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18 鑑定スキル。

《や、山本君、か、顔に何か、い、悪戯描きが》

「あぁ、俺の鑑定スキルと似てますね」


 山本君の顔には、好きって。


 何が、何を、誰を好きなのか。

 でも、コレを言うと、山本君の気持ちに踏み込んでしまう事になる。


 コレ、制御が。

 出来ない、切れない、強制自動発動だ。


《こ、コレ、こま、困りますね》

「あぁ、俺のは見てくれて構いませんよ、隠す事も何も無いですし」


《で、でも、そ、その顔に》

「何て書いてありますかね」


 意地悪だ。

 あ、小さく左頬に意地悪って書いて有る。


 有るんだ、自覚が有るんだ山本君。


《い、いー意地悪だって、ココに、ち、小さく》

「後は何が書いてありますかね」


 好きって。


《そ、そ、れ、もしかして、み、見間違いかもなので》

「試しに言ってみてくれないと判断のしようが無いので、言って貰って良いですかね」


《こ、コレ、外して下さい、こ、このスキル》

「何て書いて有るか言ってくれたら良いですよ」


《い、意地悪》

「他には無いですか?」


 あぁ、どうしよう、山本君はこんな私を好きだなんて。


《こ、この容姿は、か、借り物で》

「それなんですけど、前世を見れる魔道具もドロップしたんですよ、神殿で」


《ひっ》

「手を触れて念じないと見れないので、大丈夫ですよ。もし諦めて欲しいなら見せて下さい、俺に」


 もう会えなくなるのは、寂しい。

 どもりの事を指摘しないでいてくれるし、いつもは意地悪じゃないし、居て楽だし。


 でも、楽なのは、鈴木さんもそうだし。


 けど、鈴木さんには相手が居るから、メリッサさんと田中さんを心配させない為にも。

 嫉妬させない為にも、あまり2人きりで居るのは控えるべきで。


 でも、鈴木さんなら容姿を気にしないだろうし。


 そうか、先ずは鈴木さんに容姿を見て貰えば良いのか。

 うん、見て貰おう。


《すすす、鈴木さんに、先ずは、見て貰おうかと》


「分かりました、お願いしてみますね」


 ガッカリしてる。

 あぁ、好きだって言うかと期待してくれたんだ。


 好きは好きですよ。

 でも、ガッカリされるのは嫌だから。




「一筋縄ではいかない、か」

「ですね、かなり押したんですけど、どうしても前の容姿に自信が無いみたいで」


 神殿ダンジョンにて、スクロールと魔道具がドロップしたんだが。

 あまりにも山本君の望む品物だった為、与えたのはダンジョンの精霊なのか世界ちゃんなのかと、考え込んでしまった。


 だが使ってみない事には始まらない、となったんだが。


「一先ずは、試しに行くか」

「ありがとうございます」


 内々に、内密に。

 以前なら、そうした行動には若干の罪悪感を感じていたんだが。


 コレは魔王適性なのか、メリッサ達に黙って行動する事に、罪悪感の欠片も無い。

 そも、コレは林檎さんと山本君の為の秘密、悪い事では無いからか。


《あ、す、鈴木さん、どうも》

「構わない、俺も容姿に自信が無くてな、蘇って直ぐに金髪碧眼になったんだが、結局はこのままだ」


《べ、別に鈴木さんは、わ、悪くはない、かと》

「優しいな、冴えないおっさんと罵られたんだがな、前のに」


《死ねば良いのに》

「かなり苦労してるらしいんで、寧ろ俺はその方が良い、俺のせいで死んだと祟られても迷惑だしな」


《あぁ、確かに》


「で、見ても構わないだろうか」

《あ、はい、どうぞ》


 コレは、寧ろ脈アリだろう山本君。

 俺には容姿を気にせず、山本君には気にし、緊張もする。


 山本君は、気付いているのかどうか。

 いや、まぁ良い、コレで容姿が。


 コレは、どう判断すべきなんだろうか。


「目が、見えなかったのか」

《はい、先天的なので、転生するまでは。それに耳も、少し》


「折角見えていたのに、嫌なものを見せたな」

《いえ、怖くて目を瞑ってたので天井しか見てませんから、大丈夫ですよ》


「コレは、確かに気にするな」

《違い、ますからね》


「だが」

《今の、この容姿の記憶のままで、居て欲しいんです。でも、いつか、もしかしたら魔法が解けるんじゃないかって不安で》


「俺は本当に」

《今、凄い幸せだから。目が見えるし、景色は綺麗だし、私の容姿も綺麗、魔法に掛けられたみたいで。だから、何か欲張ったら、魔法が解けちゃうかも知れないから。私は、良い事とか特にしなかったから、山本君は、私には勿体無いから》


「その気持ちは俺にも分かるが」

《見合う様に頑張る気も無くて、だから、余計に勿体無いなと思って。もっと良い人が、居るだろう、来るかも、なので》


「傷付きたくは無いものな」

《そう言う、お付き合いとか、無かったので》


 コレは、困った。

 確かに容姿に不安を抱える気持ちも分かる、だが魔法で気持ちを縛るワケにもいかない、そしてココには常に人が流入するのも事実。


 だが。

 いや、そうか、それこそ魔法か。


「加護を、授けるつもりなんだが」


《加護を?》

「何が有ろうとも、山本君にはその姿に見え続ける加護、だ」


《でも、それだと、山本君を騙すみたいで》

「それか、山本君の記憶を消すか、だ」


《前の容姿を見せた記憶を、でも完全に消せるんですか?》

「既に実験済みだ、物理的にその部分だけが消える。精密さが要求されるらしいが、なんせ俺は魔王だからな。どうする林檎さん、真実を確かめてみないか、リスク無しで」


 恋愛経験値0の俺が出せるのは、この位だ。

 せめて、経験値がもう少し有れば。


《お、お願いします》

「分かった」




 正直、確かに不安を抱く筈だとは思った。

 けれど、嫌悪感を抱くかと問われると、それは決して無い。


 ただ。


「見慣れる環境でも無かったですし、不安になる気持ちも分かりましたし。幾ばくかの同情心は湧きますね、苦労したのだろうな、と」


《同情を嫌う人も居ますけど、同情って、思い遣りだと思うんです。痛くないのか、不便は無いか、寧ろ気遣わせてしまってる事が心苦しかったり。でも、共感してくれるから、思い遣ってくれてるので。ど、同情は、問題無いです》


「少し舐めてました、元がコレなので、その落差を心配しての事なのかと。でも嫌悪は無いですし、今コレで不満が無いのなら、問題無いとしか思わないんですが。それが本心だと、見えてますかね」


《でも、似た子が生まれたら、きっと、私が嫌になるかも。遺伝しなくても揉めるんです、夫婦で、どちらのせいだって。そして長く関わる母体が責められる、お母さんは何も悪くないのに、偶々なのに》


 苦労は、家庭の事にまで及ぶ。

 だからこそ慎重で、万が一を気にする、実際にのそ被害者となったのだから。


「顔が見えないか分からないか、そうした姿を逆に好む相手か、どれなら受け入れ易いですか」


 どうして女鈴木さんに話を聞けと言ったのか、ココでやっと真髄に辿り着けた気がした。

 問題は、どうしたら林檎さんが受け入れられるか、俺がどれだけその願望に添えるか。


《忘れて、欲しいです。でも、この姿に戻っても、似た子が生まれても、変わらずに居て欲しいです》


「もう、そこまで考えてくれてるんですね」




 山本君の顔には、嬉しいの文字がいっぱいで。

 何を、どう返せば良いのか。


《あ、あの、も、もしも、の、事で》

「良いですよ、記憶を消してみたかったのも有りますし、鈴木さんと鈴木さんの能力も信じてますから」


《ででで、でも、脳細胞を》

「酒や薬物より安全ですよ、その極一部で問題が片付くんですし、佐藤さんも居ますし」


《そそ、そんなに、何が》

「確かにどちらかと言えば今の容姿は好ましい方だとは思います、美麗で儚げですから。でも中身です、驕り高ぶらず清貧で優しい、清らかさだとか正しさ、それこそ直感的な所も良いと思ってます」


《でで、も、出来ない事が多いから、そ、そこを気にしてるだけで》

「気にしない人も居ますし、優しさから秘密を守れる気高さって、誰もが持ってるワケじゃないんですよ」


《でも、こ、困って無いから》

「自分の立場を理解している、恵まれている事を理解して欲張らない、我慢強さも持ってるじゃないですか」


《だだ、だから、それは》

「謙虚で控え目って、美点だと思うんです、我慢が利かない人が嫌味で貶す事も有りますけど。逆に見栄っ張りで強欲って、それこそ大罪じゃないですか、だから良い事だと思うんですよね。謙虚で控え目って」


《な、そ、今は、何でも良く見えてるだけで》

「良い点は好意に関係無く評価する主義ですし、良く見えるから好きで、好きだから良く見えるんだと思います」


《で、でも、欲が無くて可愛くない、とか》

「そう言う人ってどっちでも嫌味を言うんですよ、何か欲しがれば欲張りだって、自分の意に沿わないと文句を言うクズの事は一旦忘れましょう。俺を知って、もっと理解して下さい」


《ぁ、はぃ》


 そうだ、言われてみれば確かに、そうした人達と山本君は全く違う。

 思い込みじゃなくて、確信が有る。


 もしかしたら鈴木さんより真面目で、優しさは、半分位。

 それは他人への優しさ、きっと私には優しくしてくれる。


 それと、意地悪。

 少しだけ、私に意地悪、好きだから意地悪。


 私、竜に生まれて良かったのかも。

 前みたいに、感覚で分かるから、コレで良かったのかも知れない。




「何とか、なったか」

《は、はい、ありがとう、ございました。すみません、ご迷惑をお掛けして》


「いや、幸せになってくれるのが何よりだ」


《す、鈴木さんは、お父さん、みたいですよね、理想的な、優しいお父さん》


「初めて、言われたんだが」

《ま、前の世界で、し知り合いに居たら、い、言うと思います》


「その、具体的に良いだろうか、理想とする父親像について」

《わ、私は、ですけど。直ぐに怒鳴らない、怒らない、ワケの分からない事で急に不機嫌にならない。ちゃんと話を聞いてくれて、こ、こうして時間を割いてくれて、嫌味を言わない》


「君の父親は、相当だったんだな」

《はぃ、山本君にも言われました、クソ野郎だって。ででも、私みたいな子の父親は、皆、あぁなのかなって。ほ、他には優しいんです、た、他人が居ると優しいので、わ、わた、私が、悪いのかなって》


「君に問題が有るとは全く思ってもいないんだが、渡辺さんと話す気は無いんだろうか」

《そ、それも、はい、提案されて。間違いを修正すべきだって、わた、私も、そう、思います》


「やはりこの外見には緊張するか」

《だだって、金髪碧眼って、まるで、す、鈴木さんじゃない、みたいで》


「成程な」


 緊張するかどうかで、どもりが出るかを確認する為、変身していたんだが。


《あぁ、そうです、コレが鈴木さんです、嫌かもですけど》

「いや、馴染みが良い気はする。あの姿はどうにも居心地が悪いんでな」


 出ないと言うか、かなり落ち着く。

 コレも家族の、いや父親のせいだろうな。


 女性相手だと、少し拙さが出る程度で、どもりとすら言えないと田山さんからも聞いているしな。


《な、んの、あぁ、私が緊張するかどうか、ですか》

「勘が良いのと頭が良いのと、果たして違いは有るんだろうか」


《それも、山本君が、言ってました。それで、言われたのが、AIみたいだ、って》

「あぁ、公式がコッチには分からないが正解に辿り着くからな、AIは」


《ででも、私は後から公式が分かるんです、最初に答えが分かって後から理屈が分かる》

「不便は無いか?」


《いえ、ありがとうご、あの、どう、お付き合いって、するんでしょうか》


「実は、俺には経験値が殆ど無いんだ」

《あぁ、あ、すみません。誰が的確、でしょうか》


「そうだな、あぁ、いっそ女子会を開いたらどうだろうか。人でも個人差の有る問題、竜に教えるともなれば情報開示は容易いだろう」


《女子会、した事、無いです》

「なら、してみると良い、高橋さんが上手らしい、きっと馴染み易くなる筈だ」


《た、高橋さん、リア充》

「あぁ、だな」


 こうして林檎さんに関わる事で、改めて考えさせられた。

 父親として、どうあるべきか。


 子を成しておきながら、考えていなかった。

 任せ過ぎだ。




『理想の父親像、ね』

《それは私達が築き上げる事かと、スズキ様はスズキ様のままで構いません、既に立派な方でらっしゃいますから》


「その評価は嬉しいんだが、俺にも何か出来る事や、変えるべき事が有れば」

『なら最初から言うよね、今更、後になって言うとか想像力が足りないバカのする事だし』

《既に私達はスズキ様を理解している、とは思いますが、寧ろ何か私達に足りない点が有れば》


「いや、不満も不足も無いんだが」

『それもそれで、少し色気が足りないかなとは思うよね。もう少し仲良くする時間が欲しい、とか言われたいし』

《お気遣い頂いての事だとは理解してはいるつもりですが、ですね》


「すまん、少し2人の事で気が散っていたんだ」

《お優しいですからね、スズキ様は》

『しかも少し不器用そうな山本君と繊細そうな五ノ竜ちゃんだものね、分かるよ、周りは危なっかしいと思って当然だよ』


「本当に、一時はどうなるかと」

『周りの子供にも優しい父親って良いと思うよ、自分の子だけが可愛いって、何か凄く狭量に感じるし』

《既に思い遣りを示してらっしゃいます、父親としては既に十分かと、スズキ様は決して慢心なさいませんから》


「する時が出るかも知れない」

『だとしても素直で真面目だから問題無いよ、僕らが注意すれば良いだけなんだから』

《ですね》


『さ、次は水辺のダンジョンだね』

「あぁ、やはりダンジョンの精霊は意志を持ち始めているんだな」

《コチラが意志を持っているであろう、と、そうした外部の考えが影響しているのではと》


「だからこそ、あの者は俺達に伝える役目を担っていたのかも知れないな」

『世界ちゃんに意志は有るか、だね』

《あまり苦しまないで頂けると助かりますね、放棄されてはそれこそ無法地帯となるでしょうから》


「その為にも、善行を尽くして欲しいんだが」


『はいはい、一先ずは休んで、じゃあねメリッサさん』

《はい》


「すまなかった」

《いえ、ですが残念な事に浮気を疑ってはおりません》


「残念さより寧ろ安心感だな」

《はい、心得ております、何よりスズキ様を信じておりますから》


「この子にも、相手が出来るだろうか」

《勿論です、良い子に育つ以外の術は有りませんから》


「無いのか」

《はい、良き見本が御座いますから》


「元勇者で、魔王の子」

《情勢も概念も日々刻々と変わっております、大丈夫、例えどんなに転移転生者が現れようとも。精霊も神もいらっしゃるのですから》


 ダンジョンが人里に干渉する事無く、治世も安定し、平和な魔王国。

 日々移民は増え続け、作物も順調に育っている。


 片やダンジョンに浸食された国は、ダンジョンだけを頼りに、特権階級だけが潤いつつある。


 愚かですね、特権階級の果ては滅び。

 既に幾度も、数多の国が滅んでいるのですから。


 全ては共栄共存。

 嘗ては人種が居なかったこの世界に、共栄共存は不可欠なのですから。

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