20 お土産品と勇者。
そして四大魔獣を改めて集め、話し合いとなったんだが。
《ええなぁ》
《確かに》
『いえーい』
『少しウチも改良しておきましょう』
「確かに神殿の意味も生まれたが」
《ええやないですか、なんならウチらも欲しいわな》
《確かに》
『良いでしょー』
『では我々の神殿にも意味を、宜しくお願い致しますね』
「構わないが、だけで良いのか?」
《あぁ、番の事でっしゃろか、ワシらは》
《もう既に居るんだが》
『良いなぁ』
『では可愛い子でお願い致します』
「神官は」
《あぁ、せやせや、そこはお願いしますわ》
《あぁ、だな》
『やっぱ必要だよねぇ』
『ですね』
なら先ずは、サラタンか。
『あの、鈴木さん、向こうで詳しく話を詰めたいんですが。良いですかね』
「あぁ、構わない」
鈴木さんを呼び出した理由は、四大魔獣の事だけじゃないんですけど。
先ずはコレから。
『エキドナもですが、サラタンも複数父性。複数父性とは、お腹の中に複数の子種が存在し、育つ事を言います』
「なら」
『バロンとルフですね、バロンも複数を相手にしますが、ルフはお相手が死ぬまで1人だけだそうです』
「1人、となると人種なのか」
『長命種、ダークエルフだそうです』
「あぁ」
『大丈夫ですよ、複数父性も一時的なモノだそうです。分割して産み、ゆっくり子育てするそうですから、意外と蛇も短期間ですが子育てをする種も有るんですよ』
「成程、だがサラタンの場合は」
『蟹の性質も存在していますから、同じく蟹も子育てをする種が居ます、人と同じだけ子育てする予定だそうです』
「そうか」
『ふふふ、魔王様も大変ですね』
「俺にその度量は無いと思うんだが」
『自負されるよりはマシですよ、我こそは勇者だ、魔王だなんて』
「とうとう出たのか」
『はい、勇者を自称する者が現れたそうです』
僕らが最も懸念していた事が起きてしまった、それは新しい勇者の出現。
魔王が居るとなれば、当然勇者も存在する。
その概念が固定化されたのか、最近になって現れてしまった。
「それで」
『魔王を倒す!と息巻いているそうで』
「はぁ」
『そこで幾つか案が有るんですが、正直、成功するかどうか』
「どんな案なんだろうか」
『魔王の称号を他の者に』
「いや、それはかなり危険なので避けたい」
『それか、倒される直前、魔王の称号を一時的に外す』
「出来れば、外したままが良いんだが」
『申し訳無いんですが、魔王だからこそ四大魔獣が人化出来ている可能性も有るんです。しかも竜人達への祝福が解除される可能性も有るので』
「はぁ」
『大変心苦しいんですが、最悪は、捻じ伏せて頂くしか無いかと』
「俺が倒される利は無い、か」
『再び力こそ正義となった世では、やはり強大な力を持つ者が居てこそ、治安維持も可能ですから』
「説得は、難しいんだろうか」
『はぃ、正直、かなり真っ直ぐな方だと予想されていますので』
「正直、そうした者こそ、山本君が弱点になりそうなんだが」
『ですよね、分かります、正論でボコボコにして自殺にまで追い込めそうですし』
「君も、そう思っているのか」
『独特の殺気と言うか、危うさと言うか、今はかなり落ち着きましたけど。はい、彼はかなり強い芯の持ち主ですよね』
「だからこそ、魔王になって欲しいんだがな」
『相当な理由が無い限り、難しいかと』
「つまり、可能は可能なんだな」
『鈴木さんが窮地に陥り、彼が魔王を継ごうと思わない限り、難しいでしょう』
「はぁ、俺に演技は無理だしな」
『はい、そうなると本当に死に掛けるか死ぬか。ですが、生きている限り、山本君に見付かる可能性は高いかと』
「俺が死ぬ時こそ、魔王の代替わり、か」
『はい』
そして、代替わりが行われず、最悪の道を進んだ場合。
世界は再び混沌の中に存在する事になるだろう。
四大魔獣は勿論、七大竜、そしてダンジョン。
こうした要因を考えれば、魔王を消す事は却って混乱を招く事になる。
なのに。
勇者だからこそ、バカなんだろうか。
いや、真っ直ぐなんだろうか。
「1度、俺が鈴木として赴こうと思う」
『分かりました』
目の前には、伝説の勇者、鈴木さんの霊が。
《は、始めまして》
「初めまして、鈴木です。早速ですが、魔王とはどの様な者だと考えているんだろうか」
《世界を悪い方向へ勧める、悪者だ、と。鈴木さんを倒して、ダンジョンを生やし、世界を混沌に導いたのも》
「もし、それが魔王では無く、他の者のせいだったならどうする。悪意無き存在が魔王を生み出し、ダンジョンを生み出したなら、どうする」
《えっ》
「誰が、魔王がダンジョンを生み出したと言ったんだ、その正しさを誰が証明した」
《この国の、神官だって人とか、王様だって人が》
「どうして彼らが嘘をついていないと分かる、どう判断したんだ」
《それは》
『ええい!惑わされてはいけませんぞ!彼は勇者鈴木を騙る悪しき亡霊!消え去れい!』
「俺が悪霊の証拠を出せ、呈示してみろ」
『なっ、何故だ、降霊の術は確かに解いた筈』
「俺は生霊だ、かの地で未だに眠る鈴木、嘗て世界を魔獣の脅威から遠ざけていたが。お前達に」
鈴木さんが話している最中に、術師が杖を鈴木さんに振り下ろし。
『だとして!やはりアナタは悪霊と化した!』
「お前達が俺を追い詰めた、追い遣った事すら隠すか」
鈴木さんの言葉を掻き消そうと、術師は杖を更に振り回し続け。
《あの、追い詰めたって》
『違います!彼は狂い』
「獣人に手を出したとの虚偽の報告を使い」
『黙れ!』
「こうだ、俺の手助けが要らなくなり」
『消えろ!』
「どうする、お前はコレでも」
『忌まわしき悪霊め!』
「この国を信じるのか」
『悪霊め!消え去れ!妄言を吐く悪霊めが!』
鈴木さんの霊は困った顔をしながら、降霊術師が振り回す杖を避け、天井付近へ。
《あの、暴れてるワケでも無いですし、1度ちゃんと》
『お黙りなさい!専門家に任せるのです、この様な悪霊の』
「本当に話がしたいなら迎えを寄越す、じゃあな」
迎えてって、一体。
『全く。申し訳御座いません、どうやら魔王の邪魔が入ったに違い有りません、あの様な勇者を騙る低俗霊を呼んでしまい』
《あの、もし、迎えが》
『いけません!きっと魔王の手下です!』
《でも、もしかしたら本物の》
『確かに我々を恨んでいるかも知れませんが、元は他の獣人の虚言に乗せられた事、和解案を提示しようにも拒否され』
《なら、今回》
『なりません!それこそが魔王の手口なのです、時に懐柔し甘言と諫言を弄する、まさに卑怯な手口を使うのだと我々は聞いております。騙されてはなりませんぞ、アナタは勇者様なのですから』
どう聞いても、逆に、自己紹介にしか聞こえなかった僕は。
もう既に魔王か鈴木さんに、洗脳されてしまったとでも言うんだろうか。
うん、ココ逃げ出そう。
「はぁ」
「お疲れ様です、魔王様」
「お疲れ様です鈴木さん、相変わらずですか向こうは」
「あぁ、山本君も行った事が有るのか」
「ですね、如何にクソなのか、良く分かりました」
「ココを知れば、皆さん喜んで来ると思うんですけどね」
「アニスさん、一斉に移民に来られたら大変なので、暫く落ち着くまではコレで良いんですよ。区画整理もですけど、住処だけ出来ても不便になりますから」
「それこそ魔王様の力で何とかなりません?」
「アニスさん、魔王を何だと思ってます?」
「何でも出来る人」
「人なのか」
「だって姿形は私達と殆ど同じ、それに話せるし、意志も有る。だから何でも出来る、便利な人」
「まぁ、それで良いか」
鈴木さんがそれで良いなら。
「ですね。じゃあ、使いを、どう出しましょうか」
「それなんだが、ルフに行って貰うのはどうだろうか、見た目は日本人だった。白い八咫烏の姿を見せたら、少しは何か考えてくれるんじゃないか、と」
「あぁ、なら僕も一応同行します、隠匿の魔道具が出来上がったんで」
「そうか、だが危なくなったら逃げてくれ」
「はい」
あんな国、消し飛べば良いと思う。
けれどココにいきなり悪人が現れるよりはマシ、ある種の必要悪としての存在を確立しつつある国。
あんまり勇者が正義感を振り翳してもアレなんで、様子見もしないとですしね。




