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21 勇者。

『えー、めっちゃタイプなんだけどー、彼女居る?童貞?好みのタイプって有る?』

《あ、えっと、あの》

「すまない、その絡み付いてるのはエキドナ」

『私はサラタン、エキドナに飽きたら私のお相手もお願いしますね』


 僕は付与術師の称号で、本当に良かったと思う。

 こうしたハニートラップ(魔人2人は本気)の標的にはされ難いし、好意を寄せられてもハニートラップだと心配する事も少なかった方だし。


 本当に、どうして勇者なんか。

 いや、鈴木さんは良いんですよ鈴木さんは。


《あ、あの、鈴木さんと話を》

「2人共、口説くのは後にして貰えるか」

『はーい』

『はい、ではまた、後で』


「すまん、仕切り直そう。俺が鈴木だ、そして魔王でもある、君とは和平交渉を結びたい」


《へっ、でも、勇者だったって》

「闇落ち、とまでは言わないが、それなりの経緯と事情が有るんだ。ただ、直ぐに信じる事や、そもそも事実を知るのには時間が掛かるだろう。先ずは俺の国を見回って、知って、比べてみてはくれないだろうか」


 鈴木さん、魔王って言うか王様っぽい。

 いや、確かに魔の王だから王様では有るんだけど。


《その、先ずはザックリ経緯を聞いても、良いですかね》


「山本君、頼めるだろうか」

「はい、ざっと言うと散々に利用されて、嵌められて落ち込んで鈴木さんは自死しました。そして鈴木さんを愛する女性が魔王として復活させました、敢えて、必要悪の為にと、他の転移転生者も協力しての事です」


《なら、ダンジョンは》

「俺は全く関知していない、そも望んでもいなかったが、ココのは掌握した」

「ぶっちゃけ、ココはかなり統制は取れてます、なので先ずはココじゃなく諸国を巡ってみても良いと思いますよ。如何に居た国がクソか、知れば分かる筈ですから」


《僕を、殺すとかは》

「利が無い事はしない」

「害そうとしなければ害さない、文明人なら当たり前の事を僕らは守っているだけですよ」


《あの、各地を回りたいのは山々なんですけど。まだ殆ど能力が、それに資金も、無くて》

「貸すが、利子は貰う」

「各地の記録を僕らにも教えてくれるのなら、資金提供します、それにスクロールや防具も」


「焦って考える必要は無い、戻るなり好きにしてくれて構わないが、それこそ君の命は保証出来無い」

「万が一にも向こうが寝返ったな、等と言い掛かり付ける可能性を心配しているんですが、そこもお任せします。信じる信じないはアナタの自由、アナタの責任ですから」


《少しだけ、考えさせて下さい》

「じゃあ部屋まで案内しますけど、どうしますか」


《はい、お願いします》


 ただでさえ端的な鈴木さんの言葉が、今回は更に端的になってて、正直面白かった。

 遠藤さんの読み通り、補佐に回して貰って良かったと思う。


 ただ、田中さんがちょっと拗ねてるんですよね、自分の役目なのにって。


《あの、コレ、ドッキリとか無いですよね》

「無いですね、でも何も無しで信じるのは大変だろうし、何かスキル付けますか。僕、付与術師なんですよ」


《あ、じゃあ、嘘を見抜くとかそうしたのって》

「有りますよ、ウチのダンジョンから出たスクロールから魔道具に付与した物なんですけど。それも信じられないなら、暫く向こうで修行を積んでみるか、更に他の国に行くかなんですけど。任せますよ、舐めてるワケじゃないんですけど、鈴木さんは凄く強いんで」


《あの、さっきのエキドナとか、サラタンって》

「鈴木さんが以前に倒した四大魔獣ですね、人化したんです、魔王の蘇生によって」


《あぁ、すみません、まだ混乱してて》

「この先が部屋で、コッチの突き当りに転移魔法陣が有りますから、お好きな方をどうぞ。じゃ、失礼しますね」


《あ、はい、どうも》

「いえいえ、じゃ」


 勿体無い、見た目も何もかもが普通なんだし、それこそ生活系の称号を持っていればそこそこの。

 いや、そこそこが嫌だからこそ、なんだろうな。




《はぁ》


 魔法もダンジョンも有って、それこそ魔王の居る異世界だからって、勇者の称号なら安全だと思ったのに。

 魔王さんは優しいし、って言うかそもそも、勇者が魔王堕ちしたのがココの国のせい。


 改めて城下町を内々に見て回ったけど、凄い民度が低い。


 ぶっちゃけ、ある程度の民度かなとは思ってたけど。

 まぁ下衆しか居ない。


 じゃあ、だからって魔王国の方がマシかって言うと。

 うん、全然マシ。


 魔王国にはもう奴隷は居ないんだけど、相変わらずココには存在してる、しかも扱いが本当に最悪。

 女に限らず男でもヤられるし、年齢とかマジで関係無く、ヤるわぶん殴るわで。


 紙の中の世界でもギリギリなのに、目の前で繰り広げられると、本当に無理。


 お城の中だけならまだ、ギリギリ、ってかギリギリアウト。

 僕が居ない所では平気で侍女に手を出そうとするし、平気で殴るし、差別だってしまくり。


 獣人、可愛いのに。


 って言うか、少し前は獣人も普通に暮らしてたらしいけど、鈴木さんを裏切ったからって国を挙げて奴隷扱いに。

 でも、結局はマッチポンプ、奴隷が欲しいから適当な口実を理由にして奴隷にしただけ。


 そりゃ魔王にもなっちゃうよね、こんなの。


『ぉお!帰って来て下さいましたか!』

《あぁ、はい。鈴木さんを騙る悪人だったので倒してきました》


 散々迷った僕は、思い切ってお金も道具も何もかも借りて、先ずは魔王国を見回った。

 そして言い訳も何もかもを、鈴木さんの仲間に用意して貰い、この国に帰って来た。


『そうですかそうですか』

《ですけど、まだ安心は出来ません、そこはすっかりダンジョンに呑まれて人が殆ど居ませんでした。ココは大丈夫ですか、ダンジョン》


『実は、そこも困っておりまして……』


 やっぱり、遠藤さんだけじゃなく、それこそ鈴木さんの想定通り。


 浅い下位層なら、装備も経験も殆ど無くても良い。

 けれど深くなる程に装備と経験が必要になる、それこそ人員も、信頼出来る仲間でないと一気に総崩れとなる。


 なのに、基本的には使い捨て。

 表層の汚れだけ取ってれば良いと思ってたらしいけど、敵が強くなっていて、しかも熟練者が減りつつ有る。


 ダンジョン内部のエネルギーや元素は、上から下へ、より下へと溜まる仕組みらしい。


 概念的内部構造としては、ある種の逆ピラミッド型になっており、上層から下層へとエネルギーや元素が溜まる。

 階層により成分の何もかもが下に行く程に濾過精製され、濃縮され、秘宝なる物が精製されるらしい。


 そしてその分、敵も強くなる。


 ダンジョンは時限付きなだけじゃない、定期的に攻略されなくては強度を増し、果てはどうしようも無く強い敵が溢れ出す。

 本当に、生き物みたいに循環システムが確立されてる。


《なら、暫くダンジョンに潜ります、仲間を揃えるので協力して下さい》

『はい、勿論で御座います』


《ただ、暫くは他の者をダンジョンには入れないで下さい、同じく誰かが死ねばダンジョンが強化される可能性が有る。僕の攻略が難しくなりますから、良いですね》


『はい、その様に手配させて頂きます』


 多分、山本君が言ってた通り、ガバガバ警備にするんだろうな。


《念の為に内側からの結界も試したいので、そうした術師の用意もお願いしますね》


『はい、畏まりました』


 鈴木さんに付き添って貰って他の国のダンジョンでレベルを上げたけど、出来るかな、僕1人で。


 念の為、サラタンに協力して貰おうかな、洞窟ダンジョンだし。

 もしかすれば繋がるかも知れないし。


 うん、お願いしてみよう。




『良いですよ、ヤらせてくれるなら』


《へっ》

『私もエキドナも子種を溜める器官を有しているんです、子育てはコチラで致しますので、ただ出すだけで構いませんよ』


《えっ、でも》

『勇者なんですし、いつか死んでしまうかも知れない、ですのでお気になさらず。魔王様は人の蘇生をなさった事は無いんですよ、あまりに道理に反する、と。ですので、子種だけで十分ですから』


《魔人は違うかも知れませんけど、普通、父親も》

『では、アナタは何が提供出来るんですか?アナタだけが提供出来る、父親としての行動や物品って、何ですか?』


《それは》

『まだお若いんですし、良いんですよ。さ、ダンジョン攻略の為、民の為にしましょうね』


 私は、いえ私も、死に際を良く覚えています。

 獣として最高の戦いをし、死んだ。


 全く後悔は無かったんですが、人化したからなのか、以前の私達とは少し考えが変わった。


 居を構え、子を成したい。

 コレが、理性や知能なのか、と。


 私達四大魔獣は、番う相手も無く、だからこそなのか戦う事だけが全てだった。


 戦い、倒し、食らう。

 それだけだった。


 けれど今は違う。


 子を成したい、育てたい、と。


《はぁ、もう、無理です》

『では、コレで最後で』


 バロンやルフは勿論、エキドナも私も。

 子を成し、育ててみたいのです。


 この世界で、この魔王の治める国で。

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