《はい》
コレばかりは、慰めは却って危険だ。
最悪は鈴木さんと同じ様に利用される可能性が有る、もっと言うと本当にハニトラに引っ掛り、コチラの敵になる事すら想定出来る程の弱さ。
ココで折れるならいつか折れる、このクソみたいな世界では、弱くて愚かじゃ食われる。
けれど真面目さは有る、人に相談出来る柔らかさが有る、さして愚かでも無い。
希望は有る、次代の勇者、次代の魔王。
《古参、鈴木派の者の言葉ばかりを聞くのは良くない。良い人を紹介してやろう、運営や管理の相談役だ、先ずは話を聞いてみるだけで良いと思う。人となりを知って、また考えれば良い。良い切り替えになるぞ、そして勉強にもなる》
《はい、すみません、宜しくお願いします》
あぁ、コレだろうな、吉田さんがウザったかったのは。
私も苦手だ、こうした子は。
キャラ紹介。
吉田
《遠藤さんの事も尊敬してますよ》




