22 悩み。
《ど、どうしましょう、僕》
「落ち着いて下さい佐々木君、どうしたんですか」
《しちゃったんです、サラタンと》
「ぁあ、そうですか」
《そうですかじゃなくて、避妊も何もせずに》
「そうですか、良かったですね」
《だから、僕、父親に》
「あぁ、子種だけじゃなかったんですね」
《いえ、そうじゃないんですけど、でも》
「例え人とするにしても、ヤれば出来ると思わないと」
《出来るとは思いましたけど、でも、父親としては要らないって言われて。どう、すれば、良いのか》
「それ責任感からですよね。愛情が無いなら、遺伝子が残ったー、やったー。で良いんじゃないですかね」
《でも親、家族ですよ?》
「ですけど家族の役割を全く求められて無いんですよね、別に問題無いのでは」
《ですけど、でも、もし》
「もし何か有れば僕らで面倒を看ますし、あんまり気にしないで良いと思いますけど、そんなに信用ならないですかね僕らって」
《いえ、でも》
「それよりも、と言うのは流石にアレかも知れませんけど、ダンジョンはどうしたんですか?」
《その、協力をと》
「あぁ、それで、成程」
《あの、本当に》
「魔獣は面倒だから嘘は言わないと思いますよ、七大竜もそうですし、心配なら定期的に話し合いをすれば良いのでは。直ぐに子を孕むには至らないそうですし、先ずはダンジョン攻略をしてくれると助かるんですけど」
《あ、はい、すみません》
「時間はまだ有るんですから、色々と周りに相談してみれば良いんじゃないですかね」
《はい、すみません、ありがとうございます》
正直、僕としては羨ましい事ですけどね。
まだ、やっと、手を繋げる様になったばかりなんで。
「はぁ」
僕の凄い好みだから、つい、流されてしちゃったけど。
『意外と簡単でしたね、ココ』
《あ、はい》
しちゃった。
散々出しまくった後に賢者タイムに入って、事の重大さに気付いて。
で、こう、魔人と一緒にダンジョンを攻略しちゃって。
『どうされましたか』
《あの、僕、結婚とか考えた事も無くて。だから、真面目に考えて無かったんですけど》
『あぁ、大丈夫ですよ、他にも子種を貰う予定ですし。私達魔人の寿命は長い、結婚は似た寿命の者と行った方が、お互いの為かと』
《でも》
『理想の家庭像も父親像も無いんですよね、でしたら今は先ず、生き方を考えるべきでは』
凄く当たり前の事なのに、頭を殴られた様な気分だった。
ココで生きる指針も何も無いのに、結婚しようだなんて。
《すみません》
『では、戻りましょうか』
《はい》
僕は、先ず自分の身を何とかしないといけないのに。
『あらあら、それで竜人達の意見を聞きたいのね』
《はい、すみません田山さん、こんな馬鹿みたいな事をお願いして》
『良いのよ、仕方無いわ、まだまだ向こうなら若い方なんだもの』
《あぁ、ココだともう結婚してたりするんですよね》
『そうね、全体の寿命が短いとそうなるらしいくて、婚期が遅くなるのは追々らしいわ』
《どう、田山さんは結婚を決めたんですか》
『私の中身、後期高齢者なのは知ってる?』
《えっ、いや、そうだったんですね》
『ふふふ、そうよね、見た目って大事だものね。それに一緒に居て楽しいかどうか、私ね、前は子育て以外は何も楽しく無かったの』
女なら、結婚して子を産むべき、子育てをすべき。
男は外でストレスまみれで稼ぐんだ、お前は家で楽をしているんだから外で働く俺に少しは気晴らしさせろ、家の事はお前に任せているんだから一々相談してくるな。
子育てに失敗したのはお前のせいだ、もっとお前が食事に気を付けてさえいれば俺は心臓発作を起こさなかった、浮気させたのはお前が悪いからだ。
《田山さん》
『あ、ごめんなさい、前は納得していたんだけど。今思うと、理不尽で不条理よね、だから結婚よりもお付き合いを大事にしてたのだけど』
やっぱり、居心地が良くてずっと一緒に居たいと思っちゃったのよね、他の誰にも取られたく無いって。
声も匂いも何もかも、心地良いの。
何を喋っても否定されないし、何をしても喜んでくれる、褒めてくれる。
そして何より、私を好きだって、私が良く分かるから。
だから受けたの、結婚の申し込み。
《魔獣には、魔人にも同じ様な心って有るんですかね》
『私が直ぐにお返事しなかったのはね、素敵な人だからこそ、もっと他に見合う誰かが居るんじゃないかって思ったの』
種族が違う、寿命も違う、育った環境も何もかもが違う。
なら、きっと、もっと合う誰かがいつか現れるんじゃないのかって。
でも、離れている時の方が辛いって。
だから、一時でも、傍に居る事にしたの。
《僕、そう思われてすらいなさそうですけどね》
『そんなにアナタの事を知って貰えてるの?アナタがヤバい人なのかどうか、どんな人なのか、ちゃんと知って貰えてるの?』
《いえ、でも》
『アナタが良い品物を持ってる商人かどうか、せめてそこからじゃない?』
《自分でも、何も無いって分かってるんです、だから、そこを見抜かれたんじゃないかなって》
『なら、持てば良いじゃない?そんなに好きなら』
《好きか、分からないんです、体から始まっちゃったから。軽蔑しますよね、すみません、ごめんなさい》
『それは、私は良く分からないけれど、結婚を考えているのなら』
《結婚も後なんです、後になって考えて、そうするべきだって思って》
『そう、それで悩んでいるのね』
《はぃ》
『そうした事って良く分からないから、あまり碌な事は言えないのだけれど、お相手が良いって言うなら。いえ、そうね、子供に何か言われるのが嫌なのかしら?』
《はい、多分》
『彼女の事はそこまで詳しくは知らないのだけれど、サラタンが、そんな子育てをするかしら?そこを知る所から始めるのは、どうかしらね?』
《はい、ありがとうございます》
『いえいえ、程々に頑張ってね、無理をせず程々に』
《はい、ありがとうございました。失礼します》
『いえいえ、気を付けてね』
若い子って、大変ね。
「もう終わったか」
『ふふふ、若い子の相談って難しいわね』
「だろうな、お茶をしに帰ろう」
『そうね』
勇者佐々木君とサラタンのお陰で、某国のダンジョンが無事制覇され、サラタンのダンジョンと紐付く事が可能となった。
どうやらダンジョンコアはランダム出現らしく、向こうでは出ていなかったらしい。
やはり、ダンジョンにも意志が有る。
「それで、ダンジョンの難易度は」
『程々に苦戦する程度にしております』
「そうか」
『ただやはり、出現するアイテム等の制御は不能です、何が精製されるかは運次第かと』
「そしてエネルギー分配の制御と、内部構造のみか」
『引き続き試行錯誤はしてみますが』
「いや、手が空いた時で構わない、相手探しが必要だろう」
『ありがとうございます』
佐々木君だけでは、やはりダメか。
コレもある種の本能なのだろうな、人とは違う、エルフとも獣人とも違う新たな種族。
そうか、だからこそか。
数が多ければ多数となる、少数派のデメリットを本能で回避してくれるのか、助かる。




